松宮慎治の憂鬱

このブログの情報は古く,今後更新しませんので,特に教職課程関連の参照元とすることは避けていただければと思います。ご迷惑かけます。2023.2.19

「『教学マネジメントの改善と学修成果』~学生支援型IRの可能性」に参加

標記のシンポジウムに参加しましたので報告します。こちらのシンポジウムは、大学間連携共同教育推進事業(『主体的な学びのための教学マネジメントシステムの構築』)の補助金を使って開催されています。


主体的な学びのための教学マネジメントシステムの構築|関西国際大学

大学間連携共同教育推進事業というのは、大学間連携GPと呼ばれていまして、複数の大学間で同じテーマの取組を相互補完的に推進するという性格を持っています。こちらの事業『主体的な学びのための教学マネジメントシステムの構築』は、関西国際大学淑徳大学北陸学院大学くらしき作陽大学の4大学連携で実施されています。

私はこの事業にはとても関心があって、大学教育学会の発表でも要旨集の中で引用させていただきました。関心がある理由ですが、IRを行う時に集合データではなく個人パネルデータを使っていることが大きいです。集合データというのは、たとえばA大学の1年次生とB大学の1年次生を分析して比較する、といった形で使われています。一方、個人パネルデータというのは、個人とデータが紐づいているので、究極的には「この学生にはこういう支援が有効である」という個別のアドバイスを行える可能性を秘めています。私は職員なので、単に現実をデータで見せるのではなく、実務で応用できるかどうかというのが気になるのですが、この取組は個人パネルデータをベースにしていることによって、実務における応用がしやすくなっていると感じています。

なお、この事業が選定されたとき、審査委員からは次のようなコメントが付されています。

中教審の審議のまとめに示された提言を具体的に教学マネジメントシステムに落とし込み、達成目標と評価の方法を明確にして取り組まれる先進的な提案である。教育方法、学修成果の測定、教学マネジメントの確立と、取組が体系的な点や、達成目標3点について、具体的な 数値目標が掲げられ、指標と基準が明快である点が評価できる。 この成果は広く、他の大学にも参考になると思われる。しかし、不十分な点も見られることから、事業実施に当たり以下の点について対応することが求められる。 ①関西国際大学が中心となり取組を推進する印象を受けるため、他の3大学が強みを活かして担当する事項を明ら かにすること。」(「大学間連携共同教育推進事業選定委員会」(委員長:八田英二(学校法人同志社理事長・同志社大学長),赤字は松宮)

ところで、この大学間連携GPというのは、国公私立の設置形態を超えることができる、というのもその特徴です。私も以下の事業において補助金の管理と執行をしていますが、ここでは、国公私の3設置形態の大学が協働しています。


教員養成高度化システムモデルの構築・発信

補助金事業というのは国民のみなさまの血税を使っていますので、その管理・執行というのはとても大変で気の遣う、重要な業務です。日の目が当たることは基本的にないと思われる、管理・執行にあたられている職員の方々に敬意をまず表してから、本日のシンポジウムの内容を以下に報告します。例によってメモ程度ですが。

最も驚いたのは、文科省の審議官が大学職員の専門職化(いわゆる第三領域における能力開発)について、設置基準に明記したいというかなり踏み込んだ発言をされたことです。中教審大学分科会大学教育部会(第31回)における配布資料1-1「職員の資質向上等に関する論点」と同じゾーンの話であり、ここまで具体的に職員の役割が政策資料で例示されるのは初めてなので、今後も要注目です。

大学教育部会(第31回) 配付資料:文部科学省

ではでは、以下内容です。

掲載にあたり許可は得ておりませんので、掲載そのものに関する問題、あるいは登壇者の皆様のご発言で私の認識違い等ございましたら、ご指摘ください。

 

日時:2014年11月22日(土)13:00~17:10

会場:関西国際大学尼崎キャンパス

テーマ:『教学マネジメントの改善と学修成果』~学生支援型IRの可能性~

内容:

①基調講演「主体的な学習者育成のための教育改革」(大学教育学会会長 北海道大学名誉教授 小笠原正明氏)

