松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

佐藤俊樹(2019)『社会科学と因果分析:ウェーバーの方法論から知の現在へ』(岩波書店)を読了

本書は,ウェーバーが構築した方法論の生成過程を解説し,そのことを通して社会科学における因果分析を包括的に論じようとするものである。
ここでいう方法論とは,適合的因果構成をさす。
適合的因果構成とは,「因果を(a)版事実的に(=半実仮想の形で)定義した上で、(b)条件つき確率の差で測るもの」(p.34)である。
本書の重要な特徴の一つは,既述の生成過程,すなわち研究の系譜をたどり,ウェーバーの方法論が誰の,どんな影響を受け,それらがどのように後世に解釈されたか(時に誤りも含まれる)を丹念に追っていることだと思われる。
たとえば,第1章でまず指摘されるのは,戦後のウェーバー研究が日本語圏と英語圏で解釈が異なっていたということである。
日本語圏に社会科学では,マルクス主義史的唯物論との融合が試みられた(「マルクス-ウェーバー結合」(p.39))から,観察する単位を1つ(=世界を1つの単位)とされたため,因果の有無が経験的に同定できなかった。
一方,英語圏ではそうした解釈は発展しなかったので,ウェーバーの方法論の本来のありようが伝播したと考えられているという,といったことである。
加えて,そうした方法論の生成をたどる過程で,筆者は常に現在との往復を繰り返している。
つまり,現在の社会科学にとって,そのときどきの議論がどのような意味をもつのか,さらには広く社会科学の因果分析の本質はどのようなものかを追求する。
言葉はわかりやすく,語りかけるようですらあるが,内容は(自分にとっては)難解だった。少なくとも1度読むだけではすっと入ってこない。
背景知識が不足していることもその理由だろう。繰り返し読みたい,重厚な書物である。