標記の研修に参加しました。
インストラクショナルデザインは近年注目されている考え方でして、文献等で読んだことがあったのですが、今一つどういうものなのか掴めませんでした。
そのため、一体どういう考え方なのか?という基礎的なことを知ろうと思って行ったのですが、収穫は予想以上でした。行ってよかったです。
以下に内容を報告します。例によってメモのようなものですが、ご容赦ください。
※掲載にあたり、許可は得ておりません。問題がありましたらご連絡いただければと思います。
平成26年度 熊本大学公開講座 インストラクショナルデザイン入門編
日時:2014年11月9日(日)10:00~16:30
会場:大阪駅前第3ビル
テーマ:理論編 IDを知る!
【成果】
・IDの基本の「き」が理解できた
【反省点】
・いつものことだが、もう少し参加者の方とコミュニケーションをとるべきだった
【所感】
医療分野からの参加者が非常に多く、新鮮だった。IDは講義だけでなく、どのような場面にも使えるという話があったが、まさしくそのとおりだと感じた。大学の職員という領域では、人事の研修や、学生に向けたガイダンスに使えると感じた。後者については、さっそく実践的に取り組んでみたい。最後に受講証までいただけて、とても満足度の高い1日だった。
【以下内容】
『参加者の背景』
・医療系が36%、大学が最大で45%。参加者が多岐にわたっているということは、色んなところで使えるということ
・参加者の問題意識:eラーニングをうまく授業に取り入れるには、教育効果の測定方法、看護実践能力の向上を図るための効果的な研修、自己学習を効果的にしてもらう方法、熊本大学大学院について
①インストラクショナルデザイン(ID)とは何か?(熊本大学大学院教授システム学専攻専攻長・教授 鈴木克明氏)
・IDは教育のお悩みを解決する道具。「役に立つ学問」を目指している
・IDとは出口と入口のギャップを埋めること
・IDとは効果・効率・魅力を高めること
・自分で学ぶ人を育て、自分も専門家になる。これが一番言いたいこと。教育の究極の目的は、自分で学ぶ人間を育てることだから
『熊本大学の紹介』
・九州大学よりも歴史がある。小泉八雲、夏目漱石、池田勇人、佐藤栄作
・教授システム学専攻は、平成18年4月開設。完全オンラインの大学院。日本発!4つのI(ID+IT+IM+IP)で学ぶeラーニングによるeラーニング専門家養成大学院
『インストラクショナルデザインとの出会い』
・勉強できるところがなかったので、アメリカに行って勉強した。その内容を日本向けに翻訳した
・「教材設計マニュアル―独学を支援するために」(2002)を、東北学院大学での勤務時代、教職課程「教育方法」のテキストとして執筆した。このテキストは、講義の中身を冊子にしたものである
・講義の中身がテキストになったので、講義で話すことがなくなり、講義時間は確認テスト&相互チェック作用&相談の時間になり、寝ている人はいなくなった
・言いたいことを書くだけでなく、ID的工夫を盛り込んだ(学修目標・キーワード・背景・練習・フィードバック・見取図・課題・カリキュラム案・テスト)
・大学がやめるべきことは2つある。それは講義と定期試験。なぜ定期試験がまずいか?年に2回だと年に2回しか勉強しない。毎日テストをやればよい
『出口と入口のギャップを埋めること』
・大学教育は成長プロセスであり、=出口(卒業生像)-入口(入学生像)である
・大学が一番楽なのは、出口と入口のギャップが小さいこと。入学時点で社会に出て恥ずかしくない者をとること
・アメリカから帰ってきたころは、もっと大学教育への関心は薄かった(放っておけばいいという感じ)
・看護学部でも、国家試験受かればそれでいいのかというと、そういうことではないのが面白い
・入口:入試内容と方法、予告効果。出口:業界標準(資格・スキル要件)、就職先ヒアリング(ニーズ調査・広報)、同窓生追跡調査(有用度、新たなニーズ)
・大学を例にしたが、病院だってなんだって同じ。新人看護師の教育など
・成長プロセス=教育理念(科目横断的指針)+カリキュラム構成(必修・選択、先修要件)+科目ごとの単位認定要件(到達目標と評価方法)
・設計対象=システム+コンテンツ+アクティビティ+変革プロセス
・IDは元々設計が重視されていたが、最近ではアクティビティ(どういう活動をさせるか)が大切にされている
・デザイン要素=オンライン要素+オフライン要素
・「会わなくてもいい」というのは、教育者としてどうかとも思うが、実際にはできる
・よくこういうところでディスカッションすると、場を独占する人や、発言しにくい(ピア・プレッシャー)人もいる。オンラインだとそれがない
・昔やったことがあるが、懇親会だけはオンラインでは難しい
・質保証の5レベル=いらつきのなさ(レベル-1)+うそのなさ(レベル0)+わかりやすさ(レベル1)+学びやすさ(レベル2)+学びたさ(レベル3)
『IDといえばADDIEモデル』
・Analyze→Design→Develop→Implement→Evaluate
・実施だけではない。実施する前に色々とやることがあり、それが重要である
・このプロセスを下支えするID理論、モデルが必要である
・5つの観点からチェックできる。①出口②入口③構造④方略⑤環境
・カートパトリック(1998)による評価の4レベル→レベル1:反応(参加者はトレーニングに対してどのような反応を示しましたか?)、レベル2:学習(どのような情報とスキルが含まれていましたか?)、レベル3:行動(参加者はどのように知識とスキルを仕事に生かしましたか?)、レベル4:結果(トレーニングは組織と組織の目標にどのような効果をもたらしましたか?)