・2010年代の高等教育は主体的学習というキーワードで始まっている。この主体性論争が具体的で政策的なものであるということを期待する

◎外部委員としての本事業への印象

・正確の異なる4つの大学が共同して教室内外のアクティブラーニング化に取り組んでいるのは画期的である。ルーブリック等のアセスメント方法の開発と組み合わせてアクティブラーニング化を推進する方針は時宜を得ている。教養的科目やキャリア教育科目で成功したら、次の段階として学士課程の柱となる専門教育へ行ってほしい

・このようなコメントを外部評価委員として出したが、これらは結論に過ぎないので、今日はこれら結論の背景を説明したい

◎質の高い学士課程教育とは

・「教員と学生とが意思疎通をはかりつつ、学生同士が切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら知的に成長する問題解決型の能動的学修(アクティブラーニング)によって、学生の思考力や表現力を引き出し、・・・」(平成24年度中央教育審議会大学ウンカ会大学教育部会の『審議のまとめ』より)

・1960年代の前半においても、教養から専門に上がった時に、同じことを言われた個人的記憶がある。講義をただ聞いているだけではダメだ、質問をしなさいと。授業で学んだことは20%くらいで、残りはそうした討論で形成されたと思っている。ノーベル賞を受賞する学者が、勉強というものは自分をするものだというが、背景にはそういうことがある

・したがって、私にとってはこのような議論は見たことがあるものだ。結局、近代大学のパラダイムは変わっていないのである

・昔と変わっているのは、高等教育ツールが多様化していることである

高等教育ツールの多様化

・アクティブラーニング、HIP、グループワーク、ディスカッション、プレゼンテーション、サービスラーニング…ここにいる方はよくご存じだと思うが、これらの概念は平面的に並べるのではなく、階層化しなければならない

◎階層構造による整理

・上位の概念は、HIPとIR。これらのツールがそれぞれたくさん発達している。これらをどう使っていくかというのは、学士課程の性格しだいである。階層化してどう適用するかを考える時には、学士課程の性格を考えなければならない

・なぜこのようにツールが発達したのか?19世紀当時の大学は学生組合の力が非常に強かった。学生組合における討論はグループ学習に変わった。チューターの指導は教員のオフィスアワーに変わった。学生組合の建物は、ラーニング・コモンズに変わった。かつては自然に形成された学習環境を維持するために、今はお金も人もかかるようになった。そうした歴史的認識を持っている

◎日本の大学/大学院の構造

高等教育には職業系と基礎学術系があることはよく知られている。日本の場合は、ここに「実学系」が加えられる。職業系は、典型的には法科大学院ビジネススクールを指す。学士課程となると、医療系の看護学、検査技師の養成、これらが職業系スクール。基礎学術系は、一般にはカレッジと呼ばれる。典型的には理学部や文学部である。これは分かりやすい。アメリカやヨーロッパでも学士課程で基礎になっている。一方、「実学系」は複雑である。典型的には、土木、建築、機械、電気といったスクールがある。これは、それぞれの技術者なり研究者に密着したスクールであり、資格を伴っている。したがってこの場合難しいのは、教養養育をどうするかということ。スクールとは別建てで教養教育を立てることになる。これらの専門の先生は、一般教養の先生に頭が上がらなかった

実学系の元をたどると一定の職業を前提にしていたが、今はそうではなくなり、さらに占める割合も増えている

・日本の高等教育は「追いつき追い越せ型」。国家の政策誘導によって学部・学科が増設された。そこで、学術的過程と職業的過程の未分離・混在が生まれ、学術的デパートメントが未成熟となった。結果として、580に及ぶ学科名の種類が生まれ、国際的な対応関係を失った。ここから、脆弱な基礎的学術分野の教育、細分化した縦割りカリキュラム、学科における自給自足主義、教職員の過重負担等の問題が発生している

