標記、大膳司先生担当回の課題論文5つ目です。
要旨
○背景
従来の受験体制のイメージでは、男女とも同じ偏差値ピラミッドの中で序列づけられてきたように見える。しかしながら、実際の志望選択や入試形態の利用まで検討すると、女子が男子とは異なる志望選択を行ってきたことが予想される。先行研究でも、進路選択にジェンダーが関与することは示唆されており、社会の性別役割分業を基準とした価値体系、その結果としてのいわゆる「女子用軌道」の存在が指摘される。
○目的と仮説
本稿では入試システムに焦点を当てながら、女子にとって大学・短大という進路選択がいかなるメカニズムによって支えられているのかを考察する。このため、女子校/男子校から系列大学・短大への優先入学制度の利用が「女子用軌道」に寄与しているのではないか(仮説1)、また女子の浪人忌避行動は、実は入試戦略としての志望パターンに埋め込まれてきたのではないか(仮説2)という2点に基づく分析を行う。
○方法
データには女子高等教育研究会が行った質問紙調査を用いる。
○結果と考察
本稿の分析から、入試システムによる進学は必ずしも偏差値という単一の指標により支配されているのではなく、特にジェンダーによって多様なルートを伴っていることがわかった。たとえば、女子高から女子大への接続は女子を女子のみの教育に囲い込むという傾向を示しているし、受け皿としての女子大・短大の存在や等によって女子の浪人志向が男子に比べて減退することも示唆される。
疑問や感想
○ジェンダーにかかわる研究について
基本的なことであるが、こうしたジェンダーにかかわる研究がなされる場合に、セクシャルマイノリティのことはどのように考えられているのであろうか。LGBT等のセクシャルマイノリティの存在は、多様な性、グラデーションとしての性差を考えるときに無視できないし、近年ではその認知も進んできた。こうした中、「男」「女」といった角度からの研究は難しくなってくるのかと感じた。研究者の間ではどのように考えられているのだろうか。一つの観点に過ぎないので、あまり気にしないということもありうるか。
○進路選択における「女子用軌道」のメカニズムについて
本稿を読んで感じたのは、「女子用軌道」のメカニズムは最終的にはゴールである就労と結びついているのではないかということである。すなわち、進路の選択とその後の就職の関係は不可分であるから、進路選択の段階における「女子用軌道」の影響は、雇用における「女子用軌道」の影響下にあるのではないかと感じた。