松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

中澤渉(2018)『日本の公教育:学力・コスト・民主主義』(中公新書)を読了

本書は,さらにもう一つ前のご著書『なぜ日本の公教育費は少ないのか:教育の公的役割を考えなおす』(勁草書房)を補完する意味で著されたものである(「あとがき」より)。
社会科学の方法論や専門的知見を広範に引用しながら,公教育の在り方を考える上でどのような視座が存在するのかをわかりやすく解説している。
とりわけ印象に残ったのは,第3章「教育政策とエビデンス」である。
同章では,教育政策におけるエビデンスを単に「重要だ」と言うのではなく,エビデンスの前提となる複数の統計的手法を示しつつ,それらの分析を完全に信じ込むのは危険であると述べる。
同章で示されている手法は,RCT(ランダム化比較実験),傾向スコア,回帰不連続デザイン,パネルデータ等であるが,これら統計分析には当然,強みと弱み,限界がある。
筆者が特に協調するのは,統計分析は社会的マイノリティの分析には必ずしも強くない(p.159)ということである。
それゆえ,具体的な実践記録等の蓄積(=統計分析にもとづき,安易に「答え」を求めようとしないこと)が求められると言うのである。