・評価という前に、評価を区別しましょうということ
・教育機関のような大学でいえば、レベル2までは責任を持たなければならないだろう。しかし、病院の研修ならレベル3までは必要だろう
・一般的な研修は、レベル2までしか達成されないもの。そういうものが多い
・このモデルによって、「そういうことなんだ」ということは明らかになる
・無駄な研修をいかにやめるか?ニーズ分析(「Why」への答えを探し出す)が有効。こういうことがはやっているから、他の会社でやっているから…で研修をやるのはダメ。現実に今困っていることや、これから起きそうなことに焦点をあてなければならない
・研修不要者(既に理解している人)と準備不足者(やれといったことをやってこなかった人)は断る。このことによって、はじめて教育に責任を持つことができるようになる。もしこうした入口の管理ができない場合は、非常に大きな責任がかかっていて、本来無理なことを負っているということを自覚すること
・アンドラゴジーとペダゴジーの差異:誰でも子ども扱いされたくはないが、不安も依存心である
《質問》「入口で切るということが現実的に難しくなっているが、それを踏まえてどうか?」
→(回答)必要なものであれば本来入試にその科目を設けなければならない。それは大学の責任である。設けていないのに高校に責任を押し付けるのはおかしい。また、リメディアルを高校と同じやり方でやるのはだめ。「高校の生物」が必要です、のような話はだめで、高校のこの分野が必要、ということを、必要となった時点で、オンデマンドでやっていくのがよいだろう
『IDとは何か?』
・定義:教育活動の効果と効率と魅力を高めるための手法を集大成したモデルや研究分野、またはそれらを応用して学習支援環境を実現するプロセスのこと
・「教育効果」「教育効率」「魅力」がIDの目指す3つの目標である
『ARCSモデル』(John M.Keller)
・ARCSモデルは1983年に誕生した
・A(Attention,おもしろそうだ)、R(Relevance,やりがいがありそうだ)、C(Confidence,やればできそうだ)、S(Satisfaction,やってよかった)
『9教授事象』(Robert M.Gagne;IDの父)
・Gagneは元々学習心理学者であった
・学びの過程を支援するプロセスには9つある
・事象1(学習者の注意を獲得する)、事象2(学習者に目標を知らせる)、事象3(前提事項を思い出させる)、事象4(新しい事項を提示する)、事象5(学習の指針を与える)、事象6(練習の機会を与える)、事象7(フィードバックを与える)、事象8(学習の成果を評価する)、事象9(保持と転移を高める)
・以前の大学の講義は、事象4と8だけでよかった。他は学生が勝手にやっていて、これは学生相手にしか成り立たない教育方法。1~9まで全てやるのは小学校の教育方法である
・親切にすればするほど、自律性から離れていく
・1~9全て、教員がやらなければならないということではない。特に成人の場合はそうだ。最初はやっても、じょじょに「手を抜いて」いかないといけない。その結果として自律する
《質問》手はどのように抜いていけばいいのか?
