松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

「(私学助成)が1人あたり152万円と国立大を上回る事例もあった」(日経新聞)→それは私立医科大学です

「経常費等補助金が1人あたり152万円と国立大を上回る事例もあった」は本当か?

少し前に気になる記事がありました。
それがこちらです。(赤字は筆者)
www.nikkei.com

国立大の1人あたり交付金、12倍の格差 山形大調査

 山形大学は8日、国立大学の運営費交付金に関する集計結果を公表した。国立大全86校について学生1人あたりの交付金がいくらになるか集計したもので、大学によって最高612万円から最低51万1000円まで12倍の開きがあった。小山清人学長は「国立大は横並びとの批判を聞くが、開きは大きい。適切な交付のあり方の議論につなげたい」と話した。
 2016年度の各大学のデータを集計し比較した。大学名は出していない。一般に理系学部のある大学は交付金が多くなる傾向にあるが、同じ教育系や工学系大学でも約3倍の開きがあった。医科系では最も多い大学が479万円、最も少なくても441万円と高額だった。
 一部の私立大を調べたところ、私学助成金の大半を占める経常費等補助金が1人あたり152万円と国立大を上回る事例もあった。
 国立大の授業料は年間約53万円で、授業料より交付金が少ない大学がある一方、11.4倍を受け取るところも。小山学長は「日本では研究費と教育費が一緒に交付されるが、教育費については学生1人あたりの額を決めてほしい」と話している。(日本經濟新聞 2018年11月8日 16:46)

さらっと書いてありますが,経常費補助金が1人あたり152万円と国立大学を上回る事例があるそうです。
果たして本当でしょうか。少し調べてみました。

たしかに,本当です。けれど,その私立大学は単科の医科大学です。

確認に使用したデータは,以下で公表されている2016年度の情報(一般補助と特別補助の合計)です。
補助金の交付状況|私学振興事業(助成業務)|私学事業団
これに,『大学四季報データベース』*1における2016年度の大学の学生数をマージして確認しました。
1人あたりの経常費補助金が多い順に,20位までを並べてみましょう。

順位 大学名 1人あたりの補助金額(円)
1
日本医科大学
3,467,779
2
東京慈恵会医科大学
3,071,545
3
聖マリアンナ医科大学
2,578,569
4
東京女子医科大学
2,493,551
5
自治医科大学
2,045,486
6
関西医科大学
1,945,533
7
兵庫医科大学
1,760,361
8
東京医科大学
1,605,241
9
埼玉医科大学
1,498,879
10
昭和大学
1,474,051
11
獨協医科大学
1,418,975
12
順天堂大学
1,249,782
13
大阪医科大学
1,175,754
14
川崎医科大学
1,118,038
15
金沢医科大学
1,112,769
16
藤田保健衛生大学
988,084
17
愛知医科大学
981,034
18
東京基督教大学
899,684
19
東日本国際大学
874,770
20
稚内北星学園大学
860,683

上位20大学のうち,単科の医科大学が14でした。また,昭和大学順天堂大学藤田保健衛生大学も単科ではないだけで,医学部を保有しています。
18位の東京基督教大学まで至って初めて医学部を保有しない大学が登場し,それより上は全て医学部保有,そのうちほとんどは医学部だけを保有する医科大学であると言うことができます。
特に,記事でターゲットとなっている「152万円以上」を基準とすると*2,それを超えるのは単科の医科大学だけとなります。
記事を普通の読解力がある人が読むと,「私立大学ですら,国立大学を超える公的資金が投入されている(だから,国立大学の格差はアンフェアな状況なのだ)」という主張を捉えることになりますが,ここでいう私立大学は単科の医科大学であるということになります。
仮にそうだとしたときに,単科の医科大学というのは私立大学の中ではかなり特異な存在であることは明らかですから,ふわっと「私立大学」と書いてしまうことはミスリードを招きかねないように思います。

私立医科大学ないし医学部の学生1人あたりの補助金額はなぜ多いのか?

私立医科大学ないし医学部の学生1人あたりの補助金は,なぜこのように多いのでしょうか。
それは,2つの現象の掛け合わせで生じます。
1つは,補助金算定の基礎となる人員の算定について,医学部は割増をされていることです(より厳密に言えば,歯学部も。上記のランキングでは,昭和大学は歯学部も保有しています)*3
もう1つは,ST比が極端に低いことです。
私立大学のST比の中央値はおおむね20前後ですが,医学部ないし医科大学の場合は,多くて3, 少なくて1を切ってきます。
この両者の掛け合わせによって,学生1人あたりの補助金額は多くなります。
その上で,上記ランキングを見たときに,高いと思うか,安いと思うかは,判断がわかれるだろうと考えます。
私立の医科大学は学費そのものが超高額なので,個人的には高いとは感じません。
しかしそこは血税ですから,最終的には世の中が決めることだと思います。

*1:本データベースは広島大学高等教育研究開発センターの支援を得て購入しています。

*2:「152」というかなり具体的な数値に近似する値を示した大学がなく,データの出典ないし計算方法にも少し疑問があります。

*3:具体的なことは,日本私立学校振興・共済事業団(2013)『補助金事務必携』か,同事業団のウェブサイトに示される補助金配分基準を参照されてください。