松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

高等教育基礎論Ⅱ(比較・歴史的研究)課題②イギリスの大学の財政と学生の資金

高等教育基礎論Ⅱ(比較・歴史的研究)の秦由美子先生担当回の課題第2弾です。
課題となっていたのは、教育調査第131集『諸外国の高等教育』pp.82-87.でした。



2015.4.27

高等教育基礎論Ⅱ(比較・歴史的研究)課題②

イギリスの大学の財政と学生の資金

M156296 松宮慎治

いただいた資料をもとに図表を含めた要旨をまとめました。また、その結果として理解できたことと疑問点をまとめました。

1.要旨
1-1.イギリスの大学の財政
1-1-1.大学の収入構造
 イギリスの大学の収入は政府補助金と民間資金に大別される。前者のうちもっとも大きな財源は高等教育財政審議会(HEFCs)による補助金である。このほか、研究審議会(RCs)の研究補助金、授業料補助金等をあわせて、公的資金が収入の6割を占めている。後者には、授業料、事業収入、民間財団の資金や寄付金がある。
 高等教育財政審議会(HEFCs)の補助金は、①教育補助金(funding for teaching)、②研究補助金(funding for research)、③算定外補助金(special funding)の3つからなる。教育補助金は学生数を基礎に、その専攻分野や修学形態、学位レベルや機関の特質等によって算定される。研究補助金は専門分野ごとの研究コスト、研究スタッフの構成、評価による配分によって算定される。算定外補助金は前述の2つに含まれないものを指し、特別補助金や使途指定の資本的経費補助金(earmaked capital)等がある。
 研究審議会(Research Council)の補助金は、審議会の中心的事業である科学研究の助成によるもので、その大半が大学に提供されている。助成金は各研究プロジェクトを直接対象とし、研究者に交付されるもので、プロジェクトのための設備・備品購入費、旅費、人件費などに加え、一定の間接経費(overhead cost)も含まれる。
 民間資金には授業料や事業収入、民間との研究契約や寄付による。近年、国からの補助金が継続的に減少していることから、民間活力導入政策(PFI)に基づいて民間資金を積極的に活用し、独自に財源を確保することが求められている。
 以上のイギリスの大学の収入構造を、2001年度を例にとりグラフ化すると次のとおりとなる(図1,図2*1,出典:HEFCE Higher education in the United Kingdom(Revises)(2004年1月))。
1-1-.2.予算の運用権限
 イギリスの大学は独立した法人として設営、運営されてきた歴史的経緯から、財務運用面でもその自主性が保障されている。前述の公的資金は一定の算定方法で交付されるものの、交付されたあとはその使途が教育研究である限り、ブロック・グラント(一括補助金)として自主的に使用できる。ただし、1980年代からは補助金に見合う成果と説明責任が求められるようになってきている。また、補助金の競争的要素が強まってきたことで、配分機関である高等教育財政審議会は、執行が適切かつ効率的かどうかを監視する役割を強めている。
1-2.学生の資金
1-2-1.学生納付金
 イギリスの大学の授業料はコースにかかわらず1,100ポンド(2002年度フルタイム)であるが、親の収入により授業料の免除や軽減措置がとられている。また、外国人学生(国内の学生と同等に扱われるEU諸国からの学生を除く)にはフル・コスト・フィー(教育にかかる全経費)と呼ばれる高額の納付金が課せられている(図3*2)。
1-2-2.貸与奨学金
 従来イギリスの奨学金制度は給与制のものが中心であったが、1980年代以降の高等教育の拡大によって政府の財政負担が重くなり、1990年に学生ローン(貸与奨学金)が導入され、1998年度入学者から「学生ローン」(貸与奨学金)に完全移行した。貸与の限度額は居住地域、居住の形態、学年により規定される。そのうち75%は無条件に保障されるが、残り25%は家計資力調査(means test)による親(または本人)の収入により貸与額が決定される。2002年度フルタイム入学者を例としてグラフ化すると次のとおりとなる(図4*3,出典:DfES,Financial Support for Higher Education Students in 2002/2003-A Guide)。
 ローンの返還は卒業後の4月から開始されるが、年間所得が1万ポンド(188万円)を超えるまでは延期される。返還月額はローン受給者の年間所得によって異なっており、年収から1万ポンドを差し引いた差額の9%分を年間返還額とすることになっている(図5*4,出典:DfES Student loans – A Guide to germs and condtions(2002))。
 また、1998年の貸与奨学金制度への完全移行に伴い、新しい奨学金運用体制が整備された。具体的には、貸与金の回収事業が学生ローン会社(SLC)から内国歳入庁(Inland Revenue:IR)へ移行され、内国歳入庁がその責任を負うこととなった。この理由として、新制度での事業規模の拡大と返還期間の伸長、要返還者の収入状況が把握しやすい内国歳入庁の性格の2点が指摘されている。
1-2-3.その他の奨学金
 その他の奨学金として、選抜型の大学院生に対する公費奨学金や、各地方教育当局の任意奨学金、EUによる奨学プログラム(Socrates-Erasmus)、財団による奨学金、大学自身による奨学金等が存在する。
2.理解できたこと
 いただいた資料を購読しまとめた結果、イギリスの大学の財政と学生の資金について、日本の大学との異同を中心に次の三点が理解できた。
 第一に、収入はその6割を公的資金が占めている。また、授業料等の学納金による収入が2割前後となっている。これは日本における国立の大規模総合大学の収入構造(公的資金が4割程度、学納金が1割程度)とも、私立の大規模総合大学の収入構造(公的資金が1割程度、学納金が8割程度)とも異なっている。
 第二に、国内学生と外国人学生では課せられる授業料に最大3.5倍程度の差がある。日本の場合、外国籍かどうかが授業料の多寡に影響することは基本的にない。
 第三に、奨学金は貸与奨学金がもっとも一般的である。これは、返還義務のある日本学生支援機構の第一種奨学金と第二種奨学金がもっとも一般に利用されている日本のケースと似ている。
3.疑問点(知りたいこと)
 資料を購読した結果わからなかったのは、EU外の外国人学生に対して高い授業料を課している理由である。そのようなことをしてしまうと留学生の渡英が減ってしまい、多様な知を集積できなくなってしまうのではないかという疑問がある。あるいは、そうした仕組みであっても留学生が集まるだけの魅力やブランドがあるのかもしれない。

*1:省略

*2:省略

*3:省略

*4:省略