松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

高等教育基礎論Ⅰ(社会学的研究)課題④-2 藤村正司(2009)「大学進学における所得格差と高等教育政策の可能性」『教育社会学研究』第85集, pp.27-48.

大膳先生ご担当回6/14(日)の集中講義の課題2つめです。
課題となっていた論稿は以下です。
とてもわかりやすくておもしろかったです。ci.nii.ac.jp

②藤村正司(2009)「大学進学における所得格差と高等教育政策の可能性」『教育社会学研究』第85集, pp.27-48.

要旨

○問題と目的

 本稿では、大学進学率50%段階におけるわが国の大学進学/非進学を決定する条件を個人の属性から分析する。目的の背景には「大学全入時代」説への課題意識がある。すなわち、大学進学率の上昇を18歳人口の減少のみによって説明してしまうと、所得格差の影響を捨象することになる。大学進学層が拡大すれば所得間格差が縮小し、機会の平等も達成されるとは必ずしも言えないと考えられる。

○方法

 「全国高校生調査」を用いて、大学進学率50%の状況を説明する個人属性を計量的に明らかにする。推定には性別・きょうだい数・「学力・所得」ダミー・両親教育年数・高校ランク・高3平均勉強時間・奨学金第二種予約採用ダミー・地方ダミーを変数として用いる。また、被説明変数の大学進学ダミーは、希望段階と確定進路の双方を用いる。

○結論

 第一に、家計所得が依然として大学進学機会の制約になっている。第二に、学力には投資可能性の代理指標でもある。第三に、兄弟姉妹情報は家族内の学費負担のメカニズムのヒントになりうる。第四に、国立大学は「高学力・低所得」層の進学機会を保障している。第五に、奨学金の第二種予約採用は、進学意思をもつ中低所得層の大学進学にあまり寄与していない。

疑問や感想

 以前学生支援の部署で勤務していたため、奨学金の分析は興味深かった。本稿では要するに奨学金はローンであるから、予約採用に応募することはリスクを引き受けることでもあり、純粋な教育投資としては機能しにくいことを示していると解釈した。すなわち、第二種の予約採用制は、実質的にその目的を一部果たしていないという分析結果になりうるのではないか。にもかかわらず、借金をしてでも大学に行った方がいいというのはまさに「学歴上昇・下降移動回避」志向そのものであり、現場感覚とも一致している。