下司ほか(2019)『教育学年報11 教育研究の新章』(世織書房)
本書は,様々な教育〇〇学の論客が集合し,当該分野の近年の動向を提示したレビュー論文集である。
各部の合間には編集委員と執筆者の「座談会」が構成され,初めて分野に触れる方がわかりやすく入り込めるようになっている。
個人的に,教育経済学,教育社会学,高等教育論の3つを拝読することが目的であったが,日本教育史や教育行政学も面白く読んだ。
他方,つらかったのは知識が不足していることである。その領域の背景がほとんど抑えられていない場合,議論の展開を追うことが難しい。
その意味で,上記については少しは背景知識があったために,読みやすかっただけのことかもしれない。
- 作者:
- 出版社/メーカー: 世織書房
- 発売日: 2019/08/07
- メディア: 単行本
「たたき台」を作る人は一番えらいが……
先般,以下の記事がTwitterでバズっており,大学の事務職員間でも話題となりました。
note.com
記事の要旨は,
・いわゆる「たたき台」の作成は,ゼロからイチを生成する仕事である
・これが一番大変なので,敬意を払わないといけない
・このことを自覚せず,出てきた「たたき台」をただ叩くだけの人が多い
というものでした。
この事例を大学事務職員の業界にあてはめてみますと,次のようなことが言えそうです。
・「たたき台」を作る人と作らない人がいる
・作る人の中には,自ら能動的に作る人と,役割に規定されて受動的に作る人がいる
・作らない人の中には,作る能力はあるが作らない(作りたくない)人と,作る能力がなく作らない(作れない)人がいる
「たたき台」を作る人が一番えらいというのは,個人的にも同意します。
大学事務職員は,何らかの意思決定を行う際に,多くの場合教員と協働することになります。
このとき,「たたき台」の作成は,必ずしも事務職員である必要はありません。
むしろ,「それは教員が決めることだ」というお題目のもと,教員が「たたき台」を作ることもあります。
それ自体は,責められるべきことではないと考えています。
誰が「たたき台」を作るべきか,というのは,上記のように能力や,仕事の範囲,分担の方法等によって変わってくるからです。
私がなりたくないと思っているのは,教員が作った「たたき台」にダメ出しをする事務職員です。
まさに,冒頭の記事における「たたき台」をただ叩くだけの人,のことです。
ダメ出しをするくらいその対象への知見があるならば,初めから自分が「たたき台」を作るか,一緒に作成に携わればよいだけのことです。
他人にダメ出しをすることは気持ちいいかもしれませんが,長い目で見て信頼を失います。
一方,事務職員が「たたき台」を作った場合,「ほめてほしい」と思っていると,しんどいかもしれません。
ふつうは,大学において事務職員は縁の下の力持ちであって,前面に出て賞賛される存在ではないからです。
ひょっとすると,せっかく作った「たたき台」が叩かれるだけ叩かれて,「もう二度と作るまい」と思うこともあるでしょう。
そこがひとつ踏ん張りどころになるような気がします。「叩かれてもいいや,仕事が進むなら」という合理的な諦念が必要になります。
そして,この記事を読んでくださった大学教員の方がおいででしたら,事務職員が作ってきた「たたき台」を叩く前に,まずそのこと自体に敬意をもっていただくと,仕事がうまく回るかもしれません,とお伝えしたいところです。
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(好評につき12月追加開催決定)2019年度河合塾グループIRセミナー「大学教職員のための初歩からのIRワークショップ」
期日が迫っていて申し訳ないのですが,第2回です。
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『SYNAPSE』70号,「課程認定申請に向けた心がけ」に見る教員と事務職員の協力関係について
小野勝士さん(龍谷大学)の「教職課程認定申請実務入門」の最終回の最後に,さらっと重要なことがまとめられています。
(1)第一人者としての自覚をもつ
(2)学内人材を活用することも検討する
(3)教員の協力を引き出す
(4)記録の教材化
このうち,(1)と(3)では,教員と事務職員との協力関係について,事務職員の立場からどのように振る舞えばよいのか,ということが書かれています。
(1)では,
事務職員から教員への指示がぶれると先生方は不安になります。このことは、今後の他の業務での自身の信用にもつながります。
とあります。
やはり,課程認定のような行政手続きは,教員にはわからないことが多く,不安になります。
教員としては,事務職員にその専門的な知見があるものとして,色々と確認をすることになります。
このとき,教員をさらに不安にさせる事務職員の態度として,「指示がぶれる」ということを挙げられています。
このほかにも,
・何かを聞かれても,制度のことをよく理解しておらず,答えられない
・「今はわからないけど,ここを調べればわかるから少し待ってくれ」という暫定的な回答すらできない
・事務手続きはするが,結果の責任は負わないという他人事な空気感
・その,「する」という事務手続き自体が,教員の指示待ちになる
などもまずいように思います。
(2)では,
「教員がいうことを聞いてくれない」という意見を聞くことがあります。教職協働の前提として、先生方も忙しいということを、事務職員は理解しておくべきです。
先生方に手引きを渡す、通知文を渡す、文科省からのメールを転送するだけでは読んでいただけません(事務職員が先生方に「伝えた」というアリバイ作りにしかなりません)。
