松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

米国の高等教育におけるアクレディテーションは,ラーニングアウトカム(ズ)をどのように測定しているのか―高等教育基礎論Ⅳ(制度研究):丸山文裕先生の課題から―

◇講読文献
福留東土(2009)「米国におけるアクレディテーションのアウトカム評価」羽田貴史・米澤彰純・杉本和弘編著『高等教育質保証の国際比較』(東信堂),pp.239-264.

◇内容
 この論稿では,米国の高等教育におけるアクレディテーションが,いわゆるラーニングアウトカム(student learning outcomes)をどのように測定しているのか,を整理している。詳細には次のとおりである。
 第1節では,米国のアクレディテーション・システムの概要と近年の動向を整理している。具体的には,米国のアクレディテーション機関がボランタリズムの精神に依拠する「自主的な非営利・非政府組織」であり,大学が自律的に質保証に関与するためのものであることを示した上で,地域別と専門分野別の2形態が存在することが述べられている。また,近年の動向として,ユニバーサル化に伴う学生の多様化や財政緊縮,政府による規制強化の結果としての業績評価の動き等,高等教育の質をめぐる新たな動きが見られることを指摘している。
 第2節では,アウトカム評価がアクレディテーションにおいてどのように扱われてきたのか,を整理している。「大学教育の社会的なアカウンタビリティが厳しく問われるようになるなかで,大学が自ら掲げる教育目的をどの程度達成できているのか,あるいは教育の成果がどの程度上がっているのかが問題とされるようになってきた」わけであるが,中でもアウトカム評価の内実を,評価する主体による差異に着目して論じている。特にここで言及されているのは,全米のアクレディテーション団体を統括するアメリカ高等教育アクレディテーション協議会(CHEA),地域別アクレディテーション団体,専門分野別アクレディテーション団体の3つである。
 CHEAでは,学生の学習成果を析出する根拠資料を収集する際,それらに①包括性(comprehensiveness),②多面的な判断(multiple judgment),③多面性(multiple dimensions),④直接性(directness)の4要素が備わっていなければならないことをガイドラインとして示していることが紹介されている。すなわち,学習成果が十分な範囲にわたっていること(①),複数の根拠が相互補完的な関係に置かれていること(②),プログラムの強みや弱みも含めて,パフォーマンスが多様な事実によって精査されていること(③),卒業率や自己評価,満足度のような間接指標ではなく,学生のパフォーマンスや達成に関する直接的な調査に基づいていること(④),の4つを満たして初めて,学習成果の根拠として扱われるのである。
 地域別アクレディテーション団体としては,学生の学習評価に関する基準を精力的に盛り込んでいる団体として,中部地区基準協会,北西部地区基準協会,西部地区基準協会の3つが紹介されている。中でも中部地区基準協会では,①アセスメントに関する根拠,②アセスメント結果の分析,③学生の達成に関する直接的・間接的インディケータの分析,④多様なアセスメント手法による結果の分析,⑤科目ベースのアセスメント実践とその成果に関する科目,学科,学部レベルの報告書分析,⑥アセスメントの結果が利用されたことに関する根拠,の6つの基準によって,卒業生が高等教育にふさわしい目標を達成していることを説明しなければならない事実が示されている(「学生の学習に関するアセスメント」)。
 専門分野別アクレディテーション団体としては,先駆的にアウトカム評価を取り入れた団体として,工学系のABET(Accreditation Board for Engineering and Technology)と,ビジネス系のAACSB-International(Association to Advance Collegiate Schools of Business)が紹介されている。前者では,重要なことはカリキュラムの形態ではなく「何が学ばれているか」,すなわち学習成果であることが強調されており,ABETの認定を受けるための共通基準が定められている。後者では,特定の科目ではなく,マネジメント・プロセスの中で複数の知識やスキルを学ぶ機会を与えるという「カリキュラムのマネジメント」が重視されている。
以上を踏まえて,第3章では日本における質保証へのインプリケーションを示している。中でも,ラーニングアウトカムが「どう測定,説明され,また高等教育の活動を高めるためにどのように活かされているのかが重要になってくる」というのが基本的な筆者の主張である。

◇内容から考えること
 普段教職課程の仕事をしているが,従来高等教育全体に求められていた質保証が,教職課程という特定のカリキュラムを対象に波及してきた,という実感をもっている。具体的には,「全学的なカリキュラム・マネジメント」「担当教員のFD」「3つのポリシー」等を,教職課程の観点から定め,情報として公表する必要性に迫られているのである。わが国における質保証システムが,実質的に十分機能しているのか,というと疑問がある。教職課程の場合は,幸いにして高等教育全般に求められてきたものが遅れて波及してきたので,これまでの反省を踏まえて対応できないだろうか,と考えている。

高等教育質保証の国際比較

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