松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

ヤナギフリークが選ぶ、至高のFW・柳沢敦のベストプレー ―大好きなサッカー選手の引退に寄せて―

ついにこの日が来てしまいました。元日本代表の柳沢敦選手が、本日現役引退を表明しました。


Yahoo!ニュース - 元日本代表・柳沢が引退会見 「一生、サッカー人で」 (朝日新聞デジタル)

私はこのニュースを、昼休みに大学時代の友人からのLINEで知りました。

ただ寂しい、その一言です。ぽっかり心に穴があいたようです。これからもサッカーは見ると思いますが、今までと同じ気持ちで見られるかどうかはわかりません。

午後も仕事をしたのですが、自分が仕事をしているのか、していないのか、ずっと変な感じでした。いや、もちろん仕事をしてるんですけど、まるでここにいるのが自分でないかのようで。そのくらい、自分にとっては大きなニュースでした。

私は好きなスポーツ選手がたくさんいます。でもやはり彼は特別です。サッカーが好きになったきっかけの選手です。ずっと追いかけてきましたので、自分の青春の何割かは彼が占めています。

スーパー銭湯や居酒屋のシューズボックスでは、まず最初に背番号「13」を探し、なければ「30」を選ぶ。メールアドレスにも13や30が入っています。結婚されてからは、奥様のブログを毎日読んでいた時期もありました。人生に悩んだら、聖地である「8番らーめん 大泉店」に行きました。そこでお父様に「もし結婚して子どもができたら、敦と名付けてサッカーをさせます」と言ってしまったこともあります(別れ際、がっちり握手して「これからの人生頑張れよ」と言ってくださいました、、)。富山県のことが大好きになりました。

ご本人とお話したことは1回もないんですよね。練習場に行けば、ふつうに話せると思うんですが、恐れ多いです。

柳沢敦の魅力とはなんでしょうか。語りつくすことはできませんですが、プレーそのものと、人間性の2点に大別できると思います。

 

◎プレーの魅力

柳沢敦の特長として最もよく知られているのが、いわゆるオフ・ザ・ボールの動き、特に「動き出し」でしょう。そのタイミング、スピード、動き方、全てが上質だと言われています。共にプレーした日本代表クラスの選手にも、「動き出し」に魅了されたファンが多いですよね。中でも中田英寿中村俊輔は「ヤナギフリーク」として有名です。中村俊輔なんかは、「ヤナギさんと出会うまでは、自分がFWを操ってやると思っていた。でも、ヤナギさんと出会って、自分が操られてるという感覚を初めて覚えた」というような(文言の記憶は不正確ですよ)言葉を残しています。

それからポストプレー。彼がチームに入ると、前線にボールがおさまって、そこから回り始めます。ワンタッチで落とすシーンは腐るほど見ました。

それから、得点力。柳沢は、ゴール前でパスを出す、いわゆるダメな日本のFWの象徴のように語られることもあります。「得点をとることだけがFWの仕事ではない」というのがすごくよく引用されるのですが、本当はそれよりもたくさん「得点を狙う」という言葉を使っていました。そして実際に、すごい数の得点を重ねてこられました。

そのときそのとき、最も得点の確率が高いプレーを選ぶ、チームのために。それが思想信条だったのではないでしょうか。FWでありながら、クレバー。それが柳沢大きな魅力でした。

 

◎人間性の魅力

私はこのように、柳沢敦への愛情をつらつらと書いていますが、少し後ろめたいです。というのも、「俺よりも好きな人、山ほどおるやろなあ」と思うからです。「お前はわかっとらん!俺にヤナギの魅力を語らせろ!」そういう人が本当にたくさんいるでしょう。柳沢敦のゴールは、特別です。ファンに愛される選手でした。

朴訥とした語り口、冷静でおっとりした雰囲気。チームメートを悪く言わない。良いところを見つけ、引き出す。一方、こうと決めたらガンとして動かない、強いメンタルもお持ちです。ファンサービスの丁寧さも有名です(受けたことないけど…)。

柳沢というのは、非常によく叩かれた選手でもあります。一番著名なのは、クロアチア戦の右アウトサイドでしょうが、それ以外にもゴール前で自分の足元にきたボールをスルーして後ろに誰もおらず、トルシエが激怒して、途中出場なのに交代させられたり、中田のパスをシュートしたら真上に蹴り上げてしまったり、叩かれやすい大失敗もありました。でも、そのたびに不死鳥のように復活して得点するのが柳沢という選手でした。失意の2006年ドイツワールドカップから2年、2008年に日本人得点王、ベストイレブンをとったのは印象的です。

