松宮慎治の憂鬱

タイトルは友人が考えたもので,某アニメのことはわかりません。sanjyuumatsu@gmail.com

東京学芸大学長ブログ「更新講習をめぐる不可解な議論。」に関連して

次の記事を拝読しました。
学長室だより「更新講習をめぐる不可解な議論。」
https://www.u-gakugei.ac.jp/president/news/2021/06/post-31.html
以下,引用です。

そうして行ってきた講習は、受講生の評価も非常に高いものです。更新講習は、受講者による事後評価が義務づけられています。アンケート方式で行い、その書式も決められています。昨年は、コロナ禍で、eラーニング講習だけでしたが、全体の評価を見ると、4段階評価の上2つの「よい」と「だいたいよい」を合わせた割合は、必修講習で96%、選択必修講習、選択講習ともに94%でした。全国の結果は、文科省のホーム・ページで公表されています。令和元年度の結果では、「よい」と「だいたいよい」を合わせた割合は、必修講習で95%、選択必修講習、選択講習ともに96%となっています。回答した受講生数は、延べで62万人です。この規模でこの結果というのは、きわめて高い評価というべきでしょう。
https://www.mext.go.jp/content/20200803-mxt_kyoikujinzai01-000009165_1.pdf

以上のとおり,更新講習の受講者による事後評価が高いことは,事実です。
この論点について,教員免許更新制小委員会(第1回,令和3年4月30日(金曜日)開催)では,委員から,

戸ヶ﨑委員「概ね高い評価を得ている、とありますが、これが客観的で正しい評価と受け止めていいのか疑問」
貞廣委員「戸ヶ﨑委員から、実は評価はリップサービスなんじゃないか疑惑の御指摘がございました。私もそう思います。」

と,妥当性が問われていました*1

わたしは,受講者による事後評価は,ある程度妥当だとみなしてよいのではないか,と思っています。
理由は2つあります。
第1は,受講者評価では,記入者の特定が禁じられていることにあります(「記入者が特定される様式にはしないこと」,文部科学省総合教育政策局教育人材政策課(2020)『免許状更新講習の認定申請等要領(令和3年度開設用)』,p.43)。
これは,定型部分は様式が決められているが,非定型部分は大学の裁量が認められている(独自の調査項目の設定も許容されている)ことに対応した条項です。
もし,記入者が特定されうる様式なら,履修(修了)認定に影響を与えるかもしれないと考えて,悪い評価は記入しづらいかもしれませんが,そのようにはなっていません。
第2は,本制度への期待が,初めから低いであろうことにあります。受講者の方は,お忙しい中,自費でお越しになるので,参加段階のモチベーションは必ずしも高くありません。しかし,みなさま勉強熱心であることもあって,実際に参加してみると,「意外によかった」と思っていただけることが多いと思われます。つまり,当初の期待との差で,評価が上振れしている可能性が高いと考えられます。

こうした議論は,大学における学生による授業評価アンケートに似ています。
授業評価アンケートの文脈では,
・得られた結果が意味する内容は,授業評価結果から自明ではなく,授業科目の位置づけや授業目標,実践内容を省察することで初めて明らかにされる
・場合によっては,評価点の高さは,必ずしも授業実践の成功を意味するとは限らない
・授業評価結果は授業をふり返る資料に過ぎず,改善の必要の有無や改善策は,学生との相互作用による結果として自己省察的に教員が判断する
といったことが指摘されています(澤田 2020*2)。

この授業評価アンケートの知見をあえて更新講習に引き寄せれば,受講者の評価が高いことの意味を,そのまま制度の評価(良しあし)に紐づけてしまうことには,問題も多いと言えそうです。
更新講習に対する受講者の評価をめぐる研究は,乏しいながらも,ないわけではありません。
たとえば,伊勢本ほか(2017)は,特定の大学の受講者に対して行われたアンケート結果をもとに,大学ならではの批判的視点の提供が,受講者から評価されうることを示唆しています*3
このように,今後の展開を検討することと並行して,先行研究を渉猟しながら,内容の省察をもくろむことが必要かもしれません。

*1:教員免許更新制小委員会(第1回)議事録https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo16/002/gijiroku/1412213_00001.htm

*2:,澤田忠幸(2010)「学生による授業評価の課題と展望」『愛知県立医療技術大学紀要』vol7, no.1, pp.13-19

*3:伊勢本大・山田浩之・周正(2017)「教員免許更新制に教員は何を求めるのか」『教育学研究紀要(中国四国教育学会編)』63(1), pp.314-323