大膳司先生ご担当回の集中講義(6/14)の課題6つめです。文献は以下のとおりです。
CiNii 論文 - 大学進学率の都道府県間格差の要因構造とその変容 : 多母集団パス解析による4時点比較
⑥上山 浩次郎(2011)「大学進学率の都道府県間格差の要因構造とその変容―多母集団パス解析による4時点比較―」『教育社会学研究』第88集,pp.207-227.
要旨
○問題と目的
本稿の目的は、近年における大学進学率に関する都道府県格差のメカニズムを浮き彫りにすることである。大学進学率にはたしかに都道府県格差がみられるにもかかわらず、そうした格差がなぜどのようにして生じているのかという点については十分な議論がなされてきていない。1990年を境にして大学進学率の都道府県格差が拡大していることに鑑みると、当該メカニズムの解明は重要な課題である。
○方法
多母集団パス解析を用いて明らかにする。パス解析を用いることによって、複数の変数の影響力を統制した後に独自の影響力を捉ことができるだけでなく、大学収容力を独立変数かつ従属変数として同時に分析モデル上に位置づけることが可能となる。また、データには『学校基本調査』を用いることとする。
○結果と考察
都道府県間格差の要因構造は一貫したものではなく変容してきている。とくにこんにち(2006年)の都道府県間格差は、男女ともに「大学収容率」という供給側要因と「所得」という経済的要因、さらに男子においては「学歴」という要因によっても規定されている。すなわち、社会経済的条件による格差のメカニズムが相対的に強く働いており、また「大学収容率」という供給側要因が男女ともに影響力を与えている。
こうしたことを踏まえると、こんにちの都道府県間格差のメカニズムには、①社会経済的条件がもつ影響力の大きさ(学歴の「登場」と経済の「復活」)、②大学の供給量がもつ影響力の「実質化」と「機能変容」、③社会経済的条件と供給側要因の「相乗効果」の増大という特徴がみられることが浮き彫りとなるのである。
疑問や感想
本稿では格差是正のために「大学収容率」の都道府県間格差の縮小が重要な意味をもつことになる、という政策的含意が最後に示されている。
ところで、わが国の場合「大学収容率」のベースとなる収容定員は基本的には国家的な統制を受けており、都道府県レベルでの意思決定によって増減させることはできない。ゆえに、都道府県間の大学進学率の格差を国家が問題として捉えなければ、格差が改善されることはおそらくない。一般的に考えれば、生まれ育った場所で大学進学の可能性が大幅に規定されてしまうことは避けた方がよいように思われるが、実態として大都市圏の生まれ育ちの方が選択肢は多いように見える。
今回教材となっていた論稿には「政策的含意」という言葉が多く登場したが、仮にこうした調査研究が国家施策に活用されるためにはどのようなことが必要なのだろうか。また、実際に活用されることはあったのだろうか。