 

柳沢敦のベストプレー

そんな柳沢大好きな私が選ぶ、彼のベストプレーをお伝えしたいと思います。柳沢にはたくさんの素晴らしいプレーがあります。最もインパクトがあるのは、キリンチャレンジカップのイタリア戦のダイレクトボレーでしょうか。日韓ワールドカップのロシア戦、中田浩二(こちらも引退ですね、、)の低いクロスをワンタッチで稲本に落としたアシストも捨てがたい。なんぼでもあるんですが、一個だけ選べと言われれば、私はこれを選びます。このプレーには、柳沢の魅力が全て詰まっています。


We love Danilo! - YouTube

これは、2008年1月1日に行われた、第87回天皇杯の決勝です。2-0で鹿島が広島に勝利した試合。このとき、鹿島は5年ぶりのリーグ優勝を果たした直後で、この日7年ぶり3度目の天皇杯タイトルを獲得したことによって、クラブ11冠を達成しました。この試合のダメ押しとなった2点目を、後半35分過ぎに登場した2人、柳沢のパス→ダニーロシュートで獲得し、勝利を観戦者に確信させました。

なぜこのプレーをベストに選んだか。一つは、このアシストがダニーロに向けたものであったことです。ダニーロは、2007年にブラジル・コリンチャンスから移籍してきた選手で、移籍前から非常に期待されていました。ブラジルのジダン、ということで、「ジダニーロ」というあだ名が現地である、という話があったり、実際にユーチューブで検索するとものすごいプレーの動画集が出てきたりしました。

しかし、シーズンが始まるとなかなかフィットできず、26試合に出場して無得点、運動量は少なく、まあボールはキープできるけど…という程度で、動きにもキレがなく、サポーターにもかなり叩かれていました。チームメイトの評価も、おそらくあんまり…加入前の期待がすごかったですからね。そういう状況の中、柳沢は1年間、ずっと彼をかばっていました。いや、かばっていたというより、能力を正しく見抜いていた、と言ったほうがいいでしょう。「ダニーロはボールをキープできるし、いつもいいところにいる。だから自分がボールを持ったら最初にダニーロを見るし、信頼している」ということを、ほとんど唯一言い続けていました。チームメートに、だから同じように彼を信頼しろと。この年柳沢は、鹿島のキャプテンをつとめていました。

もう一つは、このプレーがパスによるアシストであることです。柳沢には、ゴール前でパスを出す、シュートを打たない得点力のないFWというイメージがあるように思いますが、前述のとおりこれは様々な誤解に基づいていて、実際にはかなりの得点をとっています。ただ、パスを選ぶことも当然あります。でもそれは、その方が得点の確率が高いからです。

もう一度動画をご覧ください。柳沢がパスを出す瞬間、解説(たしか、山本昌邦さん)が、「ふふん」と鼻で笑っているのが聞こえるはずです。またパスかよ、と鼻で笑ったのち、全く見えない角度からダニーロが飛び込んできた結果、「ふふん……お、おおおおおお!」というように、ものすごくテンションが急上昇しているのがわかろうかと思います。


We love Danilo! - YouTube

この場面、本当に爽快な気分になります。

つまり、高い場所である解説席の山本昌邦さんからも見えていなかったダニーロの動きが、ピッチにいた柳沢からは見えていたということです。そして、シーズン無得点のFWを信じ続けて、運動量のないダニーロでも必ず走りこんでくると信じて(シーズン無得点なのに)、ひきつけてひきつけて、ラストパスを出す。この視野の広さ、クレバーさ、仲間を信じる人間性、キャプテンシー。これこそが、柳沢敦の真骨頂です。この試合を最後に、柳沢は出場機会を求めて、相思相愛だった鹿島を去ることになります。サポーターへのさよならの挨拶は、ゴール裏にスパイクを投げ込むことで代えられました。

私はサッカーが好きなので、仕事をよくサッカーで例えています。どんなプレーヤーになりたいか。「柳沢敦のようにプレーしたい」そう思って今までも働いてきました。これからもその思いは変わらないと思います。

最終節、広島に行きたいのですが、既に仙台で予定が入っているので、諦めます。本当は何があっても駆けつけたいのですが、やはり自分はもう、誰かの仕事を応援するというよりも、自分の仕事に一生懸命にならねばなりません。

柳沢選手には、長年にわたって素晴らしいプレーを見せてこられたことに、心から敬意を表したいです。本当におつかれさまでした。そして、ありがとうございました。

最後に1点、決めてください。