松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

伊神満(2018)『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』(日経BP社)を読了

本書はご存知,クリステンセンによる『イノベーションのジレンマ』を,経済学的見地から実証的にサポートしたものである。
クリステンセンによるそれは,

「テーマと事例は面白いが、理論も実証もゆるゆるだ。経済学的に煮詰める必要がある」

からである。
本書の冒頭ではまず,イノベーションがいかにして起こるか,あるいは怒らないか,その阻害要因は何か,といったことについて,「共喰い」「抜け駆け」「能力格差」という3つのキーワードで説明する。
その上で,具体的なデータ分析(相関,回帰,機械学習,対照実験,反実仮想シミュレーション)により,「ジレンマ」の解明を試みる。
本書の結論は以下のとおりである。

①既存企業は、 たとえ 有能で戦略的で合理的 であったとしても、新旧技術や事業間の「共喰い」がある限り、新参企業ほどにはイノベーションに本気になれない。(イノベーターのジレンマの経済学的解明) ②この「ジレンマ」を解決して生き延びるには、何らかの形で「共喰い」を容認し、推進する必要があるが、それは「企業価値の最大化」という株主(つまり私たちの家計=投資家) にとっての利益に反する可能性がある。一概に良いこととは言えない。(創造的「自己」破壊のジレンマ)
③よくある「イノベーション促進政策」に大した効果は期待できないが、逆の言い方をすれば、現実のIT系産業は、丁度良い「競争と技術革新のバランス」で発展してきたことになる。これは社会的に喜ばしい事態である。(創造的破壊の真意)

個人的には,データ分析の章の説明がわかりやすく,勉強になった。
というのも,おそらくこの本は一般の読書に向けて書かれたもので,計量経済学のオーソドックスな解説はかなり省略しつつ,語り掛けるように解説してくれているので。
もちろん,わかりやすいことが全てではないが,勉強中の身にはありがたかった。

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明

「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明