松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

“中退予防”という言葉

先日お会いした他大学の方がしきりにこの言葉を使っていた。
なかなかタイミングがなくて聞きそびれてしまったのだが、この“中退予防”という言葉をお使いになっているということは、おそらくNPO法人NEWVERYの取組みを参照されたことがあるのではないかという感想を抱いた。
NEWVERYの代表である山本繁氏によれば、大学生の中途退学にとってはなにより事前の対策が肝要であることから、あえて“予防”という言葉を使われている、とどこかで読んだ。
NPOの取組みにも色々とあり、たとえば育て上げネットの工藤啓氏のように、ニートの支援をされている場合、それは起こった結果をなんとかする、という発想にある。
一方NEWVERYは起こる前になんとかしておこうという発想にあり、社会的にいずれも大切なことであるが、視点が違う。
元々山本氏も引きこもりの支援に従事されていたが、大学の中途退学から引きこもりに至ってしまうケースが非常に多いことから、事業の転換を図られたようである。

私もこの問題には以前から関心があり、昨年の大学行政管理学会や大学教育学会で問題関心の近い報告を行った。
やはり自身の問題意識として、いわゆる2:6:2の1番下の2をなんとかしなければならないという感覚があるのである。
2:6:2のうち、1番上の2を鍛え上げて、彼らに集団全体を引っ張りあげてもらおうという取組みとして、たとえば愛媛大学のELS(愛媛大学リーダーズスクール)が挙げられる。
あるいは、真ん中の6が上の2に変わって行くのが面白い、という発想の取組みとして、たとえば京都文教大学のFSDプロジェクトがある。

さて、では1番下の2は?

1番下の2をなんとかしようという取組みは、管見の限りなかなかない。
私が不勉強なのかもしれないが、残念ながら大学業界内ではなく、前述のNPO法人NEWVERYが最も熱心にコンサルに取り組んでいるのではないかと考えている。
この理由としてはいくつかの仮説が立てられる。
第一に、大学関係者が中退退学のことを気にしはじめる場合、その起点は経営上の課題意識から始まっていることが多いことが挙げられる。
すなわち、中退が増える→収入が減る→なんとかした方がいい、という発想である。
これは間違ってはいないし事実そのとおりなのだが、あくまでも出発点にすぎず、本質ではない。
この出発点そのものを本質だと考えてしまうと、指導教員や教務職員が面談をしまくって、退学しないようにフォローしまくろうという結論に陥る。
しかしながら、先日も述べたようにこうした人的資源の投資はいつか限界を迎えるのであるから、結果としてなかなか前に進まない。
そうした事後のフォローではなく、そもそもの自大学が提供している学び(教育課程内外のカリキュラム)に焦点をあてて改善に取り組んだがよいと考える。
第二に、下の2をなんとかしようとするのは、シンプルにしんどい。泥臭い仕事であり、華やかさに欠ける。
できればやりたくないというのが人情であろう。
ただ、最も伸び代が大きいのがこの1番下の2であり、1番下の2は適切な刺激を与えれば1番上の2すら越えていく、というのが実感である。
なので、以前からどちらかといえば大学になじめない学生、大学がつまらないなと思っていそうな学生、もう辞めようかなと思っているっぽい学生、
そういった学生たちに積極的に声を掛けるようにしている次第である。