◎基礎学術分野の教育戦略

フンボルトの理念と潮木の解釈「知識をいまだ発見されていないもの、たえず研究されるべき対象として追及せよ」「〔前略〕教師だけではなく、学生もそうしなければならないと彼は言う」「一種の知的コンミューン」「ここには『学ぶ学生』ではなく、『研究する学生』という新たな考え方が登場する。つまり学生は学ぶためにだけ大学にいるのではなく、研究をするために大学にいるのだという考えである。」(潮木、2006)

構成主義による現代的解釈「学習者たちがそれぞれの中に存在する概念を中心に、自分自身の理解の仕方で知識を組み立てる―学習者にとっては研究と発見の過程」(卒業生がすべて研究者にならなければならない、という意味ではない

・基礎学術系には、変わらない教育精神と枠組みがある。中でも標準化された厳格な試験制度は有効である。ディスカッションやオフィスアワーも、基本的には試験対策である

◎職業的分野の教育戦略

・職業的分野では、職業的レリバンスがカリキュラムの構造を決める。イギリスの大学では外部の職能団体が大学のカリキュラムを決めている

・医療系の大学では「教養教育をどうしたらいいのか?」と聞かれる。色んな方法があるだろうが、職業系の課題は、教養的教育の構造化にある。倫理による医療系教養の構造化を考えた場合、職業倫理に密着する必要があるだろう

◎「実学的」分野の教育戦略―これが問題!

・何が問題か?一つは数が多いことである。枠組みの特徴として、1)複数の伝統的学課の科目の組み合わせ 2)スペクトルが広い:基礎学術分野から職業分野まで 3)多様な職種への対応を目指す、といったことが挙げられる。このことによって、以下のような問題が生じやすい。1)教育目標の拡散←ワンセット主義の放棄 2)カリキュラムが過重(理工系の場合、下手をすると学士課程における完成を前提としていない) 3)内部でさらに専門分化する傾向 4)共通の(目に見える)達成目標を設定しづらい 5)カリキュラム管理が難しい

実学的分野のカリキュラムの例であるが、3年次後期が非常に厳しい

・教育目標が拡散し、カリキュラムが過重になるという問題がある。解決しなければならないことは、そのカリキュラムが特定型なのか汎用型なのか、ということ。どちらかにしたいが、社会で広く活躍してもらうためには選びにくい。そうなると、カリキュラムは一般に総花的になる。科目には学士課程として達成すべきレベルがあるものの、特定の科目を重点化することは難しい

・構造的問題として、就活による卒業研究の蚕食、コースワーク配分の不均衡、単為計算の欺瞞などがある

・たしかに卒業生は「材料・金属工学」「電気工学」「機械工学」「計算機科学、応用科学」の全てができた方がいい。でも、全部やろうとすると破綻する。したがって、こうした縦軸に「問題解決能力」「工学リテラシー」「プレゼンテーション力」「リーダーシップ」といったコンピタンスを横軸として刺し、この中でどのレベルを目指すのかを考えることが一つの案である。これを、縦横のネットワーク化による職業的レリバンスの獲得、と呼んでいる

◎HIP化の手順

・手順は以下の7つである。1.学部・学科の性格の把握(基礎学術系、職業系、実学系)→2.教育学習戦略の選択→3.教育課程のスリム化(教育目標を明確に)→4.卒業研究の位置づけ、単位配分(「ラボワーク」化:学年分散、重点化して教育課程として構造化:総単位の4分の1を卒業研究にするなど)→5.コースワークの均等配分→6.コースワークの重点的AL化(必要なツールの整備、研修)→7.教育課程全体のHIP化

・全て、教育負担を考慮した改革でなければならない

◎大型クラスの学習支援がポイント

・大型クラスの学習支援がポイントである。図式化すると次のとおり。200人までは合理的にアクティブラーニング化できる

《ALの要素》      → 《対応する支援ツール

1.学習マネジメント →  ラーニングマネジメントシステム(LMS)

