本書は,東日本大震災に小学校5年生で被災した3人の子どもたちが,16歳になった今,それぞれの「語り」によって当時を思い返すという趣旨である。
鬼気迫るというよりは,どちらかといえば描写は淡々としているのに,それがまた深刻さを増すことになる。
私が意表を突かれたのは,子どもたち3人の回顧もそうだが,実は監修の佐藤敏郎氏による最後の「語り」である。
佐藤氏は現在はNPOの事務局長をされているが,当時は中学校教師であった。
変わり果てた町の学校で生徒と二晩過ごした彼のもとに,家族が訪れる。
13日の午後、女川町から車で40分ほどの石巻市福地地区にある自宅から、妻と長男が私を訪ねてきた。道路はあちこちで通れなくなっていて、途中からがれきの中を歩いてきたという。
「何も、歩いてこなくたってよかったのに」
そのときの私は、佐藤家でいちばんつらく苦しい想いをしたのは自分とばかり思っていた。だからこそ、笑顔で職員玄関まで向かった。でも、妻の口から出たのは、まったく思いがけない言葉だった。
娘の遺体が上がったというのだ。
妻は私にそう告げると、堰を切ったようにその場に泣き崩れた。
私は一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
このような本を監修される方が,ご自身も被災されていることはいわば自明である。
しかしぼくはこの場面に至るまで,ご家族を亡くされている可能性に全く思いをきたすことができていなかった。
なんとも言葉が見つからないまま,最後まで読み切った。
- 作者: 雁部那由多,津田穂乃果,相澤朱音,佐藤敏郎
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2016/02/01
- メディア: 単行本
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