「課程認定申請大学からの事例報告―プロセス,設置の趣旨,教員審査を中心に―」
標記の報告が,『阪神教協リポート』No.41(2018.4.1)pp.67-76.に掲載されています。
抜刷がご入用でしたらご用命ください。
過剰な経験志向と人事異動信仰
はじめに
一般に,大学職員も含めた行政的組織の総合職では,いくつかの部門を定期的に「回す」,いわゆる人事異動が行われているものと思う。
もちろんこの前提は,「人事異動によって経験を得ることが,仕事にとってプラスである」ことにある。
しかしながら,自分は基本的に,この論に懐疑的である。
理由は以下の3点である。
(1)「経験」の内実が「所属」である
ある部門の経験がある,とか,ない,とか言ったときに,その経験の中身は「所属」である。
つまり,評価されているのは仕事の内容ではなく,制度的な外形特性である。
これは,部門内に切り分けられている「業務」単位に細分化したとしても同じである。
たとえば,学生課において奨学金業務を担当した,課外活動業務を担当した,というのは,「所属」と同じ「業務」という外形特性である。
しかしながら,真に重要なのは外形特性ではなく,「どのように」「なぜ」仕事を行うか,といった内的特性である。
(2)時間の差分が考慮されていない
人事異動は,当然以下のように時間的な差が生まれる。
2010年 学生課
2015年 財務課
2020年 学生課
さて,このとき,2020年に学生課に戻った職員は,「経験」を評価されたかもしれないが,果たして5年前の「経験」は役に立つであろうか。
おそらく,役に立つこともあるし,立たないこともあるだろう。
しかし基本的には環境や状況は変わっているであろうから,やはり役立つとすれば,「どのように」「なぜ」といった内的特性であろう。
これは「所属」にかかわらず,その人がもっている特徴であると思われる。
少なくとも,外的特性としての「所属」を評価するならば,時間的経過によって,各部門において環境や状況がどの程度変動しうるのか,その差異を前提として人事異動をさせねばならないだろう。
ひょっとしたら,時間的変動の影響を受けやすい部門と,そうでない部門があるかもしれないが,そのような差異は現在ほとんど考慮されておらず,黙示的に等価とみなされていることだろう。
(3)「経験」主義では,難問には立ち向かえない
人間と動物の違いは何であろうか。
それは,想像力があるかないかである。これには思いやりも含まれる。
やや極論になるが,我々はなぜ,まったく知らない国の戦争に心を痛めることができるのだろうか。
それは想像力で現実を補完しているからである。
「経験」しなければできないというのは,動物に近い発想である。
人間としての賢さをもつならば,想像力やそれを下支えする学びで,現実を補完しなければならない。
この能力は,「経験」と同じか,それよりも大きな影響を及ぼすだろう。
ではなぜこのような,過剰ともいうべき経験志向が支持されるのだろうか。
自身の仮説は,「年齢給と相性がいいから」というものである。
すなわち,(1)「経験」を「所属」とみなし,(2)時間の差分を捨象し,(3)「経験」主義神話を維持することによって,年齢給を成立させているのである。
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さて,以上のように,つらつらと過剰な経験志向やそれを前提とした人事異動を批判してきたわけであるが,現在,大学職員の人事異動が正の効果をもたらすことを仮説とした実証研究が進みつつある*1。
上記はあくまでも随想であって,データに裏付けられた検証では当然ない。
自身の仮説がどのように批判されたり,あるいは裏付けられたりするのか,楽しみに過ごしているところである。
(2018年度)神戸学院大学におけるWEEKDAY CAMPUS VISITの実施について
以下のとおり実施します。もしよろしければお越しください。
(このブログの読者に,高等学校のステークホルダーがいらっしゃる可能性は低い気はしますが)
WEEKDAY CAMPUS VISITを7/16(月・祝)に実施します | お知らせ | 入試情報 | 神戸学院大学 入試サイト
wdcv.net
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WEEKDAY CAMPUS VISIT,ないしnewveryの取組みについては,これまでもたびたび取り上げてきました。
今回このように勤務先と連携をしていただけること,大変ありがたく思っています。
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盛山和夫(2013)『社会学の方法的立場:客観性とはなにか』(東京大学出版会)を読了
標記の本を読了した。