2.テキスト     →  ハードコピー/オンライン

3.演示実験     →  実験補助チーム、映像システム

4.討論       →  討論支援チーム、ラーニングコモン

5.            討論室付の図書館

6.調査       →  図書館利用、データベース検索研修

7.チュータリング  →  オフィスアワー

8.レポート     →  オンライン提出、フィードバックシステム

9.            ライティングセンター

10.評価      →  ルーブリック、評価支援チーム

◎まとめ

「主体的学び」は新しいものでもなんでもなく、古くからある概念であり、高等教育の生命線である

・主体的学びの実践的意味は学士課程の「文脈」により異なる

・基礎学術系教育のパラダイムは不変である

・職業系教育は職業的リレバンスが内容を決定する

実学系教育は概念的整理(ディシプリンに基づいた縦方向の流れ、リテラシー、問題解決力などコンピタンスに基づいた横方向の教科、縦横の教科による職業的リレバンスの改善)が必要

・HIP化は戦略的に重点的に行う必要がある

◎質問

・人文・社会系の場合の扱いはどうなるか?(関西国際・濵名先生)

→理工系しか取り上げなかったのは、人文・社会系を取り上げると馬脚を現すと思ったからだが、実は理工系と全く同じだと思っている

・理論的枠組みが分かりにくい分野もある。ディシプリンに基づいたカリキュラムマップを考え、内省しながら考えていけばよいか?(関西国際・濵名先生)

→国際的なディシプリンしか頭にない。同じ学科名がなくなるとすれば、それはディシプリンの融合や新しいディシプリンの立て方が失敗したということ。新しい学科を立てるのであれば、それは、今後も継続される新しいディシプリンになりうるという考えを持たねばならぬ

フンボルト理念の解釈は、エリートの時代に作られたモデルで、研究を中心にということでとらえられがち。中教審ですら、エリートモデルで古いと言っている。しかし、ユニバーサル化した時代にあっても、アクティブラーニングやラーニングスタディーを強調するならば、大学の教員は研究を担保して初めて、学生はラーニングからスタディーに変わっていけるのであるくらしき作陽・有本先生)

 

②各連携校より本取組の中間報告

➢大学間連携事業~中間報告(取組担当者 関西国際大学学長補佐 藤木清氏)

・HIPの充実として、教室内と教室外を分けて考えている

◎教室外

・教室外体験プログラムを各連携校で整備したが、連携校で要件を一定程度そろえる必要があると思われたため、「学生の主体的な活動と学修成果の獲得を意図した教室外プログラムの要件」を作成し、プログラム作成時の指針及びプログラム評価への活用を目指した

・本学の事情であったが、インターンシップを選択必修化することを考えていて、それら1人ひとりに教員がつくことが難しいため、遠隔指導システム(リフレクションカレッジ)を開発した。これは、担当者が引率しないプログラムの活用を想定していて、実習前、中、後ろで、毎日の振り返りと受け入れ先からのコメントを記述し、前後にアセスメントテストを設けるものである

・リフレクションカレッジを活用した学生の声は好意的である。ネガティブな意見もあるが、どちらかといえば使い方の部分による意見である

・アセスメントテストでは社会人基礎力をベースにしている

・必修となっている「グローバルスタディー」は、卒業までに1回は海外に行かなくてはならないので、計画的に考えねばならない。できれば2年次で行って欲しいと思っている。成績が振るわない学生ほど、なかなか行かない。参加した学生の方が学習面でうまくいっていると感じている。計画的にできる学生は早いうちに参加する

◎教室内

・教室内アクティブラーニングを各連携校で導入するため、「学生の主体的な活動と学修成果の獲得を意識したアクティブラーニング型授業の要件」を作成した。連携校で全体としては何らかのアクティブラーニングを実施しているが、すべての要件を満たしている科目はまだまだ少ない。本学においても50%程度である。特に、学生同士のコミュニケーションの機会を設定しているものや、授業全体の途中で形成的評価を取り入れ、口頭や記述によりフィードバックを行っているものが少ない

・従業外学習時間の推移であるが、1日平均30分未満という学生は確実に減っていて、勉強しない学生は減っていると言える

◎HIPの充実に関する気づき・課題

・授業では、グループワークやプレゼンなど教育方法の工夫としてのアクティブラーニングの導入が進んでいる

・授業時間外学習も設定されつつある

・グループで行う授業時間外学習のさらなる充実

・授業デザインやフィードバックに関するFD(教員個人レベル、科目レベル)は継続的に必要

・HIPはどう構造化するか(学部学科レベル、大学レベル)

