松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

高等教育基礎論Ⅰ(社会学的研究)課題③-1 白川 俊之(2011)「現代高校生の教育期待とジェンダー: 高校タイプと教育段階の相互作用を中心に」『教育社会学研究』89, 49-69頁

高等教育基礎論Ⅰ(社会学的研究)の大膳司先生担当回では、教育社会学にかかわる6点の文献を拝読し、その内容をまとめ、感想等を提示するということを行いました。
そして、社会人のためにそれらを1日で終わらせるという集中講義の形をとっていただきました。
一つひとつ、提出した課題を晒していきたいと思います。
集中講義はありがたいですが、少しずつ自分を律して進めていかないと、他の課題もあるのですぐに詰んでしまいますね……。

1つ目の文献は、こちらです。

ci.nii.ac.jp

要旨

○問題と目的

 本稿では、高校生の教育期待とジェンダーとの関わりを明らかにする。具体的には、進学の規定要因としてのジェンダーや業績の組み合わせを分析することで、それらの規定要因の男女共通化に関する知見を整理・補強する。ジェンダーと教育にかかわるこれまでの研究では、女性の進学率が上昇したことによって進学の規定要因が男女間で高まったことが報告されているものの、その原因や共通性が見られる範囲の検証はあまりなされてこなかったからである。

○先行研究と仮説

 先行研究では、学校教育を支配するセクシズムによって女性が業績基準で選抜されにくくなるという論が存在する一方、女性の進学率上昇を背景として、そうしたセクシズムは部分的に解消されつつあるという論も現れつつある。この両者は必ずしも矛盾するものではない。同一レベルの学校内をその範疇とすればセクシズムによる男女差は依然として看取できるし、女性同士をその範疇とすればやはり上位校は業績主義に傾倒しているからである。また、男女の進学規定要因が共通化しつつあることによって、女性において出身背景の進路規定度合いが弱まったという研究もある。
 以上の先行研究を踏まえて、女性の教育期待に対する業績の効果(課題1)と、出身背景が教育期待に及ぼす男女差(課題2)を検証する。

○方法

 使用データはPISA(2003年度版)のものとし、ここから析出される変数を用いて累積ロジット・モデルを推定した。

○結果と考察

 析出された変数と教育期待とのクロス表から、次のようなことがわかる。教育期待に対して階層変数がもつ効果は、父親の職業的地位や母親の学歴が高いほど、さらには文化的財を多く所有しているほど、教育効果が高くなる。また、成績が教育期待を左右する働きには男女間で大きな違いはない。ただし、女性のあいだで学校タイプ間の期待の格差が、短大/大学の区分では男性の数値に似たものとなる。すなわち、女性の場合、学校タイプと教育期待との関連の仕方が教育段階により明らかに異なるのである。   
また、累積ロジット・モデルの結果から、次のようなことがわかる。現代の高校生女子においては、進路分化の過程に業績にもとづく選抜とは言い切れない部分が残っているものの、その原因は上位校の生徒に対する冷却には求められない。また、出身階層の影響は学校タイプを介さずに直接教育期待を規定する効果は男女共通であるが、女性の方にやや付加的な影響がある。
以上の知見の要点は、次の2点となる。第一に、教育効果に対する学校タイプの規程力は男性より女性で弱いが、そのような傾向は局所的なものに過ぎず短大以下/大学の分化に関しては女性でも学校タイプの影響が強く作用する(課題1)。第二に、父親や文化的財の効果は女性でやや強いものの、出自の効果には男女で共通する部分が大きい(課題2)

疑問や感想

○データ分析について

 本稿で論じられているデータ分析の手法については、広い意味での多変量解析を行っていることしかわからず、全く理解が及ばなかった。しかしながら、未熟な状態であってもどういった点に理解が及んでいないかを示し、ご指導を仰ぎたい。
(理解しにくい点)
・「累積ロジット・モデル」とは?ロジスティック回帰分析とイコールか?
・通常のロジット・モデルは独立変数の効果が従属変数の段階によらず一定であるという仮定があるため、仮説にあわせてこの仮定を緩めるとあるが、その必要性が理解しにくい
・「累積オッズ比」とは何か?オッズ比を使うことによって、個別のケースに左右されない意味のある指標が得られる、という曖昧な理解をしているが、オッズ比の「累積」とは?

○データと着想の関連について

 その他、疑問に思ったこととして、こうした研究を研究者が行う場合に、データと着想との関係を挙げたい。すなわち、本稿ではPISAのデータを使用しているが、既知のデータから着想を得ているのか、着想を得てからデータを探索しているのか、あるいはその双方か、といった点に関心をもった。こうした研究に従事するためには、入手できるデータを予め多く知っておくという知識、それらの知識を組み合わせるためのセンスが必要となるように感じた。また、こうしたことから、もし高等教育の分野でよく使われる(手に入れやすい)データがあれば、ご教示いただければありがたいと考えた。なお、現在自身が把握し、関心があって少しずつ探索しているデータの入手元は以下のとおりである。
総務省統計局 http://www.stat.go.jp/
OECD国際教員指導環境調査(TALIS:Teaching and Learning International Survey)のデータベース http://stats.oecd.org/Index.aspx?datasetcode=talis_2013%20
・Higher Education Statistics Agency(HESA) https://www.hesa.ac.uk/ ※秦先生から教えていただきました