松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

【解説】サルでもわかる中教審答申(1)『​子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた​柔軟かつ効果的な教育システムの構築につい​て(答申)』

中教審の答申は、大学関係者は大事に見ると思います。しかしながら、答申を踏まえたニュースを見ることはあるものの、実際に答申の内容が全て書かれた一次資料にあたる人は少ないように思います。まして大学関係者以外となりますと、ほとんどの方は答申の本文なんて見ないと思います。私はそれでいいと思っていますが、ニュースで断片ばかり見ていますと、そこでは一部だけ取り上げられたりしているので、全体を把握することが難しくなります。よって、ここで以下のとおりできるだけ簡単に、その要点を誰でもわかるように解説したいと思います。
答申というのはあくまで提言でしかないので、必ずしも政策にそのまま反映されるわけではないということをまず知っておかなければなりません。ただし、中教審のそれは歴史的にその多くが政策に反映されてきましたから、みんなが注目しているということですね。
昨日の中央教育審議会総会(第96回)では、実は2つの答申(案)が出されています。ネットではそのうちの一つ、高大接続・大学入学者選抜の方ばかり取り上げられている気がしますので、ここではまずもう一つの方を取り上げたいと思います。
新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について(答申)(中教審第177号):文部科学省
子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について(答申)(中教審第178号):文部科学省
この2つのうち、後ろの方ですね。high190さん、教えていただきありがとうございます。
細かいことは捨象しつつ、要点を緩やかに解説することに注力しますね。色々書いてあるけど、要はこういうことなんじゃないんですかね?という程度のラフさでいきたいと思います。わかりやすいと思って、ちょくちょく自分なりの見方も入れています。事実誤認等ありましたら、ご指摘ください。

答申の名前

子供の発達や学習者の意欲・能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について

示されている提言

主に次の4つです。
①小中一貫教育の制度を設計する
②大学への飛び入学を容易にするため、高校の早期卒業を制度化する
③留学生の大学入学資格を緩和する
④「高等学校専攻科」等から大学への編入学を容易にする
順番に解説しましょう。答申では①の記述が大半(というか、もはや95%)を占めているので、どうしても①の分量が多くなりますがご容赦ください。

①小中一貫教育の制度を設計する

ここで言われていることは、「小中一貫教育学校(仮称)」を学校教育法の中に位置付けましょう、ということです。だから、環境整備の話です。今は中高一貫教育しかないんですよね。答申では、小中一貫教育学校(仮称)について、次のような文脈で提言がなされています。「実はもう、全国で小中一貫が取り組まれているんだよ!→それがものすごく成果があがっているんだ!→意義深いことだと思うから、制度化したい!→そのための細かい条件云々」。本文中では小中一貫を絶対視するというよりも、あくまで選択肢を増やすだけですよと、そのことによって多様な子どもたちがそれぞれにフィットしたメニューを選べるようにしたいのです、ということが述べられています。でも、悪く言えば制度化ありきの文脈じゃないか、と言うこともできます。
小中一貫が取り組まれるようになった背景や、導入することの意義として出てきているキーワードが「中1ギャップ」と「少子化」です。
「中1ギャップ」というのは、小6から中1に進級したときに、学校にうまく適応できない子どもたちがたくさんいるんじゃないか、という問題のことです。うまく適応できないというのは、勉強についていけないということがまずあります。環境面でも、いじめや不登校、暴力行為が中1になると増えている気がする、という指摘がなされています。つまり、小学校と中学校の教育の中身に差があるのは当然なのですが、その差が最近目立ってきているんじゃないですか?という問題提起がなされているわけです。この差をそのまま放置していると問題が深刻化するので、この小学校と中学校の間を円滑に接続しましょうよと。そのために非常に有用なのが、小学校と中学校をひとくくりに、9年間一貫して面倒を見る小中一貫教育ですよ、ということです。
続いて「少子化」です。このキーワードは、少子化が進行すると、単独の学校では適切な集団規模が確保できない、という文脈で述べられています。以下はうちの専任教員に教えてもらっていたことですが、わかりやすいと感じたので補足的に示しておこうと思います。簡単にいうと、少子化の状況下においては、小中一貫というのはとても合理的な制度だ、ということです。なぜならば、日本の公立学校の場合、複数の小学校から進級して同じ中学校に集合する、というように、数としては小学校>中学校になっているでしょうから、廃校になるとしたらまずは小学校から、ということになりますよね。もしも自分の校区の小学校が潰れて、隣の小学校と統合することになったらどんな気持ちになりますか?すごくイヤな気持ちになりませんか。隣の小学校を潰すことにして、自分のところに統合されればよいのに、と思わないでしょうか。これでは喧嘩になってしまいますので、次に両校の真ん中に新しい学校を作りましょうか、ということを考えます。でも、それはコストがかかりますよね。そこで彗星のように登場するのが、両校とも潰してしまって、進学予定の中学校と統合してしまおう、という発想です。揉めることもなく、新たに学校を建てるコストもなく、「どうせ進学することになる中学校に今から行くことになるだけ」という、画期的な解決策が小中一貫だ、ということです。これは簡単なようでなかなか思いつかないことだと思います。私も教員から教えてもらって、目から鱗というか、背景の理解が深まった気がしました。
この制度が整備されれば、教員免許状はどうなるのでしょうか。気になります。答申では「既存の免許状の併有を促進すること」を提案しています。どのように促進するかですが、所定の講習を修了することを案として挙げ、教職経験を勘案して単位数を軽減することも同時に示しています。要するに、併有することを容易にしようということです。なんなら、「どちらか一方の免許状を持っていれば、もう片方を教えられることにする」という経過措置も併せて示されています。加えて、小中の免許を併有できれば、中学校の専科免許があることを強みとして、小学校においても専科指導が可能になることが可能性として示唆されています。新免許状を創設するかどうかについては、教員養成部会で引き続き検討を行う、といわば先延ばしされています。そりゃそうだろうなという気はします。このようなドラスティックな免許制度の変更なんて、なかなか軽々に決められるものではありません。
ちなみに、免許状併有のための工夫のところで、都道府県教育委員会には「大学に両免許状の取得促進を働き掛けるなど、免許状の併有率に関する具体的な目標を設定し、必要な措置を計画的に講ずることが期待される」としています。もしかしたら更新講習みたいな感じで、大学には養成段階のみならず、現職に対するサービスも部分的に役割として与えられるかもしれませんね。

