標記の本を読了した。
本書はアメリカに留学し,アメリカで研究を行っている筆者が,新自由主義的な公教育を批判し,日本への警鐘を鳴らすものである。
取り上げられているのは,1980年代,『危機に立つ国家』以来のアメリカにおける新自由主義的教育改革がもたらした負の側面である。
具体的には,学校選択制や教職の輸入,PISAによる学力の矮小・標準化,「ゼロ・トレランス」によるマイノリティの切り捨て等,端的にいえば公教育の市場化である。
中でも印象的だったのが第8章で,2015年以降,日本では教職の高度化が様々な形で推奨されるが,アメリカにおいては同様の取組みが失敗したことが指摘されている。
理由は,「スタンダード(標準)とアカウンタビリティ(結果責任)という「数値による統治」の流れの中で教師が「教育成果」を証明することに邁進した結果、教えるという複雑な行為はテストの点数を上げるテクニックへと矮小化され、皮肉にも教職の超合理化と脱専門職化を招いた」(p.10)からである。
筆者は単なる新自由主義改革批判に留まらず,テストそのものが悪いわけではない,といったフェアな立場も保持しながら議論を展開している。
だが,自身がアメリカに留学した立場でありながら,かなりの熱量で危機感をもっていることがわかる。
- 作者: 鈴木大裕
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/08/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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