松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

高等教育基礎演習Ⅰ(実践研究)課題⑤『IDE 現代の高等教育』(2007年8-9月号)の特集論文要旨―テーマ「専門職大学院の現状と展望」―

渡邊聡先生担当回の2回目です。
IDEの特定の号の特集論文から2つを選び、内容のまとめと課題の指摘をしなさいという課題です。
大先生の論稿の課題を指摘するなんて恐れ多すぎますが、トレーニング、トレーニングと思いながら頑張っています。


2015.5.14

高等教育基礎演習Ⅰ(実践研究) 課題⑤

IDE 現代の高等教育』(2007年8-9月号)の特集論文要旨―テーマ「専門職大学院の現状と展望」―

M156296 松宮慎治

以下のとおり特集論文10点から2点を選び、要旨と当該論稿における課題をまとめました。

①「専門職大学院の課題」(清水潔
【要旨】
○背景と現状
 専門職大学院は、おもに①高度専門職業人の養成②理論と実務の融合的な研究基盤の形成③国際的な課題解決といった目的で創設された。2007年度時点で設置されている専門職大学院は149専攻であり、分野別で見れば、法務(法科大学院):74専攻、ビジネス・MOT:29専攻、会計:16専攻、公共政策:8専攻、公衆衛生:3専攻、臨床心理:4専攻、知的財産:2専攻、その他(助産、デジタルコンテンツ、原子力等):13専攻となっている。このうちもっとも数の多い法科大学院専門職大学院制度推進の核であり、プロセスとしての法曹養成や理論と実務を架橋できる高度専門職業人養成を目指している。
○課題と展望
 現状の課題は2点である。第一に、専門職大学院が設置された一部の専門分野では、そもそも当該分野でどのような高度専門職業人を養成したいのか、そのために修得すべき能力や、それら能力を修得するための教育プログラムは何かといった共通理解が確立していない。結果として、本来明確に区別されている専門学校教育との関係が曖昧になっている。第二に、認証評価環境の整備である。2007年6月1日現在、専門職大学院を対象とする認証評価機関は3団体のみであり、いずれも法科大学院を対象としている。評価環境の充実のためには前提として体系的な教育内容・方法の構築が必要であるから、第二の課題は第一の課題とも関連している。
 今後の展望として、専門職大学院が養成する高度専門職業人材そのものへのニーズは高まることが予想される。しかしながら、「高度専門職業人」とは何か?といった根本的な命題や、各専門職大学の質の担保等は継続した課題となる。
【課題】
 本稿を拝読した上で、追加的に議論する必要があると思われる課題を述べる。本稿では、現状の課題について共通した養成像や教育課程、そして認証評価制度の不整備を挙げている。そして、この課題の由来として「制度設計」を挙げている(「しかしながら,先に触れた課題は,制度設計自体に由来する課題である」)。たしかにこの2点の課題は「制度設計」に由来するものかもしれないが、法科大学院のもっとも大きな課題として、法科大学院の修了と司法試験の合格とを限りなくイコールで紐づけるという当初の目標が達成されなかったことがある。このことは、同じ特集の別の論稿(後藤昭「法科大学院の現在」)でも予測的に示唆されていることであり、2007年当時から自明であったと思われる。ゆえに、「制度設計」のみならずそうした出口問題に関連した「外部環境」を併せて課題として挙げておかなければ、今後の展望としては不十分であると考える。

②「教職大学院の創設と教員の力量向上」(梶田叡一)
【要旨】
教職大学院制度とは何か
 教職大学院は教育分野における専門職大学院として創設された。教職大学院で養成の目標とされる人材は、①学部段階を超えたより実践的な指導力・展開力を備え、②地域や学校において指導的役割を果たしうるリーダーとしの教員である。ここでは、従来の教育分野の大学院と違い、学校現場での教育実践に深く関連した実践力・企画力を目指す。そうした環境を担保するために、指導にあたる教員の4割は実務家とする基準がある。
○創設の背景
 創設の背景には、教師のあり方に対する批判と期待が存在する。学力の低下や学校におけるいじめ、教師の不祥事等によって、指導力不足教員・不適格教員を学校から追放し、かつ養成をより充実したものにしようという社会一般の厳しい見方があるのである。
○兵教大の取組み
 兵庫教育大学はもともと現職教員の大学院レベルでの研修を行う機関として設置された、新構想大学である。それゆえ、大学の使命と教職大学院制度の親和性は高かったことから、特に力を入れて設置準備を進めてきた。4つのコースを設置し、うち3コースには現職の教員を受け入れる予定である。
【課題】
 本稿を拝読した上で、追加的に議論する必要があると思われる課題を述べる。大きな課題は背景として示されている「現在の学校教育のあり方について,特に教師のあり方について,社会一般が抱いている焦燥感と危機感」の例示にあると思われる。「学力の低下」「残虐な苛めその他の問題行動や犯罪」「教師のとんでもない不祥事」等の例示は、実感としては理解できるが、たとえば少年犯罪については減少傾向にあるという統計もある。また、2007年前後は「モンスターペアレント」等、校教員を取り巻く環境の厳しさも人口に膾炙するようになった頃であり、世論の教員への理解が深まった時期であるとも言えると考える。もっとも、筆者は教員養成分野の研究者として厳しい立場をとらざるをえないと思われるし、高まる批判に必ずしも賛同しないと述べていることには留意しなければならない。