標記の本を読了した。この本はすごい。
筆者は認知科学や言語心理学の研究者で,「学ぶとはどういうことか」ということを,きわめてわかりやすく解説している。
前段では,「そもそも知識とは何か」という問いから始まり,記憶とはどう違うのか,知識の体系はどうなっているのか,といったことについて,主に子どもが母語を習得する過程を通じて解説する。
後段では,前段で示された「知識とは何か」を前提として,それらを極めるにはどうすればよいのか,が解説されている。
端的にいえば,熟達者の最大の特徴は臨機応変であること,熟達者から超一流になるためには,臨機応変の延長線上の創造性があることが示されている。
少し長くなってしまうが,非常に印象的だったので引用してみたい。
まず熟達者についてである(pp.116-117)。
ただちに本質を見抜く力、臨機応変な応用力、普通の人には見えないものを見分ける識別力と、いま目の前には見えないモノ、コトの究極の姿を思い浮かべる審美眼。このような能力の背後にあり、すぐれた判断や行動を可能にしている心の中の判断基準を認知科学では「心的表象」という。この心的表象をより洗練された、よりよいものに育てていくことが熟達の過程なのである。
次に,超一流についてである(pp.199-200.)。
第4章に書いたことの繰り返しになるが、一流になる人々は、どういうことができるようになりたいのか、一流のパフォーマンスは何なのかを具体的にイメージできる。つまり、自分の中で理想とするパフォーマンスが心の眼で「見える」。そして、そこに向かって自分が何をすべきなのかを考えることができる人々なのである。さらにそれを突き詰めると、的確な目標を持てるということは、
●その分野の超一流の人のパフォーマンスがどのようなものなのかを理解できる。
●いまの自分がどのくらいのレベルにあって、超一流の人たちとどのくらい隔たりがあるかわかる。
●その隔たりを埋めるためになにをしたらよいのかが具体的にイメージできる。
ということだ。自分が超一流になり、自分より上の人がほとんどいなくなっても、自分の中で、いまよりももっと上にいる自分、目指すべきパフォーマンスがイメージできる。自分が(そして他の人も)まだ到達していない地点が見え、そこに至る道筋が見える。それが超一流の熟達者と一流の熟達者の違いである。ここでいう「目指すべきパフォーマンス」や「そこに到達するための具体的な道筋や方策」が見えるようになるというのは、その分野の学習での多大な経験と深い知識が要求されることだ。
「超一流と一流の違い」などと言われるともはやわけがわからない部分もあるが(笑),こういったことについて科学的に分析されている,しかも読みやすい新書というのは大変貴重なように思う。
ひょっとすると専門の科学者の世界では当たり前のことなのかもしれないが,普通の人がそういうところにアクセスするのは難しい。
また一般的には,このような話は「才能」「センス」「努力」といったふわっとした言葉だけで語られてしまい,科学的な裏付けが無視される傾向にあると感じる。
その双方をつなぎ合わせるという点で,めちゃくちゃ面白かったし,貴重ではないかという感想をもった。
- 作者: 今井むつみ
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/03/19
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