松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

羽田貴史(2019)『大学の組織とガバナンス』(東信堂)の第2部「大学の運営」に関するコメントと疑問点

羽田先生であれば許してくださるだろうと思って,以下の書評会で報告した内容を公開します。
ご案内:8月6日(火)開催 第6回公開研究会「羽田貴史『大学の組織とガバナンス』書評会」 - 松宮慎治の憂鬱

 第2部は4章構成である。第6章ではまず,大学組織の構造と管理運営に対して,90年代以降の市場メカニズムの導入がいかなる影響をおよぼしたのかを述べる。影響のおよぼされ方は,経営的価値と学術的価値の調整ないし葛藤と説明され(pp.115-116),2006年の調査にもとづく分析から,設置者間の相違点(運営モデル(p.122)や教授会の権限の強弱(pp.124-125))と共通点(運営の方向(p.125))を見出した。続く第7章と第8章では,国立大学法人化の制度化過程を整理し,制度化後に発露した問題点を指摘する。国立大学法人制度には,自律性の拡大というスローガンの一方で,政府の関与を強める目標・計画・評価が共存するという難しさがあり,矛盾を内包したままスタートさせたために,曖昧な組織の独立性,中期・目標とPDCAの不整合,業績評価への傾斜,評価の視点・方法の不透明等の多くの問題点(pp.170-177)が噴出しているというのである。第2部の最後となる第9章では,既述のような問題点に対するひとつの処方箋として,企業的大学経営における集権的分権化(p.193)が提示される。集権的分権化とは,①市場化による外部資金の増加を機関内の分権化で吸収し,②その結果として生じる不均衡を集権的に是正する,というシステムであり(pp.193-196),この葛藤を解決するのが,大学の使命や理念といった価値体系にもとづく配分であるという(pp.196-197)。このように,第2部では国立大学法人の制度的問題を指摘しつつも,日本の文脈に沿った解決策が模索されている。これらを踏まえて,以下の3点を羽田先生にお伺いしたい。
 第1に,設置者の役割分担についてどのようにお考えだろうか。第2部は国立大学中心に展開されるが,こと市場メカニズム下における政府による資源配分や統制の観点からは,設置者間の分担を議論することで,高等教育システムの包括的な形成に向かえるのではないか。仮にそのような議論が日本のシステムで難しい(乏しい)とすれば,なぜか。
 第2に,第1と関連して,たとえば第6章では国立大学と比較して私立大学の優位性が部分的に指摘されるが,2019年現在,ガバナンス改革は私立大学にも波及している(学校教育法改正,私立学校法改正,中長期計画の策定・推進,「ガバナンス・コード」等)。改革は,国立大学に適用してきたそれをほぼそのまま私立大学に援用しようとしているようにも見える。このとき,私立大学は国立大学が法人化後に抱えることになった矛盾や問題を,同じように迎えることになるだろうか。それとも,異なる帰結もありうるか。
 第3に,第1や第2の問題は,既存の枠組みの根本を等閑視し,無理に屋上屋を重ねようとしていることに起因するようにも思われる。その意味では,構造改革特区により2003年に制度化された株式会社立大学は,ひとつの挑戦的試みであったと考える。しかしながら,株式会社立大学の存在感はいまやほとんどなく,成功したとは言いがたい。株式会社立大学による新たな視点や価値の提供は,方法によってはあり得たか伺いたい。