松宮慎治の憂鬱

'04京都橘高校卒→'08大阪教育大学卒、私立大学に職員として奉職→'17広島大学大学院教育学研究科博士課程前期高等教育開発専攻修了,そのまま後期課程在学中。とあるきっかけ(http://shinnji28.hatenablog.com/entry/2015/01/10/050000)があって、実名でブログを始めることにしました。特に憂鬱なことはないのですが、大学職員仲間がタイトルを考えてくれたので、そのまま使います。

高等教育基礎演習1(実践研究)課題②『IDE 現代の高等教育』(2013年5月号)の特集論文を踏まえた遠隔用課題

遠隔用、つまり社会人で討議に参加できない者用に出していただいた課題です。
ありがたい、、
でもほんとは、ストレートの方と同じ場で参加したいというのが本音ですね。
もう詳しく説明すると、標記の特集論文(『IDE現代の高等教育』2013年5月号)を踏まえ、その特集に関わる高等教育の課題について、別途適切な論文や書籍を選択、引用しつつ、考察を行うこと、というオファーでした。
その内容をさらします。

2015.4.16

高等教育基礎演習Ⅰ(実践研究) 資料②考察

「トライアングル」モデルによる7事例からの示唆

M156296 松宮慎治

1.はじめに
 本稿では『IDE 現代の高等教育』(2013年5月号)の特集論文を読んで考察したことをまとめる。今回課題となっている特集論文は10点あり、その内訳は大学の組織全般を取り扱ったものが3点(羽田先生、天野先生、舘先生の論稿)、特定の大学を題材に組織改編の事例報告がなされたものが7点(大﨑先生、有川先生、櫻井先生、菅原先生、桑原先生、森本先生、佐々木先生の論稿)となっている。本特集では日本の大学組織の特徴や、教育組織と研究組織の関連とその再編等に言及されているが、ここでは個別大学の報告が示されている着目し、それらに大学管理運営体制に関する先行研究をあてはめつつ、7事例から示唆されることを検討する。
2.日本の大学管理運営体制に関する検討モデル
 羽田(2008)によれば、大学の管理運営を国別に比較するときによく使われているのは、大学の管理運営を支配する三つのアクター(行為者)によって説明する「トライアングル」モデル であるとされる。このモデルでは、政府が大きな力をもつ「官僚制」(ヨーロッパ諸国)、教授団が大きな力をもつ「同僚制」(UK)、市場メカニズムが大きな力をもつ「市場」(US)の三つによる区分がなされており、日本の場合は「官僚制」原理が支配的な国公立大学と「市場」型の私立大学が併存する混合型であるという。
このモデルの概念を整理すると、次のとおりとなる(図1*1)。
図1 羽田(2005)より筆者作成、原典はDill(1992)
3.7大学の事例の分類と比較検討
 本特集において事例として報告されているのは、筑波大学九州大学、金沢大学、新潟大学札幌大学国際基督教大学ICU)、名古屋経済大学の7大学である。この7大学の事例について、前述の「トライアングル」モデルを援用しながら分類し、比較検討したい。
 具体的には、7大学の設置形態、歴史(設置年)、立地、規模(学生数)を整理し、さらには本事例の組織改編が「官僚制」「同僚制」「市場」のいずれの管理運営体制によって実施されたのかを分類することを試みた(図2*2)。
図2 筆者作成
 設置年についてはその大学が持つ歴史を部分的に説明できると思われるが、設置者や法人の歴史から見た各大学の起源は多様であるので、ここでは「大学」が設置された時点をその設置年として考えることとする。たとえば、名古屋経済大学は1907(明治40)年の名古屋女子商業学校設置をその起源とし、1965(昭和40)年には市邨学園短期大学を開学しているが、1979(昭和54)年の市邨学園大学開学年を設置年とした。学生数については、各大学のホームページに公表されている平成26年5月1日現在の学部在籍学生数を記載した。ここでいう学部在籍学生数は、大学院や短期大学を除くいわゆる「学部」所属のものとしている。ただし、公表されている情報の都合上、筑波大学は平成25年4月1日現在の、国際基督教大学ICU)は平成26年10月1日現在の学生数となっている。また、学生数は大学の規模を代理的に説明できると考えられるが、学部・学科の再編や定員変更等によって変遷があると思われる点に注意が必要である。しかしながら、ここでは直近の学生数が過去の学生数と比較して大きく変動していないと仮定して検討した。
 以上7大学の設置形態、歴史(設置年)、立地、規模(学生数)を踏まえながら、各事例における大学の管理運営体制について分析し、次のとおり仮説的にまとめた。
 筑波大学の事例では、新構想大学としての設置が「文部省と東京教育大学の二人三脚」で進行したとあるように、政府が大きな力をもって形作られたという歴史的経緯が見てとれる。設置の経緯がその後の運営にどの程度影響したかは別途検証が必要ではあるもものの、学群・学系制等従来の大学にない組織体制の導入はその後の運営のありようまで担保すると思われる。このことから筑波大学の事例における管理運営体制は「官僚制」型に分類できると考えられる。