◎学修成果の評価方法の開発

・ルーブリックとテストを開発しているが、この連携事業ではルーブリックに重点を置いている

◎ルーブリックに関する再認識

・形成的評価ツールとしての活用が必要である。すなわち、コメントの書き込み、口頭での個別フィードバック、再提出の機会の設定など

・効果の高いルーブリックの使用法の共有が必要。どうしても評価方法に目が行くが、目標が実は重要である。目標、活動、評価の三位一体を意識しないと使えない

・チームティーチング科目、あるいは目標・活動・評価を連携する科目間では、カリブレーション(すり合わせ)が重要になる

・チームで新たにルーブリックを開発するとFD効果(目標、教授方法、評価の視点)が高まり、組織的教育を実現することができる

◎教学マネジメントの確立

・教学マネジメントシステムのイメージとして、達成度の評価をかつてのように一発で判定するのではなく、経過も含めて評価していくことが必要である。大学が目標とする学習効果を設定し、達成に必要なハード・ソフト両面の環境を整備・充実させていくイメージを持っている

淑徳大学におけるサービスラーニング教育の展開(淑徳大学 学長特別補佐/コミュニティ政策学部教授 磯岡哲也氏)

サービスラーニング教育とは、社会の現場に主体的に参与・参画しながら貢献することで、その実感を得ながら、自分自身も成長していくことができる教育方法である

淑徳大学ではワークショップ形式での取組を重視しており、自主型のプロジェクトを推進している。例:千葉県委託事業「元気な高齢者の地域活動等促進事業」、地域特産品を活用した商品開発、千葉市中央区地域活性化支援事業補助金対象事業、よしもと劇場コラボプロジェクト、千葉駅前イルミネーション企画

➢初年次教育におけるPBL型授業の実践と課題(北陸学院大学人間総合学部社会学科学科長 俵希實氏)

・MIP(Mission Innovation Project)を紹介する。これは1年次対象の実践型人材育成プロジェクトであり、1)企業の実務担当者から、実際の現場で直面しているのと同レベルの課題が出され、2)学生はその企業の社員になったつもりで課題に臨み、3)学生はグループになって課題に向き合い、中間発表、最終発表を行い、4)学生の発表に対し、企業の実務担当者が社会人の目線で厳しいフィードバックを行う、ものである

・課題として、学生側からはフリーライダー問題、教員側からは評価方法があがっている

・何も言わなくても一生懸命取り組む層と、全く関心を示さない層の中間層が重要である。彼らがやっていくうちに積極的に取り始めることが、必修にすることの意義である。今後は協力企業を拡大しながら、2年次以上における発展型の取組を検討する

アセンブル―・アワーにおけるルーブリックの活用(くらしき作陽大学子ども教育学部助教 田﨑慎治氏)

アセンブリー・アワーとは、月例集会、ホームルーム、ふるさと集会、各種講座・行事等を行う、全学の一体感の醸成を行うものである

➢教学マネジメント全国調査(くらしき作陽大学学長顧問/KSU高等教育研究センター所長 有本章氏)

・教育担当副学長か全学教務委員会委員長に回答を依頼した。各大学におけるALの周知は今一つであるが、国立は少しリードしている。公立が一番あと。全然やっていないところはあまりない。ラーニングからスタディー(主体的学修)への転換もまだできていない。ルーブリックについては、全体としてやっていないところがほとんど。ラーニング・ポートフォリオもできていない。しかし、124単位については遵守されていて、このことには疑問がある

 

