松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

はじめての教員免許更新講習―初めて担当いただく先生向け―

教員免許更新講習ですが、総合大学の場合は比較的学部に担当者の新設を一任していることが多いと思われます。
この際、単に「更新講習に担当の先生を出してください」といった頼み方だと、更新講習とは何か?といった基本的なことを調べるコストが受け手に発生してしまいます。
その依頼の仕方だと、もしかしてあまりフィットしない先生が担当として選出されてしまうかもしれません。
そうした説明コストは、教職担当者がプロとして負担すべきだと考えています。今回この仕事のメインを途中から引き継いだので、ひとまず初めて担当してくださる向けの説明文を作ってみました。
事実誤認やおかしな点があったら教えてください。この資料を作ったことで、自分自身勉強になりました。

2015.6.10

はじめての教員免許更新講習―初めて担当いただく先生向け―
 
教務センター

1.背景
 今日の教員免許更新講習の実施は『今後の教員免許制度の在り方について(答申)』(中央教育審議会,2002)に端を発している。この答申では「教員免許状の総合化・弾力化」「特別免許状の活用促進」と並んで、「教員免許更新制の可能性」が教員の適格性の確保と専門性向上の観点から検討された。検討の背景として、社会情勢の変化に伴い多様化する子どもたちの教育への対応が挙げられている一方、一部教員の不祥事等によって、教員集団そのものが社会からの期待に十分に応えきれていないといういわゆる「指導力不足教員」の問題が指摘されている。この答申を受けて、安倍内閣(当時)に設置された教育再生会議が第一次報告『社会総がかりで教育再生を~公教育再生への第一歩~』を提言し、ここで教育職員免許法の改正(教員免許更新制導入)の平成19(2007)年通常国会への提出が明記された。こうした変遷から、教員免許更新制は2009年度より導入されることなった。
2.目的
 教員免許更新制の目的は、文部科学省のホームページによれば「その時々で教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付けることで、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指すもの」(下線は原文ママ)とされている*1。前述の中教審答申や教育再生会議の報告では、いわゆる「指導力不足教員」の学校現場からの排除が念頭に置かれていたものと思われる。しかしながら、この目的については同ホームページにおいて「※不適格教員の排除を目的としたものではありません」(下線は原文ママ)と示すことで明確に否定されている。
3.基本的な制度設計
 本制度の主たる対象は現職の学校教員であり、各自の修了確認期限までに、大学等が開設する合計30時間以上(必修領域12時間以上、選択領域18時間以上)の講習(いわゆる「更新講習」)を修了したのち、必要な手続きを行うこととされている*2。仮に更新講習の受講とその後の更新手続きを修了確認期限までに行わない場合、当該教員免許状は「休眠」状態に入り*3、結果として失職することとなる。現職の学校教員は、教員免許状の保持を前提として地方自治体や私立学校に採用されているからである。
4.課題
 本制度の今後について、『教員免許更新制度の改善について(報告)』(教員免許更新制度の改善に係る検討会議,2014)では主として「必修領域」の課題が指摘された上で、「必修領域」の見直しと「選択必修領域」の導入が提言されている。具体的には、現行の「必修領域」では内容の履修深度が浅くなることや、全学校種・免許種共通であるがために受講者のニーズに焦点が合わないという問題があり、学校種・免許種や教職経験に応じた現代的な教育課題への対応に十分なプログラムの提供が併せて必要であることが示されている。この提言を受けて、2016(平成28)年4月1日付での教育職員免許法改正が予定されており、2016年度開設の講習からは、これまで「必修領域(12時間)及び選択領域(18時間)」だった枠組みが「必修領域(6時間)、選択必修領域(6時間)及び選択領域(18時間)」に変更されることとなっている。
5.大学に求められること(私見)
 教員免許更新講習を開設する大学に求められることについて、担当者としての私見を2点述べたい。第一に、申込希望者を広く受け入れることが必要である。現職の学校教員にとって講習の受講は職業の継続に直結する重要なプロセスであるにもかかわらず、各大学が設けている定員の関係から抽選の結果受講できないケースが生じている。それゆえ、本学のように規模の大きく体力のある大学は、特に多くの方を受け入れる社会的責務を負っている。第二に、講習の中身は担当教員(大学の先生方)の研究者としての専門性を背景としつつ、理論と実践を繋げられるようなものが望ましいと考える。高度に理論的であることは実践家たる現職教員に敬遠されかねないが、一方で実践的でありすぎることも、教育委員会の研修等と重複するため問題がある。したがって、大学ならではのアカデミズムに触れつつも、それらが現場実践における何らかの発見や意欲に間接的に繋がりうることが、現職教員の最も大きなニーズであると感じている。
 現職の教員は受講料を支払って来学するのであるから、受講料に値する講習を提供する責任がある。他方、これまでその中身について十分な議論はなされてこなかった。以上はそうした経緯を踏まえて私見を述べたものであり、担当の先生方に押し付けようとする意図はない。あくまで中身の議論の端緒となればと考え提供するものである。

引用・参考文献
小野勝士(2015)「教員免許更新制度導入に伴う教員免許事務の課題について」『教師教育研究』第28号,pp.121-130.
中央教育審議会(2002)『今後の教員免許制度の在り方について(答申)』(平成14年2月21日)
教育再生会議(2007)『社会総がかりで教育再生を~公教育再生への第一歩~―第一次報告』(平成19年1月24日)
教員免許更新制度の改善に係る検討会議(2014)『教員免許更新制度の改善について(報告)』(平成26年3月18日)

*1:文部科学省のホームページ『教員免許更新制の概要』http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/koushin/001/1316077.htm 2015(平成27)年6月10日閲覧

*2:2009(平成21)年4月以降に授与された免許状(いわゆる新免許状)と2009年(平成21)年3月31日以前に授与された免許状(いわゆる旧免許状)では取扱いが異なる。ここでの「修了確認期限」はあくまでも後者の枠組みであり、前者においては「有効期限」(所要資格を得てから10年後の年度末)の枠組みが適用される。ただし、現在の対象となるのは後者のみであるから、前者の扱いについてはここでは触れずにおく

*3:いわゆる旧免許状の場合、「失効」することはない。「休眠」することによって復活の手続きが別途必要となる