松宮慎治の憂鬱

'04京都橘高校卒→'08大阪教育大学卒、私立大学に職員として奉職→'17広島大学大学院教育学研究科博士課程前期高等教育開発専攻修了,そのまま後期課程在学中。とあるきっかけ(http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2015/01/10/050000)があって、実名でブログを始めることにしました。特に憂鬱なことはないのですが、大学職員仲間がタイトルを考えてくれたので、そのまま使います。

高等教育基礎演習Ⅰ(実践研究) 課題④『IDE 現代の高等教育』(2013年7月号)の特集論文要旨―テーマ「大学院の現実」―

高等教育基礎演習Ⅰ(実践研究)はオムニバスで、第4回からは渡邊聡先生ご担当です。
渡邊先生担当回では、IDEの特集論文から2つを選び、要旨7割、それに対する課題の指摘3割でA4の1~2枚でまとめる、という課題が出ています。
大先生の論稿の課題を指摘するのはいろいろ難しいのですが、批判的に考察する練習だと思ってやりました。


2015.5.07

高等教育基礎演習Ⅰ(実践研究) 課題④


IDE 現代の高等教育』(2013年7月号)の特集論文要旨―テーマ「大学院の現実」―

M156296 松宮慎治

以下のとおり特集論文10点から2点を選び、要旨と当該論稿における課題をまとめました。

①「大学院政策の現段階」(常盤豊)
【要旨】
○大学院の現状
 わが国の大学院の現在の規模は、入学者数の観点から見れば、修士課程で79,385人、博士課程で15,685人となっている。平成3年の入学者数と比較すると、前者は2.3倍、後者は1.8倍といずれも増加している。しかしながら、近年の修士課程の入学者数は横ばいであり、博士課程は減少傾向にあるという状況にある。かかる状況は社会人の入学者数においても、平成3年から入学者数が倍増している点や、近年数・割合ともに減少ないし横ばい傾向である点で同様である。他方、国際比較の観点から見れば、人口100万人あたりの学位取得者は、韓国、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツに比べて日本が最も少ない。さらに、アメリカやイギリスと比較すると、授与される学位の分野に偏りがあり、人文学や社会科学の学位授与数が少ないという特徴がある。
○大学院教育改善のための施策
 複数の答申から大学院教育の改善を図っているが、うち主要なものとして「博士論文研究基礎力審査」と「博士課程リーディングプログラム」がある。前者は平成24年3月の大学院設置基準等の一部改正によって設けられた仕組みであり、博士課程前期の修了要件に試験や審査を設けるものである。具体的には、試験において当該専門分野の高度の専門知識等をはかり、審査において博士論文の執筆を主体的に遂行できる能力をはかることとしている。後者は答申に基づき平成23年度から新規事業として実施されており、専門分野を超えた高度がグローバル・リーダーの養成を目指している。
○今後の課題
 今後の課題は3点ある。第一に、教育課程を知識・技能の体系ではなく能力の体系として組み立てなおすことが必要である。個別の専門分野に留まることなく、総合的な研究や実践を容易にするための共通認識を形成しなければならない。第二に、大学院教育と社会的評価との関連を再定義することが必要である。企業をはじめとする社会と対話しながら、大学院で身につけた能力を社会的に有意に生かす術を検討しなければならない。第三に、学部、修士、博士のそれぞれの課程の関係性を再構築する必要がある。相互の関連性を体系的に整理することが、質の高度化の議論を行う前提となるのである。
【課題】
 本稿を拝読した上で、追加的に議論する必要があると思われる課題を述べる。大学院施策の今後の課題として、筆者は「社会との関係の再構築」を挙げている。たとえば「大学側は専門分野の知識を身につけさせることに注力するとしているが,企業側は汎用的能力の育成を重視している」といったように、大学・企業間の考え方のミスマッチを再構築が必要な理由の一つとして挙げている。しかしながら、大学院修了者が企業で評価されにくい現状は、新卒一括採用、年功序列といった旧来の日本型雇用も色濃く影響していると思われる。すなわち、雇用が流動化しておらず、一旦就職した組織で職業人生を終えることが一般とされる社会では、学部卒に比べて年齢を経ていたり、批判的思考力を養ったりした大学院卒は評価されにくいのである。「社会との対話が不可欠」と指摘するならば、こうした日本型雇用等の社会的背景にも視点を傾けたい。

②「大学院の「入口」「出口」問題」(石田徹)
【要旨】
 2011年度に開設された龍谷大学政策学研究科は、特徴ある教育課程としてNPO・地方行政研究コースを実施している。このコースでは、自治体やNPOと連携協定を結び、各団体から推薦された社会人院生を積極的に受け入れている。ゆえに、社会人院生の通学に配慮して開講時間や開講曜日を夜間や週末としている。このコースにおけるカリキュラムの特徴として、複数の教員による特別演習や、インターンシップOJTとしてのフィールドワーク、第一線で活躍するゲスト講師の招へい等が挙げられる。また、本コースにおいて規定のプログラムを修了すると「地域公共政策士」という資格が授与される。「地域公共政策士」とは地域社会において公共的活動を主導・コーディネートする人材を指し、大学院教育よる職業的意義の付与を大きな目的の一つとして設けた資格制度である。
【課題】
 本稿を拝読した上で、追加的に議論する必要があると思われる課題を2点述べる。第一に、本稿では研究への言及が乏しい。大学院教育における実践面の意義をアピールしているものと思われるが、わが国における大学院教育は現状研究面をその礎としていることもまた事実である。ゆえに、実践と往還する対象としての研究の意義も併せて知りたい。第二に、社会人にとっての「出口」の意味あいに疑問がある。本稿では、大学院の問題の一つに「「出口」がみえない」ことを挙げており、「地域公共政策士」の資格授与が「出口」の明瞭化寄与していると述べられている。しかしながら、本稿で事例として取り上げられている社会人院生の場合は既に職業を得ているものと思われる。職業をもつ社会人院生にとって、魅力は「出口」よりも内容ではないかと考える。