松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

「大学教育改革フォーラムin東海2015」の参加報告―学生数を覚えなさい。彼らがどう休学して、退学をするのか、数を把握することで想像しなさいー

さて、大変遅くなりましたが、先日参加した標記のフォーラムの参加メモを以下のとおりご報告します。
大学教育改革フォーラムin東海2015
午前中は体調が悪く、布団に入っていて秦先生の講演を聞かなかったクズが私です。
秦先生のご講演の内容については、
id:as-daigaku23 さんが素晴らしいスピードでまとめてらっしゃるので、そちらをご覧ください。

午後も同様にまとめていらっしゃいます。

さて、以下は私の参加録です。
掲載にあたり発表者等の許可は得ておりません。問題がありましたらご連絡ください。

大学教育改革フォーラムin東海2015

日時:2015年3月7日(土)10:00-17:00

会場:名古屋大学東山キャンパス

主催:大学教育改革フォーラムin東海2015実行委員会、名古屋大学高等教育研究センター[FD・SD教育改善支援拠点]

成果

・教務、特に教職課程の業務の引き継ぎについて、おぼろげながらその方法がわかってきた
・普段お世話になっているみなさんに挨拶ができた

所感

業務を引き継いでいく方法だが、要は無駄をそぎ落として、整理して、重要なところだけを残す。これを毎年繰り返しながら、プラスアルファの仕事を重ねていくということなのだと思った。付加価値の高い仕事をしようと思えば、いつでも「ある程度ヒマです」という状態に自分の身を置かねばならない。あたかも忙しいかのようなフリをしているが、それが付加価値に繋がるような本質的な忙しさなのかということを問い続けなければならないと感じた。『1度やれば、その仕事はもうルーチン』の気持ちでやりたい。
また、宮林氏(首都大学東京)の次の言葉が印象に残った。「学生」といったふわっとした言葉では実体が掴めないので、正確な数字を覚えることで、実体の見えない「学生」に輪郭を掘るという、とてもいい言葉だなと思った。
「後輩や部下に入学者数を覚えなさいと言っている。彼らがどう休学して、退学をするのか、毎月「今月は何人だ?」と聞く。それでモチベーションをあげる。」

オーラルセッションⅠ:授業設計に多様な視点を組み込む

①「桜花学園大学名古屋短期大学における日本語表現FD活動報告」松浦照子先生(名古屋短期大学

●実践の報告
・必修科目「日本語表現」の担当者6人よる授業実践の報告
・大事にしたことは、学生同士の話し合いである
・本の「あらまし」を抽出する「あらまし読みシート」を作った。最初は抵抗があったが、図書館の利用ががぜん増えて、これは効果があったなと思った
・新書を使ってピアで学ぶ方法をとった。全員が夏休みに2冊の「あらまし読みシート」を完成させてきてくれたが、その「あらまし読みシート」をペアで使わせた。お互いの本をお互いになりかわって説明できるようなペアワークである。最初はへたくそだったが、繰り返すうちに上達した
・そのあとでレポートを書くと、とてもいいものが書けた。内容が著者に引っ張られることがなくなった
・この取組みを通して、学生相互が学び合うということができた。また、授業アンケートの記述文字数が増加した。分析的な記述が増えた
●組み込んだ視点
リテラシー教育と就職支援の両方ができた。また、各講師の共通の実践とそれぞれの独自性を生かすことができた。さらに、学生同士が学び合うという視点を提供できた

