標記の本を読了した。
もともと手に取った理由は,高校における推薦入学制度の波及にかかわる分析手法を勉強するためであった。
第4章では,「推薦入学政策の普及と定着過程」として,イベントヒストリー分析を用いた計量分析が行われている。
ところで,本書は高校の推薦入学制度を扱っているが,背後の大テーマには,教育社会学を背景とした教育改革のインパクト分析がある。
その意味で,次のような記述は,現在検討されている高大接続改革にも援用できうる考え方である。
そもそも個性重視などといった政策側の意図する理念に導かれて,実際の生徒が選択行為を行っているわけではない。個人は様々な制約の中で,ある程度打算的な選択を行わざるを得ない。そうった選択行為を,合理的選択理論の枠組みを用いて仮説を立て,計量的なデータを用いて実証分析を行った。特に問題なのは,ここで評価されている個性も,結局ある一面に偏らざるを得ず,しかもその多くが批判の対象であった学力と相関があるということである。したがって推薦入学は,もともと学力の高い層の競争性を高めるという結果を導き,新たに評価されるべきとして付加された個性を保持しない層にとって,推薦入学は学力検査という負担のない入試選抜という位置づけになってしまった。これが推薦入学によって,個人の選択行為の集積から導かれたマクロの結末である。つまり競争の性質が,学業成績上位層と,それ以外の分化をもたらしたのである。推薦入学では,政策の意図した「個性重視」という理念を適えることすら,必ずしも成功したとはいえない。近年は,これらの検証もなされないまま,学力批判の言説に乗って,推薦入学に学力検査を加えるといった措置もしばしば見ることができる(5章)。
- 作者: 中澤渉
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2007/03
- メディア: 単行本
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