松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

高等教育基礎論Ⅰ(社会学的研究)課題④-5 潮木守一(2008)「大学進学率上昇をもたらしたのは何なのか―計量分析と経験知の間で―」『教育社会学研究』第38集,pp.5-22.

大膳司先生ご担当回の集中講義(6/14)の課題5つめです。
文献はこちらです。

ci.nii.ac.jp

⑤潮木守一(2008)「大学進学率上昇をもたらしたのは何なのか―計量分析と経験知の間で―」『教育社会学研究』第38集,pp.5-22.

要旨

○問題と目的

 本稿では大学進学率上昇の問題を分析した前述の矢野・濵中(2006)による外部要因中心の「経済分析」と異なり「教育システム分析」を採用することを宣言する。具体的には、自県収容力、現役合格率、首都圏・近畿圏の収容力など、内部要因を取り上げて検証する。
 内部要因を取り上げて検証する理由は、矢野・濱中(2006)の分析結果たる経費負担に重点を置いた機会均等策には限界があると考えるからである。すなわち、資金さえ調達すれば大学進学率も上昇するという外部要因よりも、カリキュラム改革や教室内改革といった教育システム内部での改革が必要なのではないかという政策的含意を提起したい。
 また、併せて教育社会学研究が計量分析を行う際に、計量化できない側面をいかに獲得・蓄積していくかということの問題提起も併せて行う。

○方法

 進学率を全国一本のカーブととらえることは実は適切ではない。都道府県別で見れば、たとえば2007年度の東京は73.9%、京都は68.2%に達しており、印象がずいぶん異なっている。したがって、進学率を都道府県別にとらえた上で、さらに進学率とそれに影響を与えていると推定される変数との散布図を作成し、吟味する。

○結論

 進学率を規定しているのは、経済要因よりもむしろ教育システム要因である。つまり家計実収入、高卒求人倍率、高卒初任給、高卒無業率などはいずれも進学率に対して説明力を持っていない。むしろ進学率に対して説明力をもっているのは、主要収容力、自県収容力といった教育機会の提供量である。これらによって進学率変化はそのほとんどを説明できる。

疑問や感想

○分析の方法について

 「変数減少法」というのは「ステップワイズ法」と同じか、限りなくイコールか?

○内容について

 本稿では教育社会学研究で計量分析を用いることの限界や、計量分析以外に必要な要素をどのように収集するかというヒントが示されている点で大変勉強になった。一方、そうしたことに関連する根本的な問題として、「教育システムに焦点を当てた分析なので、結果的に教育システムが重要な要素として析出されただけなのではないか」という疑問も残る。おそらくこの問題を本分析の前段階における重回帰分析―被説明変数を進学率のロジットとし、説明変数を勤労者世帯の実収入・高卒求人倍率・高卒初任給・高卒無業率・現役合格率・自県収容力・主要県の収容力の7変数としたもの―で解決されようとしていると考えられるが、そのように「あれかこれか」と単純化することは可能なのであろうか。