松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

東京学芸大学長ブログ「更新講習をめぐる不可解な議論。」に関連して

次の記事を拝読しました。
学長室だより「更新講習をめぐる不可解な議論。」
https://www.u-gakugei.ac.jp/president/news/2021/06/post-31.html
以下,引用です。

そうして行ってきた講習は、受講生の評価も非常に高いものです。更新講習は、受講者による事後評価が義務づけられています。アンケート方式で行い、その書式も決められています。昨年は、コロナ禍で、eラーニング講習だけでしたが、全体の評価を見ると、4段階評価の上2つの「よい」と「だいたいよい」を合わせた割合は、必修講習で96%、選択必修講習、選択講習ともに94%でした。全国の結果は、文科省のホーム・ページで公表されています。令和元年度の結果では、「よい」と「だいたいよい」を合わせた割合は、必修講習で95%、選択必修講習、選択講習ともに96%となっています。回答した受講生数は、延べで62万人です。この規模でこの結果というのは、きわめて高い評価というべきでしょう。
https://www.mext.go.jp/content/20200803-mxt_kyoikujinzai01-000009165_1.pdf

以上のとおり,更新講習の受講者による事後評価が高いことは,事実です。
この論点について,教員免許更新制小委員会(第1回,令和3年4月30日(金曜日)開催)では,委員から,

戸ヶ﨑委員「概ね高い評価を得ている、とありますが、これが客観的で正しい評価と受け止めていいのか疑問」
貞廣委員「戸ヶ﨑委員から、実は評価はリップサービスなんじゃないか疑惑の御指摘がございました。私もそう思います。」

と,妥当性が問われていました*1

わたしは,受講者による事後評価は,ある程度妥当だとみなしてよいのではないか,と思っています。
理由は2つあります。
第1は,受講者評価では,記入者の特定が禁じられていることにあります(「記入者が特定される様式にはしないこと」,文部科学省総合教育政策局教育人材政策課(2020)『免許状更新講習の認定申請等要領(令和3年度開設用)』,p.43)。
これは,定型部分は様式が決められているが,非定型部分は大学の裁量が認められている(独自の調査項目の設定も許容されている)ことに対応した条項です。
もし,記入者が特定されうる様式なら,履修(修了)認定に影響を与えるかもしれないと考えて,悪い評価は記入しづらいかもしれませんが,そのようにはなっていません。
第2は,本制度への期待が,初めから低いであろうことにあります。受講者の方は,お忙しい中,自費でお越しになるので,参加段階のモチベーションは必ずしも高くありません。しかし,みなさま勉強熱心であることもあって,実際に参加してみると,「意外によかった」と思っていただけることが多いと思われます。つまり,当初の期待との差で,評価が上振れしている可能性が高いと考えられます。

こうした議論は,大学における学生による授業評価アンケートに似ています。
授業評価アンケートの文脈では,
・得られた結果が意味する内容は,授業評価結果から自明ではなく,授業科目の位置づけや授業目標,実践内容を省察することで初めて明らかにされる
・場合によっては,評価点の高さは,必ずしも授業実践の成功を意味するとは限らない
・授業評価結果は授業をふり返る資料に過ぎず,改善の必要の有無や改善策は,学生との相互作用による結果として自己省察的に教員が判断する
といったことが指摘されています(澤田 2020*2)。

この授業評価アンケートの知見をあえて更新講習に引き寄せれば,受講者の評価が高いことの意味を,そのまま制度の評価(良しあし)に紐づけてしまうことには,問題も多いと言えそうです。
更新講習に対する受講者の評価をめぐる研究は,乏しいながらも,ないわけではありません。
たとえば,伊勢本ほか(2017)は,特定の大学の受講者に対して行われたアンケート結果をもとに,大学ならではの批判的視点の提供が,受講者から評価されうることを示唆しています*3
このように,今後の展開を検討することと並行して,先行研究を渉猟しながら,内容の省察をもくろむことが必要かもしれません。

*1:教員免許更新制小委員会(第1回)議事録https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo16/002/gijiroku/1412213_00001.htm

*2:,澤田忠幸(2010)「学生による授業評価の課題と展望」『愛知県立医療技術大学紀要』vol7, no.1, pp.13-19

*3:伊勢本大・山田浩之・周正(2017)「教員免許更新制に教員は何を求めるのか」『教育学研究紀要(中国四国教育学会編)』63(1), pp.314-323