松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

高等教育基礎演習Ⅰ(実践研究) 課題⑩私が実施したいキャリア教育―市場原理を学ぶためのアプリ開発競争―

島先生ご担当回の2つめの課題です。


2015.7.2

高等教育基礎演習Ⅰ(実践研究) 課題⑩

私が実施したいキャリア教育―市場原理を学ぶためのアプリ開発競争―

M156296 松宮 慎治

1.問題と目的
 『IDE現代の高等教育』第521号を参考に、大学が用意する既存のキャリア教育のメニューについて、「意識・動機」志向か「能力・実務」志向かという横軸と「正課」か「正課外」という縦軸によって4象限に概念化し、分類することを試みた(図1*1)。
 第1象限と第2象限はいずれも正課に位置づけられる。第1象限は加野(2010)が言うところの「コミュニケーション基礎トレーニング」「ビジネスプラン作成」といった実学志向の科目群であり、第2象限は「キャリアデザイン入門」のような意識啓発を主眼とした科目群である。第4象限の主要なものがインターンであり、一時的に企業で研修生として勤務する正課外の仕組みである。こうして見たときに、学生の「意識・動機」に働きかける「正課外」のメニューとしての第3象限が没却されているのではないかと考えることができる。第3象限にあてはまりうるものとして、「ボランティア」や「アルバイト」といったものはたしかに想定可能であるが、それらは結果としてキャリア教育的に機能するだけであって、必ずしもキャリア教育自体をはじめから目的としているわけではない。
 以上のことから、既存のプログラムでは手薄となっている「意識・動機」に働きかける「正課外」のメニューとして、『市場原理を学ぶためのアプリ開発競争』を提案する。
2.内容
 一定のテーマのもとチーム制でアプリを開発し、DL数の多寡によって順位づけを行う。具体的には、「あったらいいな時間割」といった身近なテーマを設定し、3~4名のグループでテーマに沿ったアプリを開発する。開発されたアプリは実際にDLすることを可能にし、各チームのDL数を公表する。対象は、A大学において、キャリアデザイン系科目の入門編として位置づけられている「キャリア形成入門」を履修する1年次生300人とする。ただし、全員の参加は難しいと思われるので、希望者を募る。
 目標は、アプリ開発によるスキルアップや実務経験ではない。自身の生み出した価値が市場で実際に評価されるというプロセスを通して、市場経済社会の仕組みに直接触れるという体験を重視する。
3.計画
 キャリア教育と学生支援を架橋しながら進めるために、実施の主体はキャリアセンターと学生支援センターの職員の協働とする。参加者の募集は「キャリア形成入門」が開講される前期中に、担当教員の協力を得ながら行う。前期終了後に募集を締め切り、8月中に参加希望者を集めたミーティングを実施する。このとき、参加者のアイスブレイクとチーム編成を併せて行う。企画の本格的な始動は9月からとし、アプリ開発の期間は翌2月までの5カ月とする。年明けに各チームのアプリをリリースし、3月~4月を目処にDL数を競う。
4.本企画の強みと弱み
 本企画の強みは、やや消極的な意味あいとなってしまうものの、いわゆる「学外への丸投げ」ではないということである。通常大学が行うキャリア教育は、大江(2010)の言うように「学外への丸投げ」によって実施されることが多い。これには、キャリアや就職といった分野について、大学の教職員が自信をもっていないことが大きく影響している。しかしながら、2~4単位のキャリア系科目やごく一時のインターンは、オプション以上のものにはなかなかなりえない。キャリア教育を実質的に機能させるためには、大学の教職員が自らその責任を負う必要があると考えるが、本企画はその条件を満たしている。
 また、本企画の弱みを3点挙げる。第1に、本企画の参加者は「キャリア形成入門」の受講者を母集団とするため、「元々キャリア形成に意識の高い者が参加する(そうでない者は参加しない)」という問題を解決できない。第2に、本企画には大学教員が関与していない。大学の教員は一般にキャリア教育については門外漢であるという意識が強いために、キャリアセンターの職員や学外の企業に良い意味で権限を委譲しがちである。しかしながら、ふだんの授業で日常的に学生と接する教員の関与は、キャリア教育に本来不可欠である。大学の授業は就職に直截的に結びつくものでは当然ないが、授業やゼミで学ぶことによって手に入れる想像力や思考力、判断力は将来にわたって学生に大きな影響を与える。このことから、教員にはふだんの授業やゼミの観点から、キャリア教育に関与してもらうことが望ましい。第3に、本企画は、学生生活の大部分を占める他の授業とのかかわりが明示されていない。あくまでもプラスアルファの、イベント的な扱いにとどまっている。逆に言えば、それゆえに実施そのものは困難ではないわけであるが、卒業要件である124~127単位とどういったかかわりをもたせうるか、という観点は大学の教職員が主体となって遂行する限り、本来検討が必須の項目であると思われる。

引用文献
加野芳正(2010)「香川大学 地域連携型キャリア支援センターの新機軸」『IDE現代の高等教育』第521号,pp.21-26.
大江淳良(2010)「“キャリア○○”の氾濫と混乱」『IDE現代の高等教育』第521号,pp.31-36.

*1:省略