松宮慎治の憂鬱

'04京都橘高校卒→'08大阪教育大学卒、私立大学に職員として奉職→'17広島大学大学院教育学研究科博士課程前期高等教育開発専攻修了,そのまま後期課程在学中。とあるきっかけ(http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2015/01/10/050000)があって、実名でブログを始めることにしました。特に憂鬱なことはないのですが、大学職員仲間がタイトルを考えてくれたので、そのまま使います。

マーチン・トロウ著,天野郁夫・喜多村和之訳『高学歴社会の大学―エリートからマスへ―』(東京大学出版会)を読了

標記の本を読了した。
かの有名な,エリート・マス・ユニバーサル概念の提唱者であるマーチン・トロウの論文3編を訳してまとめたものである。
大学職員でこの概念を知らぬ者はほとんどいまい。私自身,入職したての研修で教えられたりもした。
ただ,単に概念を知識として覚えているということと,原典にあたっているということでは違うと考える。
ゆえに,以前から原典にあたる必要性を感じていたが,ようやく訳本を読了したというのが今の状況である。
たとえば,よくある誤解として,エリート→マス→ユニバーサルという段階が単純に移行していく,という理解がある。
しかしながら,トロウの言っているのは,たとえユニバーサル段階になったとしても,マス型やエリート型の教育も残り続けるということである。

ある国の高等教育制度をとった場合、それはひとつの発展段階から次の段階へと、完全に移行してしまうのではない。先行する段階に生まれた高等教育機関は、そのまま次の段階に引き継がれ、存続する。こうして、現代産業社会ではどこでも、高等教育制度が量的拡大をとげ、全体としてマス段階へ移行するなかで、エリート型の高等教育機関もまた生存している。同じように、進学機会のユニバーサル化がほぼ実現した段階にも、エリート型、マス型の高等教育機関は、そのまま存続しつづけるだろう。
(序文より)

彼がこの概念を提唱したとき,まだユニバーサル段階が実現された国はなかった。
このため,必ずしも予測が当たらなかったところもある。
また,欧米の国民国家を主要な射程としているので,アジアには馴染まないという評価もあるようである。
それでも,15%,50%という数字で区切るわかりやすさによって,各国に受け入れられた。

訳本を構成している原著論文3編(解説より抜粋,赤字は引用者)

 Ⅰ「高等教育の大衆化—量的発展と質的変容」——The Expansion and Transformation of Higher Education,1971.
 この論文は最初1971年に書かれ、その後改訂・増補されたあと、のちにさらに圧縮された形でThe International reaview of Education(Vol.ⅩⅧ,Feb.-March,1972)に掲載された。テキストは著者から直接に送られてきたタイプ刷の改訂増補版によったが、スペースの制約から後半の二節(約5頁分)をカットせざるを得なかった。この論文はもともと講演に使われたものであり、高等教育の量的拡大と質的変容にともなって生じてくる新しい問題点の指摘に重点がおかれている。したがって体系的理論化を主眼としたⅡの論文の序論的性格をもっている。
 Ⅱ「高等教育の構造変動」——Problems in the Transition from Elite to Mass Higher Education,1973.
 この論文はOECD経済協力開発機構)の「中等以後教育の未来構造に関する会議」(1973年6月開催)のために書かれた討議報告であり、同時にカーネギー高等教育審議会のリプリント版として出版され、さらにOECDのPolicies for Higher Education——General Report of the Conference on Future Structures of Post-secondary Education(Paris,1974)に正規刊行物として収録されている。有名なトロウの〈エリート〉〈マス〉〈ユニバーサル〉概念による高等教育の構造の理論化をうかがううえで最も重要な論文である。テキストはカーネギーのリプリント版によったが、本書ではスペースの関係から中間部分の一節(Academic Orientations)約8頁分を削除してある。
 Ⅲ「エリート高等教育の危機」——Elite Higher Education: An Endangered Species? 1975.
 トロウの所属するカルフォルニア大学公共政策大学院(Graduate School of Public Policy)のWorking Paper(No.44,December 1975)に発表された最新論文の全訳である。Ⅰ、Ⅱの論文が高等教育の膨張・拡大という側面から大衆化の構造変化を論じているのにたいして、この論文は大衆化高等教育のなかにおけるエリート高等教育の存在意義と擁護を論じたもので、いわば大衆化の裏側から高等教育を分析するというきわめてユニークな視点を提出している注目すべき力作である。

高学歴社会の大学―エリートからマスへ (UP選書)

高学歴社会の大学―エリートからマスへ (UP選書)