松宮慎治の憂鬱

タイトルは友人が考えたもので,某アニメのことはわかりません。sanjyuumatsu@gmail.com

SPSS → Stata → Rへの移行期間

具体的には次のとおりでした。

2014年:SPSSを使い始める
2016年:修論SPSSを使う
2017年:Stataを使い始める
2018年:Stataで論文を書く
2019年:Rを使い始める
2020年:Rで論文を書く

実際には区切りはグラデーションです。
たとえば,SPSSを使いながらStataを使い始め,Stataで分析しながらRへの移行を試みる,というように。
ただ,こうしてみるとSPSSからRに移行するまで6年もかかっていることに気づきます。
この理由は,1つには,SPSSやStataではできない分析をするまでに,時間がかかっていることにあるでしょう。
何らかの統計分析活動をしていくときに,「メニューやコマンドがないからできない(したがってあきらめる)」ということにはなりません。
SPSSやStataを使っていると,自ずと行き詰まるタイミングが出てきます。
SPSSやStataでは,Aという分析ができない」というよりは,「SPSSやStataでもAという分析はできるけど,その中でXという処理を施したいが,それはできない」ということが多いです。
端的には,本当にやりたいことができないことがままあるのです。
SPSSは心理統計に,Stataは計量経済に開発の思想が寄っています。
たとえば,SPSSはマルチレベルモデリングが得意,Stataはパネルデータの取り扱いが得意,といったように。
わたしの理解では,マルチレベルモデリングもパネルデータも,階層構造を仮定しているという意味で同じと言えますが,ソフトの上では異なるもののようになっているのです。
ですので,思想的に狭間のような分析を試みようとする場合,「帯に短し襷に長し」という状況がよく発生します。
わたしの研究分野である高等教育論は対象学問であり,方法論を別の分野から学習・摂取し,借りてくることがほとんどなので,なおのこと困るケースが自然と増えます。
Rであればできないことがほぼありません(すくなくとも自分のレベルでは)ので,最終的な移行は常に視野に入れていました。
が,習慣というのは恐ろしく,思考の切り替えが必要で,そのために時間がかかったということです。

Rを使う=プログラミングを行う,ということに等しいので,技術的なことを気軽に質問できる環境が大事です。
わたしは,Tokyo.Rというスラックのチャンネルに大変お世話になっています。
Join Tokyo.R on Slack!
もちろん,大学院のメンバーや先生に伺うこともできますが,彼らとて1ユーザですから,「使い方」を質問するのに時間を奪うのは失礼だと思っています。
逆に,分析の結果や解釈といった,ドメイン知識とRの分析技術との紐づけが必要な場面でこそ,色々一緒に議論できると助かるわけですから,単なる「使い方」に労力を割いていただくのは,その意味でも悪手です。
その点,上記のチャンネルは技術的な情報交換に特化しているので,とてもありがたいです。

なお,SPSSやStataには,高価であるというデメリットもあります(ご承知のとおり,Rは無料)。
GUIが優れているのは事実ですし,「できないことがある」といっても,SPSSやStataでもかなりのことは(当然ですが)できます。
が,高価なのは問題です。
SPSSについては,安価な院生版もありますが,院生でないと利用できませんし,院生であったとしても期間限定です。
ただ,ここ数年,jamoviというとんでもない黒船がやってきました。
Rをベースにして開発された統計ソフトですが,SPSSライクな見た目をしており,いってみれば「無料のSPSS」です。
わたしはほとんど使ったことがないから断言はしにくいのですが,jamoviによってSPSSは不要になるのではないでしょうか?
唯一,英語版しかないことがネックかもしれませんが,日本語の解説本も出版されました。

まとめると,統計分析をこれから始めようという方は,

①高度な分析まで視野に入れるなら,いきなりRを使い始める
②どこまでキャッチアップするかわからないなら,とりあえずJamoviを使い始める

の2択でいいのではないかと思っています。
また,新たなソフトをインストールしたくない,Excel上で完結させたい場合は,清水裕士先生が開発されたHADももちろんおすすめです。
norimune.net

今さらながら,2つの論文のStataのコマンドをアップしました。

標記のとおりです。
最近は分析にはRを使っており,Stataは整形(マージ等)にのみ使っています。
RスクリプトGithubに載せていこうと思っているので,その前にこれまでのStataのコマンドを残しておこうと思いました。