→(回答)まず手順として考えられるのは、メタの構造を示してやること。非常に難しい。まず意識化して、何をどのように抜いていくかを考えるということ。9つを全てやるのは避けた方がいい。ARCSモデルも同じ。全てやってはだめ。受講生にやる気があれば、「全然使わない」というのが正解である
②「その気」にさせる保健指導(熊本大学政策創造研究教育センター教授 都竹茂樹氏)
・元々は臨床医で、疫学をやっていた
・疫学は見ているだけで介入しない(むしろしてはいけない)。介入したかった
・教員になるまでは、メタボの支援をビジネスでやっていた。ビジネスでは結果を出さないといけなかったので、試行錯誤した。そしてIDに出会い、今は大学でIDを教える立場になった
・メタボの人にどんな解決策があるか?
・適切な食事と適度な運動を継続すること→誰でも知っている。問題は、やるか・やらないか
・どういうサポートをすればやってもらえるのか?ARCSを使ってやってみよう
・興味ない:なぜか?他人事だから。ひどい人は「自分だけでは大丈夫」と思っている→どうやって自分事と思ってもらうか?
・行動しない:「時間がない」。まず間違いなく言い訳。時間があってもしない。レコーディングダイエットは理論的には正しいが、めちゃくちゃめんどくさいので続かない。よって、理論的に正しいことが結果に繋がるかどうかはケース・バイ・ケースである。では脅せばいいのか?ドクターはよく脅す。危機感や恐怖感からアクションを起こしてもらうというやり方はあるにはあるが、どれだけ変わっても1~2割。絶対に変わらない人も1~2割いる。絶対に変わらない人は、最初は諦める
・出口はPut Knowledgeだけでは不十分で、into Actionまで必要
・「気合い」は絶対続かない
・リバウンドというのは、体重が戻るだけではない。それなら全くやらない方がマシなくらい。肥満業界ではリバウンドを繰り返すことを、ウェイトサイクリングと呼ぶ
・太っていない若い女性にリバウンドを繰り返す実験をした。太ってない女性が食事制限で、1か月で4キロ落とす、食事を戻したら2週間で体重が戻った。結果どうなったか?基礎代謝が落ちたり甲状腺ホルモンに異常が出たりする
・頑張れ頑張れという「気合い」はリスクが高い
・ダイヤモンドオンラインでの連載で読者モデルを募集した。全員が1か月で腹囲を落とした。彼らは意識の高い人たちではなく、今まで何度もリバウンドしてきた人たち
《グループワーク》
・あなたは、医師であり保健師
・クライアントは、やる気があるわけでもないわけでもない人
・興味はない、行動しない、継続しない
- 課題を1つ選択
- ポストイットで課題を出す(3分)
- ARCS分類(10分)
- 優先順位を決める(3分)
《グループワーク終了》
興味がない人をどうするか:
・まずは外見。6000人のデータをとったが、外見に食いついてくる人が多い。
・知覚的喚起「目標=1カ月でウエスト5cm減らす」
・変わった人はモデルとして出てくれる(身近な例で具体性を高める)。親しみやすさ
・いかにつかみ(タイトル)が大事か。来る人はリピーターじゃない。初めてくる人
・「Welcome to Body Design School」病気の話は一切出していない。結果として病気のリスクが下がった、というような意識をしている。どちらの方が興味を持ってもらえるのか?
行動しない人をどうするか:
・まずはこの3種目からと言う。1日10分、1か月。なぜ1か月か?1か月やっても変わらない人は変わらないから
・食の約束→和食 よく噛む お茶お水
・欲張らないこと
・食事とか運動というのは基本的に変わらない。それを変えようとするのは大変なこと
継続しないをどうするか:
・目的指向性(学習者)
・やりがいのあるゴール(出口)設定。こんなカラダになりたい
・成功の機会(学習者)。他人との比較ではなく、過去の自分との比較で進歩を確かめられるようにする→面白いのは、変わり始めるとやること
③ARCSを使って,問題を分析してみましょう(熊本大学教授システム学専攻 平岡斉士)
・ARCSを使って改善案を出す。ARCSを使って分析し、問題を抽出する
《グループワーク》
・任意の授業を分析して、問題点を明らかに
・ARCSを道具として使う:
- 分析:問題をARCSで分析する
- 目標:どうなったらよいかをARCSで示す
- 基準:どうなったらそうなったといえるかをARCSで示す
- 方法:どうしたらそうなるかをARCSで示す
- 試す:考えた方法を試してみる
- 評価:基準に照らし合わせて、目標を達成できたかどうかを判断する
《グループワーク終了》
・IDは便利な道具。まずは、よいユーザーになってください!車を運転するのにその構造を理解する必要はない。まずは楽しく運転できればよい