筆者は金融論が専門であるが,文教大学学園の理事経験があり,その仕事からきた問題意識にもとづき本書を執筆されたようである。
第1部では,戦後の高等教育政策の変遷とその中での位置づけを,第2部では,私立大学経営が抱える構造的な問題を,第3部では,第2部における問題を文科省がどのように取り組んでいるか,ないし取り組もうとしているかを解説されている。
また,金融がご専門であるので,第2部では,学校法人会計,財務,資産運用にかなりの分量が割かれている。
このように,かなり広い範囲を扱われているわけだが,現在関心をもっている定員割れ(入学定員充足率)に関しては,第1章「大学入学市場の需給状況と文科省の大学定員管理政策」(pp.101-140.)で①規模別②地域別に以下のように分析されている。
小規模大学では規模の縮小と「定員割れ」が深刻化する一方、大規模大学では規模拡大と採算確保が実現されているということ、即ち「二極化」が極めて明確かつ深刻な形で進行している(p.119)
「東京」(108.9%)、「京都・大阪」(105.5%)で(ある程度低下しているが)依然比較的高い水準を維持している(p.124)
また,こうした問題は結局のところ需給バランスの不均衡にあるので,文科省の定員抑制政策は,
「大規模大学集中」や「大都市集中」の是正を目的としておきながら、客観的には、却ってこれらを加速させる結果となっている(p.139)
と批判し,
いま必要なことは、補助金等を通じる小手先の定員管理ではなく、より抜本的な対策――即ち「定員増の停止」更には「定員削減」ではないか。
と結論づけている。
- 作者: 渡辺孝
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2017/05/25
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