松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

論文が出ました:「私立大学等改革総合支援事業タイプ1選定と教育投資・定員充足の関係」『大学論集』第51集,pp.49-64.

よろしければご批判ください。
ir.lib.hiroshima-u.ac.jp



要旨は次のとおりです。

私立大学等改革総合支援事業タイプ1選定と教育投資・定員充足の関係をパネル・データ分析によって推定することを試みた。具体的には,財務省の言うようなタイプ1選定→教育投資の増加→定員充足という因果関係(スキーム1)と,先行研究から導出しうる定員充足→教育投資の増加→タイプ1選定という因果関係(スキーム2)を4つの仮説で検証したが,いずれも棄却され,どちらのスキームも妥当ではないことがわかった。結果からは,マクロな想定により構築されるスキームでは,補助金と教育投資・定員充足の関係は説明できないことが明らかになった。この理由として,それだけ私立大学の行動や経営,条件等の分散が大きいことが考えられた。

Stataのコマンドを以下に公開しています。
researchmap.jp

報告を行います:「EBPMにおける分析方法の応用可能性と課題」@日本高等教育学会第22回大会【6月8日(土)12:15~14:15】

よろしければご批判ください。

Ⅱ-2部会 大学政策 司会:大森 不二雄(東北大学
12:15~12:35 高等教育政策の現在―幻想の国立大学法人化、解体する分担管理、増殖する政策のインブリーディング― ○羽田 貴史(東北大学
12:35~12:55 大学改革の副作用に関する一考察―ガバナンス構造の変化に着目して― ○山本 眞一(筑波大学広島大学
12:55~13:45 EBPM における分析方法の応用可能性と課題 ○松宮 慎治(神戸学院大学) ○中尾 走(広島大学大学院) ○村澤 昌崇(広島大学
13:45~14:15 総括討論

http://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2019/05/jaher22program20190510_3.pdf

【ご案内】2019年度 第1回 大学職員のための(I)Rゼミナール(5月26日(日)開催:広島大学 東京オフィス 408号室)について

開催しますので,以下から申し込みください。申し訳ありませんが,今回から有料にしています。
また,私自身は某全私教協の仕事で伺えませんが,企画にはタッチしています。
今回のキモは,案内文にあるこちらです。

高価なシステムを導入して,高度な分析をするのではなく,フリーソフトによってごく簡便なデータ分析およびレポーティング業務ができるようになることを目指します。
「データ分析はやってみたいけど、私のような初心者、未経験者でもできるのだろうか」と感じておられる職員の皆様にこそお越し頂きたいと存じます。データ分析を身近に感じてもらうために、誰でも解るように、丁寧にお教えいたします。

rihe.hiroshima-u.ac.jp

2019年4月に読了した小説,評論,エッセイ,漫画

夫のカノジョ (双葉文庫)

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エッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論

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そして誰もいなくなった (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

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結婚相手は抽選で (双葉文庫)

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新装版 深海の使者 (文春文庫)

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陸軍二等兵比嘉真一 殉国 (文春文庫)

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女性が管理職になったら読む本 ―「キャリア」と「自分らしさ」を両立させる方法

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上司が壊す職場 日経プレミアシリーズ

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トリガー 自分を変えるコーチングの極意

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働く女性ほんとの格差 日経プレミアシリーズ

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心が折れる職場 日経プレミアシリーズ

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僕たちはもう帰りたい(ライツ社)

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リフレクティブ・マネジャー 一流はつねに内省する (光文社新書)

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新版 ジャパンアズナンバーワン

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誰でもすぐに戦力になれる未来食堂で働きませんか ゆるいつながりで最強のチームをつくる

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新装版 赤い人 (講談社文庫)

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竹田一則編著(2018)『よくわかる!大学における障害学生支援:こんなときどうする?』(ジアース教育新社)

標記の本を読了した。
本書は,大学における障害のある学生への就学支援に関する基本的な考え方を個別大学の事例とともに解説したのちに,「こんなときどうする?」をテーマに,視覚障害聴覚障害,運動障害(肢体不自由),病弱・心身虚弱,内部障害発達障害精神障害にわけて具体的な支援方策を提示したものである。
また,対象だけではなく具体的な場面(たとえば,自身の職掌では,実習)が想定されており,実務的にもすぐに役立つ。
さらに末尾では,イギリス,オーストラリア,アメリカにおける障害学習支援の現状も紹介されている。
障害学生支援は以前から興味もあり,やりがいをもててきた分野である。というのは,本書にも書かれているが,「障害学生との共学は周囲の学生を育てる」(p.89)からである。またときには,障害学生自身が支援する側に回ることにより,自己を相対化でき,成長するといったケースもある。
このように,ある面から見ればネガティブかもしれないが,何らかの介入によってポジティブに変容しうる,というコントラストに魅力を感じている。

よくわかる! 大学における障害学生支援

よくわかる! 大学における障害学生支援

【メモと紹介】小林信一(2019)「グランドデザイン答申をどう読むか」『IDE 現代の高等教育』No.609, pp.37-42.

