松宮慎治の憂鬱

タイトルは友人が考えたもので,某アニメのことはわかりません。

南風原朝和編(2018)『検証 迷走する英語入試――スピーキング導入と民間委託』(岩波ブックレット)を読了

今さらながら標記の本を読了した。章立ては次のとおりである。

第1章 英語入試改革の現状と共通テストのゆくえ(南風原朝和
第2章 高校から見た英語入試改革の問題点(宮本久也)
第3章 民間試験の何が問題なのか――CEFR対照表と試験選定の検証より(羽藤由美)
第4章 なぜスピーキング入試で、スピーキング力が落ちるのか(阿部公彦
第5章 高大接続改革の迷走(荒井克弘)

第1章ではまず,英語入試改革のこれまでの流れを整理し,進行中の改革の問題点を指摘する。
ここで指摘されている改革(民間試験)の主な問題点は,(1)高校の学習指導要領と乖離していること(2)試験や採点の質に疑問符がつくこと(3)異なる民間試験を無理に対応づけていること(4)受験にかかるコストが受験者負担であり,経済的・地域的格差を誘発すること,の4点である。
続く第2章では,現職の高等学校長から見た問題点が描かれる。具体的には,(1)高校の学習実態との乖離(2)高校の英語教育の民間志向への変質可能性(3)家庭や居住地域による経済的・地域的格差の捨象(4)高校教育の日程の見直しの必要性(5)大学入試でどのように活用されるかが不透明,の6点である。
第2章の(3)までで示される問題点は,表現こそ違うものの,第1章と全く同じと言っていいであろう。
第3章では,CEFR対照表が文科省によって権威づけられた(だが,文科省自身はその検証をしていない)ことを批判する。
また,対照表そのものが二転三転したということから,官民のどちらが主導したかはともかくとして,対照表の作成過程は単なる「つじつま合わせ」に過ぎず,そのことが国民に隠されていると喝破する。
第4章では,政策の出発点となった「四技能」そのものに疑義が呈される。
英語運用能力の基礎は,「読み」や「書き」といったように厳密に区別することはできないというのである。
第5章では,英語入試改革の背景にある高大接続改革の問題点が解説され,問題点が指摘される。とりわけ,文科省の人事異動によって高大接続改革の主導権が高等教育局ではなく初等中等教育局にわたったこと,記述式問題と英語四技能試験に文科省が過剰に執着したことなどに,踏み込んで疑問を挙げている。

以上のように,本書は英語入試改革の実証的根拠のなさ,もう少し雑駁に言えばいきあたりばったり加減を明確に批判したものである。
「はじめに」で述べられたように,この出版がまさに「緊急企画」であり,混迷に向かう改革の進路を阻みたいという意図を強く感じる。
「瀬戸際で受験生とその予備軍を守れるのは各大学の「使わない」という判断」(p.68)という言葉もあるが,このブックレットが発売されたあと,東京大学のWGがこれら民間試験を不使用とする指針を示した。
これからの成り行きが注目される。
と,他人事のように言っている場合ではない。
正直言って,英語入試改革の趨勢は追えないでいたから,本書の後半にまとめられた年表は非常に助かった。
自身も当事者なのであるから,もう少しよく勉強しなければならない。