松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

大学職員が日本高等教育学会に加入するハードルは現状では極めて高い―高等教育基礎演習Ⅱ(研究講読):佐藤万知先生の課題から―

高等教育研究における高等教育学会とは何か?
*「歴史」「比較研究」「経済」「財政」「社会学」の5つのディシプリンが、
  ・高等教育のどういった部分を対象として、
  ・高等教育を理解する上でどのような役割を果たしているのか、
 自分なりの言葉で表現せよ。

という2つ目の課題について、以下の文献を読んだ上で答えました。
◇橋本鉱市(2007)「高等教育学会の10年―組織編成と知識形成―」『高等教育研究』第10集,pp.7-29.
◇羽田貴史・大塚 豊・安原義仁(2007)「大学史・高等教育史研究の10年」『高等教育研究』第10集,pp.31-50.
◇川嶋太津夫(2007)「高等教育研究における比較研究の成果と課題―紀要掲載論文を中心にして―」『高等教育研究』第10集,pp.51-61.
小林雅之(2007)「高等教育の経済分析」『高等教育研究』第10集,pp.63-81.
◇丸山文裕(2007)「高等教育における財政と経営管理の研究」『高等教育研究』第10集,pp.83-95.
◇中村高康(2007)「高等教育研究と社会学的想像力―高等教育社会学における理論と方法の今日的課題」『高等教育研究』第10集,pp.97-109.

ここでは、うち1つ目を転載しようと思います。

高等教育研究における高等教育学会とは何か?

 日本高等教育学会は、その設立趣旨によれば以下のような目的で設立されたと思われる。 
(1)「高等教育研究」を対象とした独立の学会を作ること
(2)特徴としての学際性を担保しながら、研究者等の結集と交流を図ること
(3)研究成果によって、実践的・政策的な課題に寄与すること
この3点について、橋本(2007)は以下2つの志向性を内在させていたと説明する。
(1)集団(組織)面では高等教育研究に従事する大学教員のネットワーク化と大学院生の養成ならびに大学職員層の包摂
(2)知識面では「学」としてのdisciplineの形成と実践応用的な問題解決への援用
すなわち、学会の設立趣旨および橋本の説明から、高等教育研究における高等教育学会の存在は以下のように整理できる。

大目標:
高等教育研究という分野を学術的に独立させること(知識面)
大目標から導かれる中目標:
高等教育研究者等のネットワークを形成すること(集団面)
②実践的・政策的な課題に寄与すること(知識面)

 また、橋本論文において同時期に設立されたものとして大学行政管理学会と大学教育学会との比較がなされている。2004年時点ではこの2学会との重複加入は、「2割弱が大学教育学会に加入」「数パーセントが大学行政管理学会に加入」「その双方に加入している者はきわめて少数」と分析されているが、現在では高等教育研究への関心の高まりから、もう少し重複加入は増加しているものと思われる。
 自身もこの3学会に重複加入している。その立場から「大学職員層の包摂」について述べれば、大学職員が当学会に加入するハードルは現状では極めて高いと言うことができる。学会紀要や大会要旨集録、参加者等を見ていると、学術性は大学行政管理学会→大学教育学会→日本高等教育学会の順で高まっていると考えられるからである。このため、実践志向の大学職員が当学会に積極的に参加することは考えにくい。もちろん、高度な学術性は本来実践志向とも深く関連するものではあるが、実務上の情報交換を中心とした能力開発を志向するのが大学職員の趨勢である。「大学職員層の包摂」が当学会の志向性の一つであり続けるならば、具体的にどういった層の包摂を望むのかを検討する必要があるかもしれない。