・Stataコマンド「私立大学等経営強化集中支援事業は経営を改善するか」
・Stataコマンド「私立大学の教職課程における「センター組織」の実際」
松宮 慎治 (Shinji MATSUMIYA) - 資料公開 - researchmap

令和3年度教職課程認定基準等の改正に関する事務担当者説明会を受けて

本日14:00-16:00,標記会に参加されたみなさま,おつかれさまでした。
YouTubeライブに,2,000名以上が参加されていましたね。
社会貢献のため&自身の振り返りのために,気づいた点を簡単に記しておきます。

1. ICT事項科目の改正関連

おおむね,どの大学でもすべき仕事としては,次の4つが挙げられます。

① 学則,履修規程等の変更(66-6のカテゴリ名称&含む事項の名称が変更されるため)
② 「学力に関する証明書」の様式変更(含む事項の名称が変更されるため)
③ ICT事項科目をどのように開設するか(既存科目と合わせるか,新設するか。配当年次はいつにするか)の検討
④ 以上に関連して,変更届を来年の2月末までに提出

資料では,変更届について(④),「開設」の前年度での提出を前提として,来年の2月末or再来年の2月末という選択肢が示されています。
ただ,学内規則等の改正手続きを考えると,来年の2月末の提出となる大学が多いのではないかと思います。


2. 共通開設等に関する基準等の改正

今回,

① 複数学科等間の共通開設
② 義務教育特例
③小学校課程要件緩和

の3つのポイントが挙げられました。
どれも大きな改正ですが,個人的に気になったのは①です*1
これまで,教科に関する専門的事項の共通開設は,平成22年の事務連絡(「教職課程認定基準で定める「共通開設科目」の取扱いについて」)にもとづき,「科目(区分)*2の半数まで」と規定されてきました。
この通知を踏まえつつ,2010年代の課程認定行政では,共通開設科目の取扱いは, いわゆる相当関係(「学科等の目的・性格と免許状との相当関係」)の枠組みにおいて,厳しく審査されてきたところです。
しかしながら,今回の改正により,「科目(区分)の半数まで」に加えて,「自学科等が開設する教科専門科目の合計単位数を超えない」範囲も可能となり,いずれかを大学が選択できることとなりました。

この改正によるインパクトの一例を挙げると,次のとおりです。
社会科学系の学部では,「中一種免(社会)」「高一種免(地理歴史)」「高一種免(公民)」の3つの認定が欲しいところでした。
そうしたときに,この3つの免許状の科目(区分)の並びと,学科等の専門分野の兼ね合いがあって,3つの認定はとれない,具体的には,「中一種免(社会)」に加えて,高一種免は,地理歴史か公民のいずれかの認定しかとれない,というのが2010年代の基本でした*3
実際に調べてみればわかりますが,2010年代に課程認定を受けた社会科学系の学部にあって,この3つを兼ね備えているところは,それ以前に認定を受けた学科等と比較すると,きわめて稀だと思われます。
今回の改正により,他学科等の科目を「自学科等が開設する教科専門科目の合計単位数を超えない」範囲で借りられるようになります。
よって,たとえば,「中一種免(社会)」「高一種免(地理歴史)」のみに認定を受けている学科等が,「高一種免(公民)」の認定を受けている学科等から不足部分の科目を借りてくることで,「高一種免(公民)」の認定を受けられる可能性が高まりました。

とはいえ,このような科目のいわゆる「貸し借り」は,前提として各大学内部で許容しているケースと,そうでないケースがありますので,自大学の文脈にあわせて可能/不可能を検討する必要があります。
加えて,制度的・形式的には可能性が高まったといえども,実際の可能かどうかは今後の課程認定申請の状況を見なければ,実質的にどうかは不明瞭なところもあります。

*1:もちろん,②③も小一種免においては非常に大きな改正ですが,詳しくないので,ここでは中高一種免をめぐるインパクトに限定しています。

*2:施行規則上,正確な表現は「科目」になりますが,ここでいう「科目」は個々の授業科目を指すわけではないので,それと区別するために「科目区分」と呼ぶことが多いです。

*3:たとえば事前相談の場では,「2つの山が必要だ」というような表現の指摘を受けることとなり,実質的に申請は困難でした。事実として,大学が構成する専門分野からすれば,この3つの認定を得ようとするとかなり無理のあるカリキュラムにならざるを得なかったと思います。