②大学への飛び入学を容易にするため、高校の早期卒業を制度化する

知らなかったのですが、現行の飛び入学制度は、高校を中退した上で大学に入学する形態になっているみたいです。これでは、飛び入学者がなんらかの事情で大学を中退したときに、最終学歴が高校中退になってしまうという問題がありますよね。これを解決したいということのようです。さらにいえば、優れた人材はどんどん先に進めるようにする、といういわば当たり前のことを整備していきたいので、この制度をその端緒としたいという雰囲気が伺えます。

③留学生の大学入学資格を緩和する

何が問題になっているかというと、現行の制度では、留学生が日本の大学に入学しようとすると、「我が国の高等学校卒業に相当する12年間の教育課程の修了」が求められるそうです。これも知らなかった…!12年間って、つまりは日本の学校教育における小学校から中学校までと同じ年数ってことですよね。この数字は日本の学校教育制度を前提にしているのであり、あまりに自己本位です。そして、諸外国の教育制度は当然わが国と同じではありません。だから、もうちょっと柔軟な仕組みを考えていこうよというのが要点です。

④「高等学校専攻科」等から大学への編入学を容易にする

資料の骨子には「高等教育機関の間での進路変更を柔軟にする」と書いてあったので、すわ、いよいよボローニャ・プロセスみたいに、大学入学後の大学間の移動を容易にするのか!とはやとちりしたのですが、そうではなかったです。現行の制度では、大学以外の高等教育機関から大学の途中年次に編入が認められているのは、短大、高専、一定の要件を満たす専門学校、だけであり、ここから排除されるのが「高等学校専攻科」や「職業能力開発大学校短期大学校」です。このあたりは、卒業しても大学へ編入できないので、普通に入学するしか手段がないようです。不勉強で恐縮ですが「高等学校専攻科」「職業能力開発大学校短期大学校」というのがどういうものなのか、私はよく知りません。軽くググってみたのですが、前者は職業科のようなものでしょうか?いずれにせよ、この提言については、新しい提案というよりも、実状に合わなくなってきた制度の不備を是正する、ということのように思えました。

以上、簡単に内容を解説してみました。趣旨は、タイトルにあるように、子どもたちの個性に応じたメニューを用意するために、硬直化した制度を柔軟に変えたい、ということにあるでしょうから、方向性は正しいものだという印象を持ちました。