 九州大学の事例では、教育研究組織の改編が教員集団の課題として検討されてきたことが示唆されている。たとえば、教員の所属を教育組織から分離する学府・研究院制度の構築は、「教育組織である大学院学府と学部における指導を,一方を疎かにすることなく担当できる」ことが達成目的の一つであった。このことから九州大学の事例における管理運営体制は「同僚制」型に分類できると考えられる。金沢大学と新潟大学の事例もこれに近い。金沢大学では教育組織と研究組織の完全分離により、「教育組織の改組に伴う教員の配置替えの必要がなくなる」ことや、「研究組織の改編に際して,教育組織に手をつける必要は全くない」ことが期待されたと述べられており、教員集団の課題としての組織改編であったことがわかる。また、新潟大学においても教員の所属組織を学部から学系に転換することによって、人事や予算が全体最適の中で計画される仕組みとなったことや、部局間の風通しが良くなったことが示されている。これらのことから、金沢大学と新潟大学の事例における管理運営体制も「同僚制」型に分類できると考えられる。
 札幌大学の事例では、5学部を1学群に統合した背景が述べられているが、「近年の本学は,その社会的期待に十分応えてこなかった。ここ数年は入学・収容定員を充足できなくなり,中長期的には存続すら危ぶまれる事態を招いてしまった」とあるように、明らかに市場で淘汰されてしまうかもしれないという危機感が改編の原動力になっている。このことから、札幌大学の事例における管理運営体制は「市場」型に分類できると考えられる。
 国際基督教育大学(ICU)と名古屋経済大学の事例では、学生に対する教育の提供という視点から制度改革に言及されている。たとえば、国際基督教育大学(ICU)の事例では、従来学生に提供されてきた教育に対する問題提起がなされている(「まだ入学もしていない段階で,卒業後の進路まで見通すことを求めるのは,その間に挟まれた大学教育の意義を,大学自身が否定するにも等しい」)し、名古屋経済大学の事例では「学生本位」の改革を実施したことが報告されている。したがって、本事例では学生が主たるアクター(行為者)として大学の管理運営を支配していると考えることができる。大学にとって学生募集はそのブランド力や資金源にとって重要な意味をもつことから、国際基督教大学ICU)と名古屋経済大学の事例における管理運営体制は「市場」型に分類できると考えられる。
 ただし、金沢大学の事例については、名古屋経済大学を紹介した佐々木先生の論稿において「受験生や在学生の要望に応えようとする問題意識に立った,シンプルな改革」と言及されていることから、「同僚制」型のみならず「市場」型の要素も伺えることを付記しておく。
4.事例の検討から示唆されること
 前項における7大学の事例の分類と比較検討から次のことが示唆される。7事例における組織改編の管理運営体制について、国立大学は「官僚制」型または「同僚制」型に分類できると考えられた。このとき「官僚」型に分類できたのは新構想大学としての設置を目指した筑波大学のみであり、やや特殊なケースであると見られる。また、私立大学は3大学とも「市場」型に分類できると考えられた。これらのことから、組織改編を実施する際に国立大学は「同僚制」型を、私立大学は「市場」型をもちうるのではないかということが示唆される。また、以上のことに規模の大小や歴史の長短、立地はあまり関係しないようである。
 羽田(2008)によれば、日本の大学の管理運営体制は、「官僚制」原理が支配的な国公立大学と「市場」型の私立大学が併存する混合型であるとされる。しかしながら、本稿では組織改編の実施にあたった国立大学の管理運営体制は「同僚制」型によるものではないかという示唆を得た。この示唆は国公立大学の「官僚制」原理の支配を一部支持しないことを想起しうる。他方、「トライアングル」モデルは多分に理念的であるから、整理に有効であるにしてもそのまま実在すると考えてはならないため(羽田、2005)、大学の組織の実施する行為(今回の事例では組織改編)の相違によって支配するアクター(行為者)も交代するのが当然と言えるかもしれない。
5.おわりに
 本稿では、『IDE 現代の高等教育』(2013年5月号)の特集論文を読んで考察したことをまとめた。具体的には、個別に報告されている7大学の事例に着目し、それらに大学管理運営体制に関する先行研究(「トライアングル」モデル)をあてはめつつ、7事例から示唆されることを検討した。ただし、特定の事例に限った上で大学の管理運営体制を論じることの意義については問題があると考える。今後の課題としたい。
札幌大学のように、定員を充足できないことに対する危機感から、社会的評価の向上を目的とする私立大学の組織再編のありようは、私立大学で勤務する筆者が勤務先で求められている感覚とも通ずるところである。また、国際基督教大学ICU)のように、信念(「文化としてのリベラルアーツ教育」)を実現するための意思決定からも、建学の精神を掲げる私立大学としての矜持を感じることができた。

引用文献
羽田貴史(2005)「第3章 大学管理運営論」『高等教育概論―大学の基礎を学ぶ』(ミネルヴァ書房),pp.30-40.
羽田貴史(2008)「第11章 大学の組織と運営」『大学と社会』(NHK出版),pp.136-151.

*1:入れ方がわからなかったので省略しました

*2:入れ方がわからなかったので省略しました