昨日の続きです。
2015.6.7
高等教育基礎演習Ⅰ(実践研究) 課題⑦
M156296 松宮 慎治
以下の文献を拝読し、要旨と感想をまとめました。
《『IDE 現代の高等教育 2015年1月号』(テーマ:学長のリーダーシップとは)より》
③佐藤 東洋士(2015)「学長のリーダーシップ―私学人の視点から」『IDE 現代の高等教育』第567号,pp.21-24.
④梶田叡一(2015)「4大学の学長職の経験から考える」『IDE 現代の高等教育』第567号,pp.54-58.
③佐藤 東洋士(2015)「学長のリーダーシップ―私学人の視点から」『IDE 現代の高等教育』第567号,pp.21-24.
要旨
「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律」が公布され、2015年4月から施行されることになった。他方、国公私立それぞれの立場でこの受け止められ方に温度差がある。本稿では特に私学の立場に立って独断的私見を述べる。
私学におけるガバナンスは多様である。①理事長・学長同一型、②理事長・学長分離型、③理事長・学園長(学院長)・学長トロイカ型などさまざま存在する。さらにその内容も、「創立者継承型」「設置母体尊重型」「同労者尊重型」等によって、リーダーシップのとり方が異なる。「創立者継承型」は建学の理念を継承することにおいて特色ある存在となりうる。「設置母体尊重型」は、宗教等の設置母体に依拠するが、それでも運営の自律性にまで立ち入ることは稀有であり、この場合もやはり建学の理念の継承が尊重される。「同労者尊重型」は、学校法人や大学の構成員のコンセンサスにより選ばれたリーダー群が学校運営を行う形である。この場合、建学の理念はあまり語られず、同労謝が同意できることばかりが尊重されることとなる。
こうした多様なガバナンスが存在する中、一つの概念ですべてを議論することは難しい。ゆえに、大学のガバナンスや学長のリーダーシップについても、どの様にあるべきかは、日々の教育の営みの中で判断されるべきものである。それぞれの大学に適合するガバナンス体制が構築できてはじめて、学長は十分なリーダーシップを発揮できるのである。
④梶田叡一(2015)「4大学の学長職の経験から考える」『IDE 現代の高等教育』第567号,pp.54-58.
要旨
本稿では、おもに京都ノートルダム女子大学と兵庫教育大学における学長職の経験から得られた知見を述べる。
京都ノートルダム女子大学には積年の課題が山積しており、それらの解決が主要なミッションであった。今になって考えるのは、困難な問題を抱えている大学の学長職は、決して功成り名を遂げた方の名誉職とはなりえず、若さとエネルギーをもつ方の健康で活力あるタフネスが求められる職であるということである。京都ノートルダム女子大学では、1学部2学科という創立以来の体制を拡充整備することとなった。文部科学省に足繁く通ったり、コンサルと契約を結んだりして、2004年4月には2学科を増設して1学部4学科体制をスタートさせた。そして2004年11月に持するまで次々と新たな設置認可を受け、最終的に2学部4学科体制の上に大学院修士課程を置き、うち1学科には大学院博士課程を設置するという新たな体制を整備できた。こうした構造改革によって、大阪・兵庫の両府県からの志願者も増加し、学生達の各種学内活動も活発となり、結果として就職率も大幅に向上した。
兵庫教育大学には、私学とは根本的に違う問題があった。ルーティーン的な会議が多いことや、事務局のコストが高いこと、教員組織における大小のボスが個人の意向によって周辺のことを決定する雰囲気等、それらは国立大学ならではの組織体質に依拠していると思われた。かかる状況を踏まえて、事務局組織を再編成したり、教員組織を学系・教育組織としての再編を行ったりした。この結果、教員採用率全国第一位という結果を達成することができた。また、現職教師の大学院への派遣も増え、新構想大学として設立された30年前の基本的使命の達成にも歩を進めることができた。
こうした経験から、学長のリーダーシップのあり方の根幹は、P的機能(組織の使命を達成する方向に関係者それぞれを引っ張っていく)とM的機能(組織のメンバーの間に和を保ち一体感を醸成する)の発揮にあると考えている。
感想
本稿では梶田先生が4つの大学において学長職を経験されたことを踏まえた論稿である。拝読して印象に残ったのは、梶田先生が「学長職」としてのリクルートを受けながらそれぞれの大学を移籍していることである。梶田先生は現在も奈良学園大学で学長職を務められているが、学長職を前提とした大学間の移籍は日本では珍しいのではないだろうか。大場先生の講義で、アメリカの場合は学長職になるためのルートがある程度決まっており、学長職としての仕事のオファーもありうるというお話があった。一方、日本における学長職は通常選挙によって選ばれるのであり、そうなると既存の学内人材から選出することに自動的になる。梶田先生のように学長職として大学間を異動することはどの程度ありうる話なのか、またそういった場合に学内の意思決定はどのように行うのかといったことに関心をもった。