松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

大学職員に転職するために―業界研究のための必読本を紹介する―

大学職員への転職を検討されている方のために,意味のありそうな文献を絞りに絞って2冊だけご紹介したい。
まずいえることは,企業等から大学職員として転職される場合に,大切なことは業界研究であると考えている。
何も「企業と大学は違う」なんてことを言うつもりはない。
「企業は利益追求が第一だが大学は…」みたいな難しい話は必要ない。
ただ,転職をするときにそれが業界の変化を伴うものであれば,その業界について研究することは必須だと思う。
必須であるにもかかわらず,その業界のことというのは,その業界外の人にはきわめてわかりにくい。これは,大学以外でもそうであろう。
しかしながら,これこそが大学の特殊性であると思うが,「大学とは何か」「大学で働くとはどういうことか」ということは,広く公開されている。
したがって,まずこういった広く公開されている文献を読むことが大切だろう。
この記事で2冊紹介する理由は,「大学とは何か」「大学職員とは何か」という2つのアプローチが最低限必要だと考えるからだ。
その1冊目がこちらである。

大学と社会 (放送大学教材)

大学と社会 (放送大学教材)

「大学とは何か」ということが完結に示されている。
具体的には,各章の冒頭にポイントの記載があり,各章の最後に学習課題がまとめられている。
これは,放送大学のテキストとしての性格に由来するものである。
15章立てであり,最初の7章は主として歴史的視点から描かれる。
現在社会人の方は時間がないだろうから,8章以降だけを読んでいただくのがいいかもしれない。
8章以降は,「グローバル化する社会と大学」「高度情報化社会と大学」「生涯学習社会の大学」「大学の組織と運営」「変貌する大学教師」「多様化する学生」「大学と社会貢献」「21世紀の大学―政策的観点から―」という章立てになっていて,きわめてコンパクトに,エッセンスが詰まっている。

もう1冊はこちらである。
著者の山本先生は,私自身も講義を受けせていただいたことがあるが,もともと文部省の行政官でいらっしゃったので,その時代の国立大学における勤務経験に基づく問題意識から,大学事務職員の研究をされている。
正直いって大学職員を取り上げる本の中には,若干偏ったものもあるので,注意されたい。
本書はそうではなくて,きわめてフェアに,しかも易しい表現で大学職員のありようが述べられている。
また,この本の素晴らしい点は,単に優れた大学職員になるためにはどういう資質が必要か,というところに直接的に向かうのではなくて,まず大学の歴史やわが国の高等教育の現況,あるいはシステムとしての高等教育といった視点に触れているところにある。
その意味では上記の『大学と社会』とも関連する。
ひょっとするとこちらを先に読んだ方が,理解は深まるかもしれない。

最後になるが,転職を検討する方が面接に臨むにあたり,面接官の側でこの2冊を実際に読んだことがある人というのは稀であろう。
個人的には,面接をされる側の方には,この2冊くらいは(特に後者の山本先生の1冊は),当然に読んだことがあってほしい。
しかし,現実はそうではない。読んでいなくても,ある意味で感覚で仕事ができるのがこの業種である。
ただ,既に業界内で働いている人がその感覚を理解するには,当然こういった手段を経る必要がある。

さらにいえば,こういった有用な手段を中の人である私が紹介したとしても,多くの人は実際にこれらの本を手にとって読みはしないだろう。
そのことは予測しながらも,例外的に読んでくれる人が出てくれるのではないか,という思いで情報提供を行った。
合格するか,しないかといった表層的な問題は別として,私個人としては,この程度の情報は瞬時に取り込むくらいにフットワークの軽い人と働きたいといつも願っている。