松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

広田照幸・吉田 文・小林傳司・上山隆大・濱中淳子編『大衆化する大学―学生の多様化をどうみるか』(岩波書店)を読了―「マージナル大学におけるリメディアル教育の到達水準」―

こちらについては、今年のはじめに多様化がテーマになっていた大学職員フォーラムに呼んでいただいたときに既に読んでいました。shinnji28.hatenablog.com

が、今回再読してみて、改めてこれは必読書やなと。
特に神戸国際大の居神 浩先生による第3章「マージナル大学における教学改革の可能性」は非常に興味深い論稿です。
ここでいう「マージナル大学」とは、「非選抜型大学」のことであり、必ずしも特定の大学群をさすものではなく、「現象の本質的な意味を考察するための思考の準拠枠組み」であるとされています。
居神先生は、マージナル大学では生涯を見通したキャリア教育とリメディアル教育を行い、「良き職業人」と「良き市民」の育成を目指すべきだとおっしゃっています。
そして、それを阻んでいるのが専門性に埋没する大学教員の「自己愛」である、とかなり痛烈な批判をされています。
この章の中でさらにもっとも印象に残ったのが、「マージナル大学におけるリメディアル教育の到達水準」として示された以下のものです。
これは、小学校教師であった杉浦和彦氏の『小・中・高の学びをむすぶ学力二十の指標』を大学のマージナル大学のために再構成したもの、のようです。
非常に具体的、そしてある種衝撃的でもありますが、これは私の実感とも合致するものです。

一 国語基礎能力
①教育漢字(小画工で習う1006字の漢字)の90%を読み、80%を書くことができる。
②適度な速さと大きさでノートに字を書くことができる。
③主語・述語がわかり、助詞が使い分けられる。
④動詞・名詞・形容詞を見分けることができる。
⑤ローマ字の読み書きができる。

二 国語教養 
⑥名作と言われる文学・伝記・科学的読み物を年に2冊は読んだ経験がある。
⑦いくつかの詩歌・諺などを暗唱した経験がある。
⑧国語辞典・漢和辞典を使い、未知の語句を調べることができる。

三 コミュニケーション能力基礎
⑨あるがままの事実を時間的経過をたどって書き綴ることができる。
⑩一定の分量の話を整理し、人に伝えることができる。

四 計数能力基礎
⑪四則演算がよどみなくできる。
⑫基本的な単位計算ができる。
⑬基本的な図形が見分けられる。
⑭時間・距離の目算や概算ができる。
⑮割合(比・歩合・百分率)の意味がわかる。

五 社会理解基礎
⑯地図の上で東西南北をたどり、簡単な略図を描いて道案内できる。
⑰日本列島のおおよその形を描き、都道府県の位置がわかる。
⑱代表的な世界の国々の位置が予想できる。

六 学習習慣
⑲家庭学習(最低一時間)が習慣になっている。
⑳学習用具の使い方に習熟している。

なお、目次は以下のとおりでした。いずれも興味深いものばかりです。

序論―大衆化する大学にどう向き合うべきか(濱中淳子)
1 大学大衆化への過程―戦後日本における量的拡大と学生層の変容(伊藤彰浩)
2 多様化する学生と大学教育(濱中義隆)
3 マージナル大学における教学改革の可能性(居神 浩)
4 拡大する大学院と就職難民問題―大学院修了者は「使えない人材」なのか(濱中淳子)
5 二本の大卒労働市場格差社会の再検討(八木 匡)
6 高等教育システムの階層性―ニッポンの大学の謎(刈谷剛彦

大衆化する大学――学生の多様化をどうみるか (シリーズ 大学 第2巻)

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