松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

木村誠(2017)『大学大倒産時代:都会で消える大学、地方で伸びる大学』(朝日新書)を読了

業界関係者の端くれとして読んで置かねばならないと感じ,読了した。
あまり期待せずに読み始めたのだが,至極まっとうなことが書かれている部分もある。
たとえば,「教育と研究が相乗効果を生むのが大学」「公立大のDNAは地域貢献なのに、私大が公立化すると地元の高校生が進学できない」「人文社会系学部では民間からの資金を得る機会が乏しく、公的補助金の獲得に走るため…短期的に成果が望めるテーマに走ってしまう。今のままでは地方国立大学は地方都市とともに消滅する」といった指摘はあてはまりがよい。
他方,明らかに間違っているように見える指摘もある。
ぼくがもっとも問題だと思ったのは,「頑張っている私立大学」を考えるときに,経常費補助金の一般補助を分母,特別補助を分子とした数値を示し,特別補助の割合が大きければ「頑張っている」と評価している箇所である。
※同じような記述は,以下の記事にもある。
biz-journal.jp

要は,特別補助というのは競争的資金だから,いっぱいとっているとすごい,と考えられたようなのだが,ここまではギリギリ問題なくとも,それを一般補助との対比関係でとらえるのは問題がある。
一般補助と特別補助の算定式からして,一般補助に対する特別補助の割合が高い=特別補助をいっぱいとって「頑張っている」大学,とはならない。
一般補助の大半は教職員数や学生数等のインプットであるから,このような指標を用いてしまうと,分母の小さい小規模大学が「頑張っている」と評価されやすくなるだろう。
小規模大学が頑張っていること自体は全く否定しないのだが,このような書き方をしてしまうと,知らない人は私学助成を誤解する。
2年前に私学運営費の10%を切ったといえ,私学助成は税金であるから,誤解されることは避けたいのである。

ところで,このような「大学倒産ブーム」は2000年代にもあった。では,実際にどれだけの大学が倒産したのかというと,全然である。
このような状態は面白い。
だから,「大学倒産ブーム」が,なぜ,どのように起こるのかということについて,この手の書籍の言説分析をしてみたい,という気持ちを前からもっている次第である。