松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

笠京子(2017)『官僚制改革の条件:新制度論による日英比較』(勁草書房)を読了

新制度論の理解を深めるために,標記の本を読了した。
日英の官僚制改革の比較分析を行っており,方法論として新制度論を援用している。
本書の冒頭で提示されている新制度論の分析枠組みは,Schmidt(2010)による合理的選択制度論,歴史的制度論,社会学的制度論,構成主義制度論の4つである。
これら4つの新制度論について,
 合理的選択制度論:取引費用仮説,PSBs仮説
 歴史的制度論:政治行政制度仮説
 社会学的制度論:正統化仮説
 構成主義制度論:アイデア競合仮説
の5つの仮説を設定した上で比較分析を行い,分析結果から4つの新制度論の位置づけの修正をする。
具体的には次のとおりである(p.277)。

新制度論という枠組みのなかで,十分に説得力のある議論ができるのは,合理的選択制度論と歴史的制度論である。社会学的制度論はやや説得力に欠け,説明できる範囲も狭い。構成主義制度論は,これら3つの新制度論をすべて含んでいるが,説得と熟議を可能にする制度配置を検証する手立てとしてはなお不十分である。

筆者が,このように述べる理由は,その前段に示されている(p.271,赤字は松宮)。

 このように日英の官僚制改革は正当化仮説によってある程度整合的に説明することができる。日英ともに,官僚制がかつて保持していた社会的文化的正統性は大きく棄損し,官僚制を改革することに対する社会的文化的正統性が高まった。政治家は,自らの正統性を誇示するために,官僚制改革の必要性を謳いあげる必要があったことになる。しかし,社会全体あるいは国際社会全体を制度とみなすこの仮説に個別の政策過程を説明する力はなく,あくまで官僚制改革をアジェンダとして設定すること,その改革に一定の方向性をもたせることにとどまるものと考えられる。

すなわち,社会学的制度論の説明力が一部に留まるとし,その理由を各国(あるいは個々の制度)の文脈を踏まえた改革として補足できないことに求めているのである。
本書の対象はあくまでも官僚制改革の日英比較研究という範囲ではあるが,設定した範囲で社会学的制度論が援用が可能かどうか,ひょっとして他の制度論の方がふさわしいのではないかという発想を自身にもたらしてくれた。

官僚制改革の条件: 新制度論による日英比較

官僚制改革の条件: 新制度論による日英比較