②「工科系数学教育における授業外学習を促す授業でアインとその実践」芝浦工業大学教育イノベーション推進センター/工学部 榊原暢久先生

●意図の説明
・大人数が多いことや基礎知識の差が大きいことが課題だと思っている
・理工系の教員はアクティブラーニングをどう導入していいかわからない。いわゆるアクティブラーニングではなく、自分の講義でできそうなことや、優先度の高いものから始めてはどうか
・授業実践を通した取組みを報告するが、出てくるティップスはどんどん使っていただいて構わない
●実践例
・紹介する例は、工学部1年生対象微分積分線形代数のクラスである。専門基礎科目であり、20クラス程度同時開講されているが、今回報告するのはあくまでも自分のクラスにおける実践例である。なお、クラス規模はおおむね60人以下である
インストラクショナルデザイン理論を基盤としており、到達目標から評価方法があり、授業内活動・授業外課題に向かうというデザインを設けている
・学習者の学びの促進が第一であるから、講義よりも演習を優先させており、教員はときどき喋ったり机間巡視をしたりしている
・1週間単位での流れは、学習課題→確認テスト→復習問題→小テスト→振り返り学習シートの順である。少なくともこのシステムにのっていけば8回は同じことを少なくとも学ぶことになる
・学習シートでは、「受講前に必要なこと」「1週間の間に学んだこと」を書かせ、これらに教員がコメントを書いて学生に返していく
・ミニッツペーパーには、必ず質問や疑問を1つでも書かなければならないこととしている。疑問を持つことは理工系が卒論を書くときに必ず必要になるからである。学生の反応だが、まず自分の質問を探す。次にパラパラとめくる。よくできる学生ほど、よく見る。教員が冷や汗をかきながら答えなければならないことも学生は質問するので、内容的には深いことが書いてある。できる学生はそれをよく読む
・教育歴の浅い教員にとっては、学生にとって何がわからないかが分かりやすいので、よい教材研究になるだろう
・浅い学習では、問いに対していくつかの公式を思い浮かべ、当てはまりそうなものを検討する。しかし、到達目標から問題そのものを学生に作らせれば、普段解いている問題が適当に創られているわけではないことがわかり、学びが一段深くなる
・数学というものを通して学び方を学んでほしいということが究極の目標だ。それなら、学生の学び自体を質の高いものにするにはどうしたらいいのかと考え、ラーニングポートフォリオをはじめた
・学期終わりに出てきたキーワードでコンセプトマップを作成させている。なぜこういうことをさせたかというと、数学の授業では1回ごとに「これができればいい」という考え方になって、知識がバラバラになりかねない。これをまとめさせたかった
・ルーブリックを用いた評価では、自己評価点数と教員評価点数をかけあわせている
・色々な仕組みを導入し始めたことで、シラバスの参照状況と授業外学習時間が少しずつ伸びている
【質問】
➢松浦先生へ
・6人6色主義というが、バラバラにはなっていないのか。教員同士のミーティングはあるか
→11回ミーティングをしていた。ほぼ毎週、授業が始まる前に情報交換をし、終わったあともお茶を飲みながら議論をしていた
➢榊原先生へ
・かなり色んな要素を入れて今の授業形態が成り立っている。当然のことながら一度で入れたものではないだろう。理想形に近づいていると思うが、「まだもっと入れたい、理想形には遠い」と思っているか?もしくは、ほぼ理想形に近いと思っているか
→まだ半分くらいかなと思っている。しかし、私はFDerなので、学生にプラスになると思えば、自分はそれにどっぷり浸かりたい。したがって、わりと多めのものが入っているのは間違いなく、そこには注意が必要だ。一番初めに入れたのは、シャトルカード。現状は、学習シートがあるので、ミニッツペーパーの役割は減ってきた。その分なにが一番足りないのかというと、種々のティップスではなく、学生対応とかファシリテーションの仕方、そういうものはすぐには伸びない、先生方の特性が影響してくる。今一生懸命やっているのは、うまいファシリテーションの仕方や、学生参画のさせ方。数学だとなかなか難しいので、施行錯誤をしている
・授業はそれぞれの先生がやっているとのことだが、少しは他の授業に影響が出ているのではないか?
→自分に近いところにいる人の方がそういうのは波及しづらい気がしている
・自己評価と教員評価との関連はあるのか?
→最初は傾向を見ようと思ったが、自分の場合はなんの相関もなかった

オーラルセッションⅡ:組織に着目した教務の実践的知識の積み上げとその継承

①「「大学の教員免許業務Q&A」を活用した実践知の共有と課題」龍谷大学 小野勝士氏

・『大学の教員免許業務Q&A』を昨年10月に発刊した。構成は、指針が初めにあり、カテゴリ別のQ&Aがあり、最後に資料集をつけている。ただし、この本には知識全体を体系的に学べないというデメリットがある
・教員免許事務の特性は3点あると考えている。一つは、法律が多く絡んでいること。全ての条文をマスターすることはできないし、使うものは限られているが、ポイントがわかりづらい。二点目は、学内に聞ける人が少ないもしくはいない。小規模校だと1人ということもある。三点目は、事務分掌を複数でやっていることが多いことである
・経理課の場合も法律は絡む。しかし、全国的に統一した答えが決まっている。また、決算書の作成は経理課の担当者だけで完結する
・『Q&A』を活用してどのように実践知を共有すべきか。マニュアルによって基本的な考え方を整理することができたが、知識量が多く消化不良になっていることと、どこの大学でも可能かどうかという点に課題がある
・マニュアルを作ったが、一つの業務の考え方を理解するというところに留まる。実際に学生と対応する際には、個別に考えなければならないこともある

