松宮慎治の憂鬱

タイトルは友人が考えたもので,某アニメのことはわかりません。

中西のりこ・仁科恭徳編著(2018)『グローバル・コミュニケーション学入門』(三省堂)を読了

標記の本を読了した。第1章では,「グローバル・コミュニケーション学」の定義づけ( 「誰に、どんな情報を、どう伝えるか」「誰が発信した、どんな情報を、どう受け取るか」を考える学問)が行われるが,まずその前段階として「グローバル」と「コミュニケーション」それぞれの説明がなされている。具体的には,語源としての球状(グローバル) 化に伴う意味ある人間関係の拡大と,それに伴う「洗練された情報 処理」の必要性を提起する。その上で「洗練された情報処理」 を行うために知るべきものが「ノイズ」であり,この「ノイズ」 がいつ,どのように生じるかが「グローバル・コミュニケ― ション」のポイントであることを指摘する。
第2章では,「非言語コミュニケーション」の最たるものとして, 色彩を取り上げる。より詳細には,色彩と言語の関係,色を選好す る色型人間と形を選好する形型人間の違い,地域や国により色彩の 好みの差,色彩に込められるイメージと効果等である。これら色彩の科学的解説が行われている。
第3章では,絵文字を取り上げる。絵文字というのはごく最近使われ始めた新しい「記号」であり,サイバースペースでのコミュニケーションの特質によくフィットしているという。このため,カジュ アルなコミュニケーションはますます絵文字で進行することになり ,最終的には「絵文字言語」が成立する可能性を指摘する。
第4章では,地域の個性を発信する手段としての都市デザインを取 り上げる。実践事例としての神戸市と京都市を紹介しつつ,地域資源の再発見と継承が要諦であること,近年の課題として住民の意識づけが求められていること等を挙げる。
第5章では,マーケティングをコミュニケーションの視点から描き ,地球規模の視点でブランディングおよび標準化と適応化を行うことの重要性を示す。その一例としてフェアトレードを挙げ,自身の消費行動と途上国への貢献を紐づけることの成功,その一方で消費者への情報還元が不十分であるとの課題が述べられる。マーケティングとコミュニケーションの間には一定の距離があるようにも思わ れるが,必ずしもそうではなく,「コミュニケーションが上手な人 は、優秀なマーケターとしての素地がある」(p.66)という。
第6章では,ホスピタリティ失敗の規定要因をメタ認知的視点からとらえる。具体的には,①行動と理想の乖離(「 思ったより難しい」)②思い込みによる失敗③キャパオーバー(= 「認知資源」の逓減)の3つである。これらを通して, 普段の自分を客観的に見つめる「モニタリング」と, 何をどう改善すべきかを考えて実践する「コントロール」 の継続が推奨される。
第7章では,ホスピタリティとは何かが概説された上で,ホスピタ リティとサービスの比較を論じる。先行研究によれば,サービス概 念では主人と客人が「する側」「される側」と主従関係にある一方 で,ホスピタリティ概念ではこれを対等とみなすという。
第8章では,心理学の関係フレーム理論を紹介し,人間の言語発達 および認知との関連が,グローバル・コミュニケーションとどのよ うに繋がるのかを解説する。とりわけ,① 言語による入手できる情報の制限②言語による概念理解の差異③文 化や言語ごとに異なる関係ネットワーク生成の違い,といった諸要 素の影響について述べる。
第9章では,音声を取り上げる。はじめに,「グローバル・コミュ ニケーション」=「英語」,「グローバル」=「外国・海外」 といった,偏った高校生の期待を記述する。その上で,一口に英語 を話すといっても「ネイティブ・スピーカーモデル」「通じる英語 モデル」「日本語英語モデル」といったいくつかの志向にもとづく 分類が可能であるという情報を提示し,「どのように話したいか」 「どう話せば,話せたことになるのか」といった視点を持つことが 重要であることを示唆する。
第10章では,「ジャンル」を取り上げ,「ジャンル」がコミュニ ケーションの目的別に整理できることを述べる。その上で,そもそも英語を学ぶといったときに全てを学ぶ必要はなく,利用するジャ ンルを絞って習得すればよいのだというアドバイスがなされる。
第11章では多文化共生の定義,理念,目標を提示する。その上で ,多文化共生に主眼を置いたグローバル・コミュニケーションがど のようなものかを示す。具体的には,傾聴,判断保留,自立援助, 自己開示等である。
最終章では,第3次ブームとされるロボット・AIを取り上げ,そ れらがどのようにコミュニケーションに影響しているのかを示す。 転機をもたらしたのはディープラーニングというアルゴリズムであ り,教師あり学習が不要となったことであるという。現在実用化が 加速しているものとして翻訳アプリやアンドロイドが挙げられている。

 

本書を拝読して,新たに知りたいと思ったことが2つある。
1つ目は,「ノイズ」についてである。たとえば,「ノイズ」を最小限にし,クリアになった世界は理想型と言えるのだろうか。
また,インプット→スループット(ノイズあり or なし)→アウトプット(アウトカム)の関係を考えたときに,ノイ ズが小さいと,アウトプット(アウトカム)は必ずより良好になるのか。
スループットにノイズが含まれたとしても,アウトプット(アウトカム)は良好であるという状況は想定しうるだろうか。
この疑問は,とりもなおさずコミュニケ―ションの本質がプロセスなのか,結果なのかということに関連すると思われる。
もう1つは,第3章に関連して,LINEのスタンプのようなコミュニケーションは,絵文字なのか記号なのかということである。
自分の世代だと絵文字はポピュラーだが,今の若い世代にとっては ほとんど過去のものであろう。
LINEのスタンプのようなものの発展は,サイバースペースでのコミュニケーションがよりリアルに近接することを示唆している気がして,もしそうであれば最終的に対面状態に回帰して いくのではないかという感想をもった。
最後に,本書は主として,勤め先である神戸学院大学グローバル・コミュニケーション学部の1年次配当科目「グローバル・コミュニケーション入門」のために作成されたテキストであると思われる。
自身の担当している学部の学びに関する概論的なテキストがこのように出版されるのは,教務担当者として大変ありがたい。
予定されるカリキュラム改編の検討の際に,本書の内容を念頭に置 いておきたく思う。
(なお,第3章では1期生・現4年次生の北口貴絵さんのイラスト が使用されているので,併せて参照されたい) 

 

グローバル・コミュニケーション学入門

グローバル・コミュニケーション学入門