本書は,「社会学はいかにした『学問』たりうるか」(まえがき)という問いにもとづき,社会学の方法的立場についていくつかの側面から照射したものである。
章立ては以下のとおり。
1章 リスク社会における事実性と反照性
1 リスク社会という問題
2 なぜリスク社会なのか
3 反照的事実としてのリスク
2章 社会的事実とは何か
1 社会的事実の客観性問題
2 社会的世界の構図
3 社会学における客観性の地平
3章 理念型という方法:ヴェーバーの「客観性」戦略
1 理念型という方法
2 理念型と文化意義
3 文化意義の認識における客観性問題
4章 シュッツにおける「客観性」の意味
1 ヴェーバーにおける理解社会学の構想
2 廣松渉におけるシュッツの「現象学的社会学」
3 シュッツによる理解社会学の再構成
5章 理解社会学の理論仮説:行為者と観察者
1 理解社会学とその理論仮説
2 社会学における主観的日常知の位置
3 仮説的なものとしての「理解」
4 意味の主観性と共同性
6章 弱い合理性の理論:強い合理性でも限定合理性でもなく
1 合理性をめぐる社会学と経済学
2 合理性の仮定への批判について
3 行為の合理性の意味
4 弱い合理性仮定における説明の形式
7章 階級の幻想
1 主体としての階級概念
2 達成としての階層
3 階級幻想
4 業績主義化と学歴主義化
5 豊かさの中の階層論
8章 公共社会学の理論構想
1 公共社会学への関心
2 意味秩序の探求としての社会学
3 外部視点戦略
4 公共性に志向した理論形成へ
9章 事実/価値二分法の真実
1 社会学における事実/価値二分法の伝統
2 ムーアの自然主義的誤謬論とそれへの批判
3 事実/価値二分法とは何か
10章 社会は反照的共同性からなる:社会学の方法的立場
1 社会学の特異性
2 社会の反省知としての社会学
もっとも自分にとって意味があったのは第1章である。
第1章では,ベックによる「リスク社会」というキーワードを掲げ,リスク概念の多角的な検討を試みる。
具体的には,リスクの主観性と客観性,確実性と不確実性,不確実性とリスクの区別,個人的問題し,社会的問題として捕捉すること等である。
これらを踏まえて,「社会的リスク」主観的な存在性が,「制度」と同じ問題をはらむことを述べる。
かつて盛山(1995)において,理念的実在としての制度(意味世界としての「一次理論」に支えられるもの)は,思念の主観性と制度の共同性 or 客観性の矛盾は解消できないし,する必要がないことが述べられた。
なぜなら,それらは矛盾を含んだ構図のもとで成立していると考えられるからである*1。
これはリスク社会の主観性と客観性の相克においても同様であるというのが,第1章の結論である。
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*1:具体的には,①制度知識所属の主観性②制度知識の主観的妥当性の主観的前提③観察とコミュニケーションを通じての妥当性確認④制度知識の揺らぎ,の4つであり,これを盛山は「主客反照性」(p.29)と呼ぶ。
【残り8日】学術系クラウドファンディング「文系学問は役に立たない?イェール報告の解釈を再考する!」
以下のクラウドファンディングの募集期間が,残り8日となっています。
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上記の記事でも書きましたように,人文社会科学系でこのような試みがどうスケールするのか興味があります。
また,若く優秀な研究者の待遇の改善や,支援というのは,自分のやりたいことのうちの1つです。
そういう背景もあって昨日,5万円を支援させていただきました。
今はまだ,このように個人的なアプローチしかできていませんが,いずれ仕組みや制度の面から貢献したいと思っています。
もしよろしければ,この記事をご覧になった皆様も,原先生にご支援を!
【ネタばれ無し】ジョン・マッデン監督作品(2016)『女神の見えざる手』を鑑賞
標記の映画を鑑賞した。
キレキレの女性ロビイストが銃規制法案で勝つために色々とがんばるはなし。
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三谷幸喜監督作品(2011)『short cut』を鑑賞
標記の映画を鑑賞した。
離婚しそうな夫婦がエンストした車を捨てて山道を下っていく話。
見所は,112分が全てワンカットになっているところ。
ネットのレビューの評価は非常に高かったのだが,自分は楽しめなかった。
技術的にすごいのはなんとなくわかる。
WOWOW開局20周年記念番組 三谷幸喜「short cut」 [DVD]
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