松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

小入羽秀敬(2019)『私立学校政策の展開と地方財政:私学助成をめぐる政府間関係』(吉田書店)を読了

本書は,国による私学助成政策の変化が,地方教育財政にいかなる影響を及ぼしたかについて,政府間関係論を援用しながら分析したものである。
一番の特徴は,高校以下に対して配分される私学助成に焦点をあてたことであろう。
おそらく大学関係者にはあまり知られていないことだと思われるが,私立高校以下に対する私学助成は都道府県を経由して配分されているため,地方に一定の裁量がある。
「現行の県私学助成は奨励的国庫補助金(私学助成の約30%)と地方交付税(私学助成の70%)の混合型の財源措置」(p.6)なのである。大学に対する私学助成は私学事業団を通じて行われるが,それとは違う。
それゆえ,先行研究における私学助成をめぐる「助成」や「規制」の分析対象は,大学であった。しかし,私立大学の経営は学校法人が行っているから,附属学校を捨象できない。その上,日本の私立高等学校は日本の全高等学校の約3割を占めている(p.2)のである。
筆者の問題意識は,使途が限定されている国庫補助金と限定されていない地方交付税があり,後者の方がより割合が大きいにもかかわらず,現実には地方交付税にも「国の決めたスタンダードに収斂していく機能」(p.190,「標準化機能」)があったことに帰着してゆく。
つまり,制度的には存在するはずの一定の裁量が,実はほとんどない,なぜそういう風になっているのか,を描き出そうとするのである。

本書を拝読した目的は2つあった。1つは,最新の私学助成研究をフォローすることである。
最近,自身の専門分野を書かなければならないとき,高等教育論の下位分野の記載を求められたら,「私学助成」と書くようにしている。
自身の問題関心は,結局のところ私学助成に枠づけられるなと考えるようになったからである。
もう1つは,博士論文が本となった本書を拝読することで,博士論文をどう書くかを学習することである。
原著論文を博論にまとめあげようとするときの大変さを推察しつつ,果たして自分にこのような丹念なことができるだろうか(いや,できまい)という不安にかられてしまった。
なお,著者の小入羽さんが広島にいらしたとき,しがない自分のような研究にも多くのコメントをいただき,帝京に行かれてからも学会の日にかなりの時間を割いてアドバイスをくださったことを今でも覚えている。
なんとかそのご恩を返していきたいと改めて思った次第である。
章立ては次のとおり。

序章 先行研究の動向と分析枠組み
 第1節 問題関心と課題設定
 第2節 先行研究の状況
 第3節 本書の分析枠組みと分析課題
 第4節 本書の構成
第1章 国レベルの私学助成制度
 第1節 文部科学省の私学担当部局
 第2節 国庫補助金制度の変遷
 第3節 私立学校への貸付金
 第4節 地方交付税の制度と措置額
 第5節 小括
第2章 県レベルの私学助成制度
 第1節 県における私学担当部局
 第2節 県による私学助成の予算積算制度と配分制度
 第3節 小括
第3章 生徒急増期が私学助成制度に与えたインパク
 第1節 生徒急増期における国の対応
 第2節 都道府県の対応
 第3節 事例分析
 第4節 小括
第4章 人件費補助の精度かが県私学助成に与えた影響
 第1節 国による私学助成政策の転換
 第2節 国の制度変更に対する都道府県の対応
 第3節 事例分析
 第4節 小括
第5章 私立学校振興助成法の成立による国庫補助金の導入
 第1節 私立学校振興助成法の成立と国による私学助成制度の変更
 第2節 国の制度変更に対する都道府県の対応
 第3節 事例分析
 第4節 小括
第6章 財政難・生徒減少期の私学助成
 第1節 2000年前後の国の動向
 第2節 国の制度変更に対する都道府県の対応
 第3節 事例分析
 第4節 小括
終章 知見と結論
 第1節 知見の総括
 第2節 結論と含意
 第3節 今後の課題

私立学校政策の展開と地方財政――私学助成をめぐる政府間関係

私立学校政策の展開と地方財政――私学助成をめぐる政府間関係