業界関係者の端くれとして読んで置かねばならないと感じ,読了した。
あまり期待せずに読み始めたのだが,至極まっとうなことが書かれている部分もある。
たとえば,「教育と研究が相乗効果を生むのが大学」「公立大のDNAは地域貢献なのに、私大が公立化すると地元の高校生が進学できない」「人文社会系学部では民間からの資金を得る機会が乏しく、公的補助金の獲得に走るため…短期的に成果が望めるテーマに走ってしまう。今のままでは地方国立大学は地方都市とともに消滅する」といった指摘はあてはまりがよい。
他方,明らかに間違っているように見える指摘もある。
ぼくがもっとも問題だと思ったのは,「頑張っている私立大学」を考えるときに,経常費補助金の一般補助を分母,特別補助を分子とした数値を示し,特別補助の割合が大きければ「頑張っている」と評価している箇所である。
※同じような記述は,以下の記事にもある。
biz-journal.jp
要は,特別補助というのは競争的資金だから,いっぱいとっているとすごい,と考えられたようなのだが,ここまではギリギリ問題なくとも,それを一般補助との対比関係でとらえるのは問題がある。
一般補助と特別補助の算定式からして,一般補助に対する特別補助の割合が高い=特別補助をいっぱいとって「頑張っている」大学,とはならない。
一般補助の大半は教職員数や学生数等のインプットであるから,このような指標を用いてしまうと,分母の小さい小規模大学が「頑張っている」と評価されやすくなるだろう。
小規模大学が頑張っていること自体は全く否定しないのだが,このような書き方をしてしまうと,知らない人は私学助成を誤解する。
2年前に私学運営費の10%を切ったといえ,私学助成は税金であるから,誤解されることは避けたいのである。
ところで,このような「大学倒産ブーム」は2000年代にもあった。では,実際にどれだけの大学が倒産したのかというと,全然である。
このような状態は面白い。
だから,「大学倒産ブーム」が,なぜ,どのように起こるのかということについて,この手の書籍の言説分析をしてみたい,という気持ちを前からもっている次第である。
大学大倒産時代 都会で消える大学、地方で伸びる大学 (朝日新書)
- 作者: 木村誠
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2017/08/10
- メディア: 新書
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