松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

高等教育基礎演習Ⅰ(実践研究) 課題⑦-1《『IDE 現代の高等教育 2014年1月号』(テーマ:大学のガバナンス)より》

大膳司先生ご担当回の集中講義でした。

2015.6.7

高等教育基礎演習Ⅰ(実践研究) 課題⑦
M156296 松宮 慎治

以下の文献を拝読し、要旨と感想をまとめました。
《『IDE 現代の高等教育 2014年1月号』(テーマ:大学のガバナンス)より》
①吉村 昇(2014)「秋田大学のガバナンス」『IDE 現代の高等教育』第557号,pp.36-40.
②岡村 甫(2014)「高知工科大学におけるガバナンス」『IDE 現代の高等教育』第557号,pp.45-48.

①吉村 昇(2014)「秋田大学のガバナンス」『IDE 現代の高等教育』第557号,pp.36-40.

要旨

 秋田大学は大学の存在感を示す「軸」として、模索の結果、「日本のどこにもない,あたらしい学部をつくる」という結論に至った。それが資源学100年の伝統・実績を生かした「国際資源学部」である。元々秋田県は鉱山・資源分野の活動が歴史的に盛んであった。日本の産業革命と近代資本主義の確立期にあたり、鉱山冶金技術者養成機関の拡張が国家的な養成にもとに行われた時期である明治期から、秋田県は鉱山・資源分野の中心地だったのである。かかる環境から、秋田大学は昭和24年には日本で唯一の鉱山学部を作り、工学資源学部への改編を経て、2014年度に「国際資源学部」を新設した。
 学部新設にあたっては、教育文化学部・工学資源学部・医学部の3学部体制を改組し、国際資源学部、教育文化学部、理工学部、医学部の4学部体制とした。さらに、新学部の特徴は新しい管理・運営体制である。すなわち、カリキュラムの編成や教員の人事などの重要事項の審議は、外部の人材を加えた「カウンシル」という組織で審議することとなった。「カウンシル」は、「教育研究カウンシル」と「学部運営カウンシル」に分類される。前者では教育課程の編成や教員の採用及び承認等に関することを審議し、構成員は12名(民間企業等の専門家・研究者2名+連携大学教員4名+学部代表教員6名)である。後者では学科その他重要な組織の設置廃止、予算等に関することを審議し、構成員は10名(民間企業等の専門家・研究者2名+連携大学教員3名+学部代表教員5名)である。

感想

 現在、国立大学であっても所在地が地方である場合は、独自の価値をいかに生み出すかということが課題になっている。秋田大学の国際資源学部は一つの成功例であると思われるが、英国モデルを参考にしたと考えられる「カウンシル」の創設も含めて、簡単に模倣することは困難であろう。近年、国立大学で「地域○○学部」等、地域系の学部新設があいついでいるが、私学関係者としてはやや残念である。たしかに、地方国立大学であれば、当該地域の発展に寄与する人材育成に貢献することは当然かもしれない。しかしながら、どうしても高等教育機関の市場化の波にあって、独自性に欠けるように見えてしまうことも事実である。できれば国立大学にはならではのプライドを維持いただき、地方であってもその地方ならでは、代替不可能な存在になっていただくことを、私学関係者としても希望したい。

②岡村 甫(2014)「高知工科大学におけるガバナンス」『IDE 現代の高等教育』第557号,pp.45-48.

要旨

 高知工科大学は1997年に開校された新しい大学である。県立ではなく公設民営の大学としてスタートした理由は、民間的発想によるマネジメントにより、自主自立的な環境のもと、魅力ある教育研究を積極的に展開することを目指したためである。「法人格を持つ大学」として、いわば国立大学法人化の先駆けであった。また、2001年度から2008年度までは完全な私立大学であったが、2009年には私立大学から公立大学となり、2015年には高知県立大学法人と統合予定となっている。こうした経験が他の公立大学と一線を画す一要因になっている。
 組織運営の特徴としては「大学運営委員会」の存在を挙げる。この委員会は各学科長のほか、教員の選挙により選出された各学科の代表で構成される。これが公立大学法人における教育研究審議会に継承され、教育・研究に関することは実質的にここで決められている。かかる組織の特徴を背景に、教員にとっても学生にとっても厳しい「全科目選択制」を導入するなど、自主性・創造性を重視した教育を行っている。また、教員の選考は学長を長とする5人の委員から成る「教員候補者選考委員会」によって実施されている。大学にとって良い教員を獲得することが最重要であると考えていることから、大学にとって真に必要な分野の教員を採用することを、この委員会によって担保している。また、独自の「教員評価制度」によって、若い教員が成長していくための指標を作り、現在の仕事のみならず将来にわたって活躍できる基盤を整理している。 

感想

 高知工科大学は地方において活力ある大学として認識されていると思われる。一方、そうでありながらもやはり、公設民営の私学から公立大学に転換した経緯を踏まえると、やはり私学としての経営は厳しかったのではないかと考える。地方においては、残念ながら教育プログラムに関係なく、私立大学よりも国公立大学の方が高校関係者の評価が未だ高いのが現実である。こうした現実にあって、実際に私立大学へ自治体が公的資金を投入し、公立大学への転換が図られるケースが増えている。個人的には、学費の問題は別にしても、設置形態に関係なく学位プログラムそのものが評価されることが望ましいと考えているが、当該大学の関係者の苦しみを慮ると、私立大学から公立大学への転換を安易に批評することは難しい。しかしながら、やはり私立でうまくいかないから公立へ、といった安易な公的資金投入は避けるべきであり、当該大学が本当に私立大学として運営継続できないかをギリギリまで模索することが、私学として立ち上げた経営者の責任であると感じる。