松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

【解説】サルでもわかる中教審答申(3)『​これからの学校教育を担う教員の資質能力の​向上について(答申素案)』

既に学内向けにはレポートを作成したところではありますが、こちらでも少し内容を削って報告します。
もう各所で報道されていますが、10月15日に中教審の教員養成部会で答申素案が示されたんですよね。
この内容、サルでもわかるように報告します。

教員養成部会(第90回)で示された答申素案のポイント

以下では、中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会(第90回,10月15日開催)で示された『これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について(答申素案)』について、特に大学にかかわる部分を中心にポイントを素描しました。まだ議事録は公開されていませんが、部会翌日に公開された資料(http://www.kyoi-ren.gr.jp/siryou/newpage1.html)にもとづいて記述します。

1.はじめに

 今回の答申素案は、1年前の7月の文部科学大臣諮問(「これからの学校教育を担う教職員やチームとしての学校の在り方について」)を受けて、中教審(初等中等教育分科会教員養成部会)で議論されてきた結果です。

2.答申素案の内容

答申素案では、「研修」「採用」「養成」の3段階における具体的方策を示しています。大学に最も関係が深いのは当然のことながら「養成」です。

2-1.「研修」

 「研修」で示されている方策は、国、教育委員会、学校、その他関係者が一体となりながら、キャリアステージに応じたメニューを提供しなければならないという問題意識のもと提示されています。具体的には以下のとおりです。
①教員研修
・授業研究をはじめとした校内研修の充実
・メンター方式や学校内に研修リーダーを置く等の工夫を行う
・大学等と連携した研修の単位化
②初任者研修
・初任者研修の運用方針を見直す
・特にメンター方式やジョブ・シャドウイングを検討する
③十年経験者研修
・学校内でミドルリーダーとなるべき人材を育成する研修に転換
④研修実施体制の整備
・事務職員の活用推進、オンライン研修普及、アクティブ・ラーニング
教員研修センターの機能強化

2-2.「採用」

「採用」で示されている方策は、地方自治体の採用にかかる負担を軽減すると同時に、多様で多面的な選考方法を支援、促進するという課題意識に基づいて示されています。具体的には、採用前の「教師養成塾」等の実施による円滑な入職の促進と、教員免許状を有しない有為な外部人材の確保に言及されています。

3-3.「養成」

「養成」で示されている方策は、強い目的意識もなく免許状を取得して教員になったり、最低限の資質能力が担保されずに学校現場に出てから苦労したりするこれまでの状況を自省的に見た上で示されています。また、大学の教職課程が課程認定を受けたあとに審査を受ける機会がなく、偶然対象となった実地視察のみというのは質保証の観点から問題であることも指摘されています。これに関連して、大学の強みを生かすために裁量を増やすことを目指すとしています。
 当初、こういった方策は目的養成を視野の大半に入れつつ、暗に開放制の課程は削減することを示唆するのではないかと感じましたが、この点についてはこういった心配を排除するためか、冒頭で「大学における養成の原則と開放制の原則は維持する」と明記されています。
各方策は、具体的には以下のとおりです。
①「学校インターンシップ」の導入
・義務化はしない
・各大学の判断により教育実習の一部にあててもよいこととする
・大学独自の科目として設定することを推進する
②教職課程の外部評価制度の導入
・教職課程における自己点検・評価の実施を制度化する
・第三者評価を促進する
③統括組織の設置
・全学的に教職課程を統括する組織の設置を努力義務化する
・統括組織が担当者にFDを実施するなどして、教職課程の科目であることの意識を高める必要がある
④「教科に関する科目」「教職に関する科目」の撤廃
・教職課程の内容を精選・重点化する
・「教科に関する科目」と「教職に関する科目」等の科目区分を撤廃する
・新たな教育課題等に対応できるよう、各大学の裁量を拡大する方向で見直す
・今でいう「教科に関する科目」と「教科の指導法」のより一層の連携を図っていくことが重要
⑤「教員育成協議会(仮称)」の創設
教育委員会と大学等が相互に議論する教員育成協議会(仮称)を創設する
・当該協議会では、教員の育成ビジョン共有のための教員育成指標を策定する

3.内容を受けた私見

再課程認定申請が必要

大学にとってまず重要なことは、最速で平成30年度から新しい法律下の教職課程がスタートする可能性があり、そのためには来年度末に再課程認定申請をしなければならない、という事実の把握です。既存の課程も全て再課程認定申請をすることになるので、新しい法律の枠組みに基づいたカリキュラム編成を、学部の専門教育に大きく干渉しない形で再構築する必要があります(そうでないと、教職課程を失います)。ただし、今回示された観点は専門教育と教職課程の教育をこれまで以上に分断することなく、より近づけていこうという方針を示していますので、再構築そのものは難しくありません。

スケジュールの問題は留保される

 議論の進捗状況によってはスケジュールが後ろにズレ込む可能性も十分にあることから(そもそも、この1年間はスケジュールが後ろにズレ込んだ過程そのものです)、あまり早くから過敏に反応するのも得策ではありません。一方、直近でカリキュラム改正を予定している学部は、既存の法律下に基づいてカリキュラムを編成すると、教職関連の法改正によってカリキュラム改正の直後に再び改正せざるをえない、という状況が発生しえます。とはいえ、「法改正をいつやるのか」ということは常に見えませんので、結局のところベストタイミングの特定はかなり難しいというのが率直なところです。そういった問題があるということを頭の片隅に留保いただいておく必要があります。