標題の論稿において,近年の"政策誘導"に関してきわめてわかりやすい記述があったので,メモを兼ねてご紹介したい(pp.38-9)。

 この事例((引用者注:前段において,高等教育の無償化対象校の選定要件(外部理事と実務家教員の登用)が挙げられている。)は,答申が掲げる「規制から誘導へ」の意味を如実に表している。2005年の将来像答申は,「高等教育計画の策定と各種規制」の時代から,「将来像の提示と政策誘導」の時代への転換を謳ったが,今回の答申でも「その方向性は変わらない」としている。前述のような動きをみれば,A事業の支援を受けるためには制約条件Bを満たすことを前提とするといった政策手法が"誘導"の一例だとわかる。Bを直裁に規制として示さない代わりに,Aを通じてBを実現すべく誘導するというわけだ。この手法は,多目的計画法という数学的手法を考えれば理解しやすい。複数の目的があるとき,目的同士は相互の制約条件としても働く。この場合,目的と制約条件は入れ替え可能で,本来の目的を制約条件として実現することも可能だ。すなわち,本来の目的はBであるのに,あたかもAを目的としているかのように見せかけ,AもBも実現するというわけだ。
 一つの政策で複数の目的を達成する"効率的"な政策手段だと言って誤魔化すべきではない。こうした政策誘導の最大の問題は,表向きの目的Aに関しては熟考され,説明もされるが,隠された目的Bについてはその意義や必要性はもちろん,実現の方法についても熟考されないか,されていたとしても隠蔽され,透明性に欠ける点にある。この種の政策手法が濫用されると,審議会等の公明正大で真摯な議論とは関係なく,恣意的に政策が展開される可能性が出てくる。極言すると,審議会を隠れ蓑にして,それとは関係のない政策を恣意的に進めること,いわば政策の私物化も可能になる。各大学は隠された目的については十分な情報を持ちえないから,文科省の政策に振り回され,混乱に陥ることになる。

もっとも重要なのは,「目的と制約条件は入れ替え可能で,本来の目的を制約条件として実現することも可能」という点であろう。
政策が示す目的のために制約条件があるという矢印は,実は向きが逆である可能性を捨てきれない,ある目的のために制約条件を課すという手法にはそうした問題がある,ということを端的に指摘している。
とはいえ,「文科省の政策に振り回され」という点に関しては,実のところ文科省自身も振り回されているというのがより混迷を深めている背景ではないだろうか。
ここから先は小林先生の論稿を離れての感想であるが,事実がどうかはさておき,個人的には,外部理事や実務家教員の登用を,文科省が積極的に推進したいと考えているとは思われない。たとえば実務家教員の定義を曖昧にしておいて大学のマイナスを多少なり抑えつつ,それと引き換えに無償化予算を引き出しているといった可能性も考えられよう。
むろん,だからといって根拠なき政策立案が許されることはないが,特定のアクターを悪玉にして批判するのは苦しいと感じる昨今である。

論文が出ました:「私立大学の教職課程における「センター組織」の実際」『大学事務組織研究』第6号,pp.45-53.

残念ながらオープンアクセスではありませんで,有料で頒布する形式になっています。
大学事務組織研究会 » Blog Archive » 大学事務組織研究会「大学事務組織研究(第6号)」 頒布のお知らせ。
抜刷はありませんが,冊子が三冊ほどありますので,仰っていただければ先着順でお送りします。
要旨は以下のとおりです。
執筆をご用命いただいた寺尾謙さんに感謝します。

私立大学の教職課程における「センター組織」の実際を実証的に素描するために,①どのような大学が「センター組織」を設置しているのか,②「センター組織」の設置は教員採用に貢献するのか,という2つの問いに答えることを試みた。結果からは,「センター組織」設置に集権志向の違いは効果をもたず,教育学部等の目的養成課程を保有,教員採用への志向性,規模の大きさ,偏差値の低さが効果をもつことがわかった。また,「センター組織」の設置は教員採用に貢献するように見えるものの,より大きな効果をもつのは,目的養成課程の保有であることがわかった。つまり,「センター組織」は,集権志向とは無関係に,教育学部等の目的養成課程を保有する大学で設置されている傾向があり,その傾向が「センター組織」設置を媒介して,教員就職者数にも効力を有していると考えられた。これらのことから,「センター組織」は,実効的役割というよりも,目的養成課程を有する大学による政策ないしステークホルダーの説明責任としての機能を果たしていることや,大学ガバナンス改革の文脈とは異なり,組織の設置自体は集権志向とは無関係であること等を指摘した。