松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

乾彰夫・本田由紀・中村高康編(2017)『危機のなかの若者たち―教育とキャリアに関する5年間の追跡調査』(東京大学出版会)を読了

本書は,「若者の教育とキャリア形成に関する調査」( Youth Cohort Study of Japan 2007-2010, YCSJ)による,2007年4月1日現在で20歳の若者の5年間について量的・質的調査にもとづき,教育ないしキャリアの中での若者の移行と危機を描いたものである。

最初の章ではまず,調査対象の若者が,年法改正や学力低下,フリーター・ニート問題からのキャリア教育の発展等,危機を煽られ,努力を求められた世代であるという定義づけられている*1

分析の視角は,労働・家族・地域・学校・意識と人間関係の5つに置かれる。

労働の観点からは,正規-非正規,労働条件やキャリア形成の格差をめぐって,仕事のモチベーションが,雇用形態や労働条件ではなく人間関係や自律性にもたらされていること,またそれが強制ではなく自発的であることが整理される。

その上で,そうした周囲の支えという資源が個人努力によってかろうじて成立しているので,もっと制度的後押しが必要であるという問題提起を行う。

家族の観点からは,移行と階層について従来のSSM調査との共通点と相違点を整理する。相違点としては,SSMによる地位達成モデルとは異なり,本人の学歴や雇用形態に父職種の影響は明らかでなかったことが示されている。

また,低学歴者の離家や非正規雇用の結婚可能性の低さ,ひとり親世帯の学力格差,情報不足,成人後の経済的支援人間関係の乏しさ等が指摘される。

地域の観点からは,初職と地域の関係*2,および沖縄の若者の移行の不安定さを取り上げる。

学校の観点からは,いわゆる「意欲の貧困」や,大学での学習態度が家計や将来不安によって半ば規定されてしまうことを取り上げる。

意識と人間関係の観点からは,若者の社会観やソーシャル・キャピタル等について,リーマンショック東日本大震災等の出来事を基点に分析する。

 

 

本書で取り上げられている若者の世代は,学年としてはおそらく自身の一つ下である。その意味で,自身の移行と照合しながら考えることができた。できればゴリゴリのパネルデータ分析をもう少し拝見したかった。

危機のなかの若者たち: 教育とキャリアに関する5年間の追跡調査

危機のなかの若者たち: 教育とキャリアに関する5年間の追跡調査

 

 

 

 

*1:データの説明のところで,サンプルサイズが「サンプル数」とされているのは気になった。

*2:都市圏の合成変数を作成するとき,30分以内に大規模都市にアクセス可能な場合は大規模都市に含める方法は勉強になった。