政府の方針に過剰に左右されない

 今回の答申素案で示されたものの多くは、ここ2~3年に政府が大学に要求してきたこととほぼ同じです。たとえば、自己点検・第三者評価やFDの実施は用語そのまま、統括組織の設置は全学的なカリキュラム・マネジメント、教員育成指標は学士力や3つのポリシーと、それぞれ深い関係があります。あるいは、この素案には近年の大学向け政策文書で多用される「アクティブ・ラーニング」が24回も登場します。すなわち、大学に要求されてきたことが、初等中等教育の視点から教職課程を対象として時間差で波及してきたということです。
こういった状況になると、政府の方針に従うべく「求められているからやらざるをない」といった官僚的発想に陥って物事を遂行した結果、教職員の疲弊を招きがちです。しかしながら、政府の方針に盲目的に従うだけでは大学の独自性は生まれないのであって、そういった姿勢では「大学の裁量を増やしたい」とする今回の素案とはむしろ逆行することになりかねません。そうではなく、私立大学ならではの特徴を大切にしながら、学生のより良い学びに貢献するという本質を無理なく形づくることが必要であると考えます。

以下参考:答申素案の大きな枠組み

◇前提
・今回の答申素案は、平成26年7月29日の文部科学大臣の諮問(「これからの学校教育を担う教職員やチームとしての学校の在り方について」)を受けたもの。この諮問が初等中等教育分科会に付託され、教員養成部会で審議されてきた
◇検討の背景
・時代の教育の成否=教員政策の重要性は世界の潮流(政策の重要性)
・経験年数の不均衡化が進行しており、先輩から若手への伝承が困難に(環境変化)
教育再生実行会議が第5次提言と第7次提言で言及する等、政府としても高い関心がある(政府の関心の高さ)
・カリキュラム・マネジメントやアクティブ・ラーニング推進の必要性(教育課程改革)
・「チームとしての学校」のために教職員構造を転換(チーム学校)
・「何を知っているか」ではなく「どのような力が身についたか」(コンピテンシー
◇これから求められる資質能力
・自律的に学ぶ
・新たな課題に対応できる(アクティブ・ラーニング、道徳教育、外国語教育の早期化、ICTの活用、発達障害等)
◇養成・採用・研修に関する課題
―研修
・国、教育委員会、学校、その他関係者が一体となること
・キャリアステージに応じたものを行うこと 等
―採用
・多様で多面的な選考方法を支援、促進する
―養成
・養成段階は「教員となる際に必要な最低限の基礎的・基盤的な学修」を行う段階であることを認識
・学校現場や教職を体験させる機会を充実させる
→「教職課程の学生が学校や教職についての深い理解や意欲を持たないまま安易に教員免許状を取得し、教員として採用とされているとの指摘」があるため
→「実践的指導力の基礎の育成に資するとともに教職課程の学生に自らの教員としての適性を考えさせるための機会として、学校現場や教職を体験させる機会を充実させることが重要」だから
・教職課程に対する外部評価制度の導入、全学的に教職課程を統括する組織の整備の促進
→「開設時における課程認定と不定期に行われる教職課程実施視察のみ」では、「課程認定を受けた後、教職課程の質の維持向上が十分に図られていないケースも見られる」ため
・カリキュラムについて、「大くくり化」や「独自性の発揮」を促進
―養成・採用・研修を通じた課題
・大学と教育委員会の連携が必要
・キャリアステージに応じた学びを支えるため、協働して育成指標を作成すべき
―免許制度の課題
・多様な人材の確保に対応した免許制度改革が必要
・学校種横断的な免許状創設等の総合的な改革は今後の検討課題
◇改革の具体的な方向性
―教員研修
・授業研究をはじめとした校内研修の充実
・メンター方式や学校内に研修リーダーを置く等の工夫を行う
・大学等と連携した研修の単位化
―初任者研修
・初任者研修の運用方針を見直す
・特にメンター方式やジョブ・シャドウイングを検討する
―十年経験者研修
・学校内でミドルリーダーとなるべき人材を育成する研修に転換
―研修実施体制の整備
・事務職員の活用推進、オンライン研修普及、アクティブ・ラーニング
教員研修センターの機能強化
―教員採用
・採用前の「教師養成塾」等の実施による円滑な入職を促進
・教員免許状を有しない有為な外部人材の確保
―教員養成
・教職課程の内容を精選・重点化する
・大学における養成の原則と開放制の原則は維持する
・「教科に関する科目」と「教職に関する科目」等の科目区分を撤廃し、新たな教育課題等に対応できるよう、各大学の裁量を拡大する方向で見直す。具体的には、「教科に関する科目」と「教科の指導法」のより一層の連携を図っていくことが重要
・修得すべき単位を可能な限り卒業に必要な総単位数の中に位置づける。ただし、取得に必要な単位数は増加させない
・「学校インターンシップ」は義務化しないが、各大学の判断により教育実習の一部にあててもよいこととし、大学独自の科目として設定することを推進する
・教職課程における自己点検・評価の実施を制度化し、第三者評価を促進する
・全学的に教職課程を統括する組織の設置を努力義務化する
・統括組織が担当者にFDを実施するなどして、教職課程の科目であることの意識を高める必要がある
―新たな教育課題に対応した研修・養成
・新たな課題:アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善、ICTを用いた指導法、道徳教育の充実、外国語教育の充実、特別支援教育の充実
―教員育成協議会(仮称)の創設
教育委員会と大学等が相互に議論する教員育成協議会(仮称)を創設する
・当該協議会では、教員の育成ビジョン共有のための教員育成指標を策定する