東京学芸大学長ブログ「更新講習をめぐる不可解な議論。」に関連して

次の記事を拝読しました。
学長室だより「更新講習をめぐる不可解な議論。」
https://www.u-gakugei.ac.jp/president/news/2021/06/post-31.html
以下,引用です。

そうして行ってきた講習は、受講生の評価も非常に高いものです。更新講習は、受講者による事後評価が義務づけられています。アンケート方式で行い、その書式も決められています。昨年は、コロナ禍で、eラーニング講習だけでしたが、全体の評価を見ると、4段階評価の上2つの「よい」と「だいたいよい」を合わせた割合は、必修講習で96%、選択必修講習、選択講習ともに94%でした。全国の結果は、文科省のホーム・ページで公表されています。令和元年度の結果では、「よい」と「だいたいよい」を合わせた割合は、必修講習で95%、選択必修講習、選択講習ともに96%となっています。回答した受講生数は、延べで62万人です。この規模でこの結果というのは、きわめて高い評価というべきでしょう。
https://www.mext.go.jp/content/20200803-mxt_kyoikujinzai01-000009165_1.pdf

以上のとおり,更新講習の受講者による事後評価が高いことは,事実です。
この論点について,教員免許更新制小委員会(第1回,令和3年4月30日(金曜日)開催)では,委員から,

戸ヶ﨑委員「概ね高い評価を得ている、とありますが、これが客観的で正しい評価と受け止めていいのか疑問」
貞廣委員「戸ヶ﨑委員から、実は評価はリップサービスなんじゃないか疑惑の御指摘がございました。私もそう思います。」

と,妥当性が問われていました*1

わたしは,受講者による事後評価は,ある程度妥当だとみなしてよいのではないか,と思っています。
理由は2つあります。
第1は,受講者評価では,記入者の特定が禁じられていることにあります(「記入者が特定される様式にはしないこと」,文部科学省総合教育政策局教育人材政策課(2020)『免許状更新講習の認定申請等要領(令和3年度開設用)』,p.43)。
これは,定型部分は様式が決められているが,非定型部分は大学の裁量が認められている(独自の調査項目の設定も許容されている)ことに対応した条項です。
もし,記入者が特定されうる様式なら,履修(修了)認定に影響を与えるかもしれないと考えて,悪い評価は記入しづらいかもしれませんが,そのようにはなっていません。
第2は,本制度への期待が,初めから低いであろうことにあります。受講者の方は,お忙しい中,自費でお越しになるので,参加段階のモチベーションは必ずしも高くありません。しかし,みなさま勉強熱心であることもあって,実際に参加してみると,「意外によかった」と思っていただけることが多いと思われます。つまり,当初の期待との差で,評価が上振れしている可能性が高いと考えられます。

こうした議論は,大学における学生による授業評価アンケートに似ています。
授業評価アンケートの文脈では,
・得られた結果が意味する内容は,授業評価結果から自明ではなく,授業科目の位置づけや授業目標,実践内容を省察することで初めて明らかにされる
・場合によっては,評価点の高さは,必ずしも授業実践の成功を意味するとは限らない
・授業評価結果は授業をふり返る資料に過ぎず,改善の必要の有無や改善策は,学生との相互作用による結果として自己省察的に教員が判断する
といったことが指摘されています(澤田 2020*2)。

この授業評価アンケートの知見をあえて更新講習に引き寄せれば,受講者の評価が高いことの意味を,そのまま制度の評価(良しあし)に紐づけてしまうことには,問題も多いと言えそうです。
更新講習に対する受講者の評価をめぐる研究は,乏しいながらも,ないわけではありません。
たとえば,伊勢本ほか(2017)は,特定の大学の受講者に対して行われたアンケート結果をもとに,大学ならではの批判的視点の提供が,受講者から評価されうることを示唆しています*3
このように,今後の展開を検討することと並行して,先行研究を渉猟しながら,内容の省察をもくろむことが必要かもしれません。

*1:教員免許更新制小委員会(第1回)議事録https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo16/002/gijiroku/1412213_00001.htm

*2:,澤田忠幸(2010)「学生による授業評価の課題と展望」『愛知県立医療技術大学紀要』vol7, no.1, pp.13-19

*3:伊勢本大・山田浩之・周正(2017)「教員免許更新制に教員は何を求めるのか」『教育学研究紀要(中国四国教育学会編)』63(1), pp.314-323