松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

「「同一労働・同一賃金」の実現は120%不可能である」という記事を拝読したが,これは典型的なゼロイチ思考ではなかろうか?

尾藤克之氏の標記の記事を拝読した。
agora-web.jp
氏は,同一労働・同一賃金が実現しえない理由として,

①日本の人事制度になじまない

②正社員と非正社員は労働や待遇以外にも差がある

ことの2つを主に挙げています。
①については,既存の人事制度になじまないのは当然のことで,だからこそ変えようという動きがあるわけです。
②についてはさらにおかしくて,次のようなことが述べられています。

正社員と非正規社員派遣社員には様々な格差があります。収入面での不公平さを論じている人が多いですが、それは根本的に間違っています。正社員には日々の業務のみならず、歓送迎会やミーティング、タスクなど余計な業務が発生します。そして、業務命令には従う必要性があります。

正社員は幹部候補や管理職候補として採用されます。よって多くの「現場」を経験することになります。これが先ほど紹介した人事異動というものです。社員は原則的に辞令を拒否することはできません。また正社員は、企業や上司への忠誠心に基づいて行動することが要求されます、

しかし、非正規社員派遣社員はそのような忠誠心に基づいて行動することや社内の理不尽さに耐えることは要求されません。立場が異なりますから正社員からすれば「同一労働・同一賃金」を主張することはナンセンスという主張になるはずです。

いやちょっと待ってくださいと。
ナンセンスどころか,むしろこれが問題の根幹なわけです。
端的にいえば,なぜ正社員,非正社員という身分によって仕事内容が決められ,ましてや日々の業務以外のところまで縛りうる状態が肯定されるのですか?という問題です。
この問題を解決する手段が同一労働・同一賃金なわけです。身分や年齢ではなく,仕事に対してお金をつけましょうということです。
まさにここで指摘されるように,今の制度というのは非正社員もしんどい,一方では正社員もしんどい,誰も特をしない状態にあります。

ただ,おっしゃっていることはわからないでもありません。
私自身,年功序列や強くて固い解雇規制など百害あって一利なしと思っていますが,そういう傾向がいずれ完全になくなるとは思っていません。
たとえば,年をとればとるほどお金を使う場所(たとえば子どもなど)も増えるから,その生活給として緩やかに年功序列が残るといったことは想定しています。
しかしながら,上記の尾藤氏の記事は典型的なゼロイチ思考で,現在議論されている「同一労働・同一賃金」というのが,120%なしえないことで,今のままであることが妥当であるというように読めます。
それ
それでは,今のように,現代の身分制度のようなものが残ることを肯定するのでしょうか?そのようなアンフェアなモデルは,一挙にでなくても,じょじょに崩れていくべきではなのでしょうか。

このようなことをつらつらと考えていたら,城氏が以下の記事でシンプルに解説されていました。
www.j-cast.com
この記事では,直接的に尾藤氏の記事に言及しているわけではありませんが,要するに尾藤氏が現在の日本の労働市場の文脈を所与のものとしているので,前述のような議論になるのだということが理解できました。
少し長くなるが,城氏の記述を引用して筆をおきたいと思います。

従来、一般的な日本企業では、正社員の賃金は職能給と呼ばれる実質的な年功給で決められてきた。初任給から少しずつ昇給し、ベテランになってから若いころ頑張ったご褒美を貰える仕組みだ。一方の非正規雇用は、担当する仕事に値札が付く職務給と呼ばれるものが一般的だ。コンビニのレジでは、高校生のバイトと中高年のフリーターが同じ時給で仕事をしている光景も珍しくないが、あれがまさに職務給の典型だ。
前者は終身雇用を前提としたもので、どれだけ生産性があるか、単年度でいくらもらえるのかといった点は曖昧だが、生涯かけて帳尻が合うようにはなっている(一応)。後者は流動性が高いから、きっちり仕事分はキャッシュで払いますよ、という仕組みである。
この2つの仕組みを併存したままで「同じ仕事にたいして同じ賃金を払え」というのはまず不可能だ。そもそも正社員の側には、個人に仕事の対価としていくら支払っているかという基準すらない。たとえ1000万円払っていたとしても、それは彼がこなしている担当業務の対価ではなく、若いころに全国の支店を転々として汗を流したことへのご褒美かもしれないのだから。
よって、同一労働同一賃金の導入には、2つの異なる基準を職務給の方に統一する必要がある。と言うと、ものすごい大改革を想像するかもしれないが、それ自体は解雇規制を緩和さえすればスムーズに実現するだろう。というのも、40代になって課長になり「さあこれから若いころの頑張りに報いてもらうぞ」となった直後に解雇されるリスクがあるなら、誰も初任給から滅私奉公なんてしないからだ。
すると、20代も50代も勤続年数ではなく、現在の仕事内容に応じてきっちり現金払いで評価される仕組みに速やかに切り替えが進むことになるはず。そこでようやく、正社員と非正規雇用労働者は同じ土俵に上がることになる。政府が労働市場の流動化と同一労働同一賃金を同じタイミングで打ち出してきたのは、本来はこうした事情を踏まえてのものだったはずだ。