②「公立大学法人の特性を活かした教務事務における実践知の共有」首都大学東京 宮林常崇氏

・前回のフォーラムで、「学生の視点が欠けている」という指摘を受けたので、今回はそのことも含めた
公立大学の特性
公立大学は86大学あるが、日々増えており、設置形態も違うことからひとくくりにして語ることは難しい。設置の自治体によってスタンスが全然違う
・法人化前は公務員だった。異動も2~3年だった。法人化後はプロパーが急速に増えているが、処遇をどうするのかあまり決まっていない
・ジョブ・ローテーションを自前でやることができない。設置団体全体の枠組みの中で行う
・人員を削減され続けているので、教務系職員を手厚くすることは難しい。結果的に、根拠法令への無理解、過去の経緯の引き継ぎの困難、短期間で結果を出そうとする、事務組織が複雑になるといった問題がある
PDCAに3年かかるが、その頃には職員が異動してしまっている。また、知事が変わるとプランが変わるということもある
・予算主義によって、毎年効率化係数によって運営費交付金が減っている。よって、首長部局から予算をとってくるしかないが、どうしても福祉や産業、環境問題など、高等教育から遠い分野から予算をとってくることになる
・まとめると、「現状維持インセンティブが高い」「根本解決のきっかけを見つけにくい」ということが特性である
●実践例
・ジョブ・ローテーションができないので、それ以外でなんとかするしかない。『法人職員ハンドブック』や『教務事務ハンドブック』を作った
・マニュアル作りのときは、タイミングが重要。業務を私物化(口伝等)せず棚卸する方法の一つがマニュアルである
・「教務・国際化対応研修」を行った。東京都から異動してきた財務課等の職員にも、入学式で学生に学生証を配らせたり、学生サービスをテーマにしたワークショップを行ったりしている
・事務分担や組織の大くくり化を行った。また、教員と職員が自由に議論できる場として、委員会を活用している。委員会に特定の課題を貼りつけ、進行管理をし、担当者が異動してもやらざるをえない状況にしている
・学生懇談会を行い、教務委員会の下に学生と教職員が議論する場を設けた
・「考える仕事」をし続けない限り実践知は共有されない。そのためには、係長や課長など、管理監督職の育成が必要である。難しいことではない

③「教務系業務における実践的知識の共有と継承」豊橋技術科学大学 上西浩司氏

・大学職員も専門性を高めて欲しいという期待や議論が進行中であるが、転換点は2008年の中教審答申であると考えている
・アメリカの場合でも大学の職員になってからOJTや自己研鑽によって力量を高めていくということはある
・日本では、教務部門の管理職登用において教務部門従事経験が重視されていない。また、日本の場合は人事政策として、部門で見ているのではなく大学職員という大きな枠組みでとらえている。ゼネラリスト志向が強い
・こうした問題を解決するため、また教務人材の育成に寄与するため、2010年から名古屋SD研究会教務WGを立ち上げ、大学教務実践研究会を実施しはじめた。第1回の大会では100人超の参加者が集まった。ワークショップという形式が教務の実践知の共有には効果があることがわかった
・教務における専門性の維持・向上についての現状は、属人性に支えられているため、各大学の人事政策、職員自身の意識変革、大学間を横串する教務系専門団体などを有機的に結び付けた教務人材育成システムの構築が求められる
・「教学部門内を中心とした人事異動」が必要ではないか。また、採用も一括ではなく「部門ごと」になっていくとよいのではないかと考えている
【質問等】
・大学教員は組織に所属する専門職であるが、専門職たる権利の主張が優先しがちではないか。大学教員は専門職ではあるが、組織の中でしか生きられないという点で、医者や弁護士のように独立できないという特徴がある(中井先生)
・自己投資をしないとモチベーションは上がらないのでは?スポーツクラブに行くのと一緒。「行って来なさい」の研修はやらされ感がある(質問者)