松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

(若干の補足+)日本高等教育学会第20回大会における報告「私立大学等改革総合支援事業が私立大学の教育活動に与える影響に関する実証研究」の資料

標記の件について,以下に資料をアップしました。

www.slideshare.net
sites.google.com
表については,上記のうちGoogleサイトからダウンロードが可能となっています。
が,ご用命いただければメール等で送ります。

はじめに,別キャンパスに向かってしまったことで部会の全体時間に5分ほど遅刻してしまい,会員の皆様に大変失礼なことをしてしまいました。申し訳ございません。深くお詫びします。
その上で,当日いただいたコメントについて,もう少し丁寧にお答えすべきだったという後悔をしております。
そこで,以下に若干の補足をさせていただきます。

いただいたコメントの要点

質疑を除けば,私の報告には複数の文部科学省の方から,コメントをいただきました。
具体的には,以下の仮説についてです。

私立大学等改革総合支援事業タイプ1への選定は,私立大学に脱連結によるアプローチを促すため,教育の質向上に貢献しえない。ガバナンスも教育の質向上に意味をもたない。

この仮説の設定について,なぜ,「意味をもつ」ではなく,「もたない」としたのか。
そのようなネガティブな問いを立てるのはなぜか。
さらにいえば,政策立案側としては,政策的含意を得るためにも,せめてポジティブな問いを立てて欲しい,といった趣旨のコメントであったかと思います。
これについて私は,理由を「自身の問題意識に基づく」とだけしか答えられませんでした。
しかしながら,このリプライはあまりにも淡泊すぎて,反省しておりました。
遅ればせながら,以下のとおり2つの観点からお答えします。

統計分析の観点から

私もまだまだ勉強中の身ですので,間違っていればご指摘いただけるとありがたいのですが,仮説を「意味をもつ」としても「持たない」としても,帰無仮説と対立仮説が逆転するだけなので,結局は同じです。
問いの立て方がポジティブであろうがネガティブであろうが,統計分析によって示される結果は同じです。
ですので,どちらの問いの立て方であっても,科学的な差異はないと考えます。
科学的な差異がなければ,そこから導かれる政策的示唆も,問いの立て方の影響を受けることはないと考えるのが自然です。
加えて,統計的仮説検定の対象となる帰無仮説は,棄却されることが期待されるものです。
そのことを前提とすれば,私の問いの立て方はむしろコメントの趣旨にフィットしていることになります。
ただし,私はその手前で「命題」という言葉を使っていて,これについては言葉の使い方を誤っていた可能性があります。
「命題」ではなく,「リサーチ・クエスチョン」という言葉を使うべきであったかもしれません。
以上のことは,古谷野(1988)*1のテキストで確認できます(赤字は筆者)。

統計的検定とは,標本統計量から出発して,母集団統計量に関する命題の当否を検討することである。その際には,母集団統計量に関する命題とは反対の内容の仮説をたて,それがどれくらいの確率で棄却されるかを検討する。この仮説は,棄却されることが期待されている仮説なので,帰無仮説とよばれる。
 相関係数の有意性検定の場合,検定によって明らかにしたいことは,母集団においても,標本においてと同様の相関関係があるかどうかである。母集団統計量に関する命題は「母集団相関係数は0(無相関)ではない」である。そこで,「母集団相関係数は0である」という仮説(帰無仮説)をたて,それが棄却されるかどうかを検討する。十分な確率で,この仮説が棄却されるならば,母集団においても相関係数があったと考えることができるので,そのときに「統計的に有意である」という。
 つまり,「統計的に有意」というのは,母集団統計量に関する帰無仮説が,十分な確率で棄却されたことを意味しているのである。

脱連結理論の観点から

今回,新制度派の脱連結理論を援用し,指標を設定,測定を行いました。
報告において,脱連結とは何か,私の研究で脱連結をどのように捉えたか,といったことをかなり端折ってしまいました。
脱連結は基本的に組織構造と実際の行動が乖離する,本音と建前が生まれる,といったことを意味しますが,今回の報告ではネガティブな要素として用いました。
ですので,その理論の援用の仕方が,ネガティブな問いに繋がっています。
しかし,脱連結はOliver(1991)*2による「戦略的脱連結」がそうであるように,必ずしもネガティブな側面だけを意味しません。
先行研究の流れとしては,組織が制度的圧力に対してあまりに受動的でありすぎるのではないか,本来は組織が制度的圧力に対して能動的にアプローチすることもありうるのではないか,といった批判が「戦略的脱連結」等に発展しています。
他方,自身の今回の報告は,制度的圧力に対する組織の態度を受動的・消極的なものとしすぎており,それ自体大いに問題でした。
このため,制度的圧力に対して能動的・積極的にどう大学がアプローチしているのか,といった検証は,今後(というか現在)の重要な課題です。

最後に

このような研究をしている自分にとって,「文部科学省の方から批判される」というのは,大変ありがたい,歓迎すべきことです。
自分の感覚を説明すると,最近では,私学も政策に対してかなり受動的なので,政策に追随する大勢に対して,意図的に逆のポジションをとり,バランスをとろうとしているようなところはあります。
そうした中,率直にいえば,「お前はそう言うけど,ではどうすればよいのか」「政策に対して,どう貢献できるのか示唆しろ」といった批判を受けることは,むしろ待ち望んでいることです。
そのようなことをきっかけに,議論が始まりうると思うからです。
その意味で,今回の私のリプライは,せっかくそうした議論が始まりそうな機会を与えられたのに,わざわざ膨らみを縮小させてしまったような気がして,非常に後悔しているところです。
次の機会があれば,ぜひとも互いに批判しあい,積極的に議論できればと考えています。

数学が苦手な人のための多変量解析ガイド―調査データのまとめかた

数学が苦手な人のための多変量解析ガイド―調査データのまとめかた

*1:古谷野亘(1988)「星印の魔力——統計的検定」『数学が苦手な人のための多変量解析ガイド——調査データのまとめかた』(川島書店),pp.29-35.

*2:Oliver, C. (1991).Strategic Responses to Institutional Processes. The Academy of Management Review, 16(1), 145-179.