松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

高等教育基礎論Ⅰ(社会学的研究)課題④-7 自由課題「大学受験の成功/失敗体験は就職後の自己評価に持ち越されるのか」

大膳先生ご担当回集中講義におけるラスト課題です。
「高校生の大学進学をめぐる課題」を自由設定し、論文執筆を仮定した研究計画を策定しました。


2015.6.14

大学受験の成功/失敗体験は就職後の自己評価に持ち越されるのか

M156296 松宮慎治

1 問題意識
 わが国の学校教育では、大学受験の成功/失敗体験は比較的大きな意味を含んでとらえられてきた。中でもこれまで最も一般的であったのは「よい大学に進学すれば、そのままよい会社に就職できる」という単線型の人生モデルであり、そうしたモデルに依拠すれば大学受験はこの最終段階としての性格に位置づけられてきたことになる。他方近年では、終身雇用や年功序列といった単線型の人生モデルを下支えしてきたメカニズムは瓦解しつつある。こうした現状から示唆されるのは、最終段階としての大学受験に失敗したとしても、おそらくのちにカバーできるという再チャレンジ可能性の拡大であると言える。
 しかしながら、再チャレンジ可能性が事実として拡大しつつあるにしても、「よい大学に進学すること」を重視する価値観そのものは容易に変容しないか、変容したとしても一定の時間を要することが考えられる。このとき、大学受験をした者の内面には旧来の価値観を前提として「自分は失敗した」という自己認識が生まれるかもしれない。こうした負の自己認識を保持したまま大学生活を送ることになれば、その充実は達成されず、結果として就職もうまくいかないのではないかと思われる。
 このように、人生の一時点の成功/失敗をその後の人生に所与のものとして固定されて持ち越されてしまうことがあるとするならば、大学受験が未来の格差を固定する装置として依然として機能していることになるという問題が存在することになる。
2 目的
本研究の目的は、「高校→大学→就職」というプロセスに存在する要素を分析することで、大学受験の成功/失敗体験は就職後の自己評価に持ち越されるのか否か、持ち越されるとすればどの程度持ち越されるのかを明らかにすることである。
3 仮説
 以上の問題関心を踏まえ、仮説として以下の2点を提示する。
 仮説1:大学受験の成功体験は、就職後の自己評価に正の影響を与える
 仮説2:大学受験の失敗体験は、就職後の自己評価に負の影響を与える
4 方法
1) 使用データ
 データには公益財団法人電通育英会による『学校から仕事へのトランジション調査2012』を用いる。本調査は学校経験が卒業後の仕事に与える影響を見る「学校から仕事へのトランジション(school-to-work transition)」研究の第一弾の調査として、25歳から39歳の職業人を対象に高校・大学での学習、生活、キャリア意識、職場での仕事のしかた等について質問をおこなったものである。
2) 分析方法案1
従属変数を「仕事に関する能力の自己評価(7段階)」とし、独立変数を以下の各変数の因子分析によって祈出したものとして重回帰分析を行う。
高校1-2年生時の経験
・1年の読書数、新聞を読む頻度、朝食の習慣、日々の生活、授業内容の理解度、
教室以外での学習頻度、部活動との両立の有無、入試科目以外の勉強の有無
大学時の経験
・参加型授業への参加、演習への参加、大学生活の充実度、大学時代の成績、
就職活動・配属先等の評価、評価の理由(肯定的/否定的)、就職活動の評価
 大学受験に成功体験を持つ者は従属変数により大学時の経験が効いていると思われ、大学受験に失敗体験を持つ者は高校1-2年生時の経験が相対的に効いていると思われる。この分析は、今回教材となっている丸山(1981)において示されていることを検証することにもなりうる。
3) 分析方法案2
 大学受験の成功を偏差値60以上の学部に入学することと定義し、失敗を偏差値50未満の学部に入学することと定義した上で、「仕事に関する能力の自己評価(7段階)」について成功群と失敗群の差をt検定によって分析する。仮説が正しければ、成功群の方が有意に自己評価の得点の平均点が高いはずである。
5 期待される成果
 大学受験の成功/失敗体験は就職後の自己評価に持ち越されるのか否か、持ち越されるとすればどの程度持ち越されるのかが明らかになることによって、大学受験がその後の個人の価値観に継続的に影響を与えうるのかということが部分的に示唆される。
6 解決されない問題
 以上の研究計画で解決しにくい根本的な問題として、「成功」「失敗」の定義づけの困難さがある。「成功」「定義」という表現では範疇が曖昧すぎるために、「仕事に関する能力の自己評価(7段階)」といった限定された指標で代理せざるをえなくなる。また、「成功」「失敗」という指標は相対評価ではなく個人の内面における絶対評価によって本来決定づけられるものであるので、分析方法案2のように偏差値という相対評価によって一律に定義することは本来難しい。それでも、偏差値によって「成功」「失敗」を代理しようとするならば、偏差値60以上の学部に入学したが「失敗」の認識をもつケースと、偏差値50未満の学部に入学したが「成功」の認識をもつケースを捨象することになる。