何がポイントか、変更点はどこか、どういう点に本学は注意すべきなのかということを簡潔にまとめたものを添えると、先生方の印象もずいぶん変わります。伝え方次第で、「また仕事を頼んできた」と思われるのか、「重要な情報を送ってくれた」と感じてくれるかの違いが出てきます。
とあります。
課程認定のプロセスにおいて,教員が手引きを読み込まなければならない状況というのは,かなり厳しいです。
もちろん,規模が小さく,事務職員の数が限られている場合に,そうならざるをえない局面もあるということは理解しているのですが,マクロに見たときには,とてもよくないと思います。
ベルトコンベアに乗っているかのように,事務職員の指示どおり動いていたら,自動的に認定を受けていた,というくらいがよさそうです。
ところで,上記のようなことは,大学における教員-事務職員関係に限らず,ビジネス上のコミュニケーションに共通して指摘できることだと思います。
つまり,相手の立場をおもんぱかり,この連絡を相手が受けたときにどう感じるのか,想像力を働かせながら,成果を出していくということです。
より詳細には,コミュニケーションによって必ず生じてしまうコストを,自分が負担するのか,相手が負担するのかをデザインする,ということではないでしょうか。
そもそも,仕事の出し手と受け手は情報が非対称なので,仕事を発生させる出し手の側が,そのコストの大半を担うべきだというのが私の立場です。
情報を豊富に持つ側が,生じる総コストをうまく計算できるはずだ,ということですね。
仕事を発生させるときに,コストを相手に負担させるというのは,どのような状態でしょうか。
たとえば私は,以下のようなパターンのときは,「しんどいな」と感じます。
・「詳しくは添付ファイルをご覧ください」のメール → 添付ファイルを開く時間を割くことになるので,せめて本文で概要をわかるようにしてほしいです
・「以上,よろしくお願いします」と言いつつ,何をしてほしいのかわからないメール → こちらに何をしてほしいのか,具体的に明示してほしいです
・スクロールしなければならないほどの長文のメール → 時に長くなるのは仕方ないけど,その場合は内容をカテゴライズして送ってほしいです
・さして重要でない内容なのに,往復が続いてしまうメール → 情報は後出しせず,一往復で完結するようにしてほしいです(もちろん,大切な議論をするときは除く)
・電話 → 急ぎでない案件なら,強制的に時間を同期するのはやめてほしいです(「今メールを送ったんですけど‥」などは最悪)
結局仕事というのはコストの奪い合いなので,どういうポジションをとっても,奪う側に立ってしまうことはやむをえません。
しかしながら,「この人なら,奪われてもいいな」と思われるかどうか,という違いはあるような気がします。
中井俊樹・宮林常崇編著(2019)『大学SD講座3 大学業務の実践方法』(玉川大学出版部)を読了
本書は,大学の事務職員が大学の業務をどこのように遂行すればいいかについて,広く平易に記載したものである。
本書で,「おっ」と思った箇所が2ある。
1つは,「第3章 基本的な姿勢」の中にあった,「清潔感を常に意識する」の一部である(p.28)。
職場では清潔感を意識しましょう。清潔感とは服装だけでなく、所作や言葉遣いなども含まれます。たとえば、受験生が大学案内をもらいに来た場面で、スリッパを履いた大学職員が、片手で「はい」と小さな声で渡したとすると、受験生はどのように感じるでしょうか。大学職員は、周囲に不快な思いをさせないようにするだけでなく、受験生や学生・教員・地域の方などから信頼されるために、常に清潔感を意識して立ち振る舞うことが求められます。
あまりこのようなことをはっきり書いた文章を見たことがない。
「服装だけでなく」とあるが,もっともわかりやすいのは服装であろう。
たとえば芸大ではバリバリにピアスをあけていることがあったりするが,それも全然OKだと思う。そう,気を使ってさえいれば。
気を使っていない,まるで自宅にいるかのようなだるんだるんのパターンもあったりするので,それはさすがにどうなのかなと思う。
(うまく説明できないのだが,たとえばスウェットでも,清潔感のあるスウェットとそうでないものがあるように)
もう1つは,「第8章 業務の見直しと改善」の中にあった,「内部のおもてなしに注意する」である(p.95-96.)。なかなかいいことが書いてあると思ったら村山さんだった。
業務改善の事例として、「職場内おもてなしの廃止」を行っている組織があります。職場内おもてなしとは、同僚向けに必要以上に労力を割くことをいいます。たとえば、会議の参加者に直接関係のない人まで入れたり、必要以上に職場用の資料を作成したり、失礼のないように丁寧すぎるメールを発信したりすることなどです。そのような行為を廃止することで、本来の組織の目的に注力することができます。職場内における過度な気遣いは弱みになりうることを理解しておく必要があるといえるでしょう。
特に、職員はしばしば過度に「教員おもてなし」をしてしまう傾向があります。教員は職場の同僚であることを意識し、学生に対してよりよいサービスの提供ができるように努めるべきです。また、上司や他部署の職員に対しての過度な気遣いも必要ないでしょう。
ここでは,「職場内おもてなし」と呼んでいるが,自分は「社内営業」と呼んできた。「社内営業」は極力しないと決めている。
というか,「社内営業」をしている余裕がない,というのが正直なところである。
そういったコストの問題に留まらず,その営業が,社内向けなのか社外向けなのか,常に自覚的であることが望ましいとは思う。
でないと,外部(たとえば保護者)の方に対して同僚たる教員を「●●先生」と呼称したりするようになってしまうのである(個人的に,対外的には「●●」と呼び捨てるのが正解だと思うが,いかがだろうか。同僚なので)。
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