松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

高等教育基礎論Ⅰ(社会学的研究)課題④-1 矢野眞和・濱中淳子(2006)「なぜ,大学に進学しないのか―顕在的需要と潜在的需要の決定要因」『教育社会学研究』第79集, pp.85-104.

大膳司先生ご担当回の課題です。6/14(日)に朝から夕方まで集中で講義いただきました。
6点の文献を拝読し、「記述内容紹介(要旨作成)」と「疑問や感想の提示」を行いました。また、「高校生の大学進学を巡る課題」を自由設定し、論文執筆を仮定した研究計画を作成しました。
なので、順番にさらします。まずは一つ目の論稿です。
CiNii 論文 -  なぜ,大学に進学しないのか : 顕在的需要と潜在的需要の決定要因

①矢野眞和・濱中淳子(2006)「なぜ,大学に進学しないのか―顕在的需要と潜在的需要の決定要因」『教育社会学研究』第79集, pp.85-104.

要旨

○背景と目的

 大学進学率が50%水準で安定的に推移している理由について、学力と選好の2つから構成される均衡状態にあるとは言えそうもない。なぜならば、学力が低くても進学している者は存在するし、親が子どもに望む学歴水準は50%進学をはるかに上回るというデータもあるからである。このとき、学力が平均以上で進学を希望しているにもかかわらず、あえて進学しない者の事情を説明しなければならなくなる。最も有力なのは経済条件であろう。ゆえに、「進学を選択しない者の行動」に焦点をあて、進学需要の決定要因をさぐる。

○方法

 大学進学の顕在的・潜在的需要を立体的かつ探索的に分析した。具体的には、まず経済モデルによって「家計所得」「大学授業料」「失業率」の3つが重要な決定要因であることを示す。次にこの基本モデルを「高校生の就職率」と「専門学校進学率」に適用し、3つの決定要因と「大学合格率」の効果を分析する。その結果を現役志願率の要因と比較しながら、非進学行動に潜在的な進学需要が生まれていることを指摘する。

○結果と政策的含意

 分析から、大学の顕在的需要の安定的な推移は、3つの経済変数(「家計の所得水準(プラス効果)」「費用としての私立大学授業料(マイナス効果)」「失業率(プラス効果)」)によって相殺された結果であることがわかる。この結果から、50%進学は経済合理的な選択の帰結であると推察されるものの、個人の選好ではなく家計負担から進学を諦める層の存在も支持される。以上より、大学進学率は今後も上昇する可能性があること、教育機会の均等化が50%進学の重要な政策課題であること、大学進学は過剰ではなくむしろ過小であるという3点の政策的含意が指摘できる。

疑問や感想

○分析の手法について

 「現役大学志願率として顕在化した進学需要は,経済的事情に規定されて変動してきたことが分かる」(p.94)と言える理由が理解できなかった。というのも、今回顕在的進学需要を実証するのに検討されているモデルにおいて使用されている変数(「所得」「授業料」「失業率」「賃金比率」等)の多くが、元々経済的事情を裏付けとするものと思われるからである。

○内容について

 本稿では経済事情によって大学進学率は上昇する可能性があり、かつ経済の効率性から見ても大学教育に公的資金を投入する必要性が強いことが述べられている。これを現在の政策と照合して考えた時に、「選択と集中」という発想が本稿における公的資金の投入の視野に入るのかどうかということが気にかかる。