③パネルディスカッション「教学マネジメント改革と学修成果の可視化」~その可能性と課題解決にむけて~

《パネリスト》

文部科学省大臣官房審議官(高等教育担当) 義本博司氏

大学教育学会会長/北海道大学名誉教授   小笠原正明氏

独立行政法人大学入試センター 教授/試験・研究副統括官 大塚雄作氏

関西国際大学学長             濵名篤氏

《司会》

淑徳大学高等教育研究開発センター准教授  芹澤高斉氏

《発表》

➢「教学マネジメント改革と学修成果の可視化―現状と課題―」義本審議官

・大学は多様なので難問である

・質的転換答申では、好循環の確立を求めている。例えば主体的な学びや学習時間の確保、成果の把握、学位プログラム等、すべてが連関していくことを目指す、そのきっかけとして答申を出した。きっかけにはなったが、まだまだ課題はある

・全国の大学でどのように広げていくのかを考えている。そのために、大学教育再生加速プログラム(AP)を25年度から始めた。これまでのGPとは異なり、大学自らが改革していくことをベースにしている。こうした、学士課程答申でいう基礎基本を前提としている。また、具体的な成果を出していただくこと、そして各大学で内製化していただくことを求めている

・可視化については、分野としては工学系が多く、人社系は取組がすくない。あったとしても小規模大や単科大学が多い

・学修成果の可視化に関する国際的な動きとしては、1)OECDにおけるAHELOフィージビリティ・スタディ 2)欧州を中心としたTuningの取組 があり、これらを参考にしようと思っている

・今後の方向性としては、「教学マネジメントと改革サイクルの確立」「学習成果の可視化の実質化と定着」の2点が必要である

高大接続答申については、日本史の必修化や大学入試の変更ばかり報道されていると思うが、実は学習活動と評価をセットにすることで指導要領の構造を変えていこうというのがポイントである。大学入試のせいにして高校教育を変えないということはやめにしよう、ということは高校関係者も言っている

・さきほどの有本先生の発表に象徴的だが、124単位が遵守されているというのは、設置基準に明記されていて、かつ非常に分かりやすいことがその理由であると思われる。設置基準にははっきり書いていないが、3つのポリシーをはっきり位置付けて大学に働きかけを行いたい。悩ましいのはアセスメントポリシーである。設置基準には強制力が働くので、ここでの位置づけをするかどうかという点についてはどうしても保守的になってしまう。個人的には促進するような規範的な仕掛けが必要だと思っている

➢「学習成果の可視化ということ」大塚雄作教授

・質的転換答申は、主体的学びをもたらすだろうか?日本人の大学生は週4.6時間しか学んでいない、かつ予測困難な課題に取り組む必要がある、ということが書かれていたが、内実は手とり足りの政策が示されていて、本当にそれで学生の主体的学びが実現するのか?という疑問を持っている

・高大接続の答申には、相反するものを実現するという形になっている。示された学習指導要領にもアクティブラーニングが頻繁に出てきている。アクティブラーニングというと一方向の授業をやってはいけない、というような形から入っているのではないか。グループワークやグループディスカッションをすることがアクティブラーニングであると誤解され、形だけが広がっていくのではないかという危惧を抱いている。アクディブラーニングやハイインパクトプラクティスなどの主旨は、授業の方法を変えるだけで実現できるのだろうか?個人的には、昨年度までいた京大のアメフト部のようなクラブ活動、ああいうものがHIPではないかと思っている。日本一をめざし、厳しい練習を乗り越え、最後の試合後に振り返る。部員の8割は留年していたが、全員がいいところに就職していた

◎意欲をもたらす三要素の心理学的分析

・1)学習の始発因=自己決定性(その活動を自ら選んで実行しているという感覚)、2)学習の行動因=自己効力感(その行動をやろうと思えばできるという感覚)、3)学習の結果因=行動-結果の随伴性認知(行動すればその目的となる結果が得られるという感覚、何のために学習するのかの認知)

・教師が「やればできる」と言ったとしても、それは先生だからできるということになる。仲間がやっていることを見て、やればできるとなることが効果的。つまり、これらのことを促進させる一要因として、学習共同体(Learning Community)・人的ネットワークなどの形成を挙げる

◎学修成果の可視化とは何か

・可視化というのは、量的に評価することとは限らない。一時限的な尺度は複雑な対象の多くの側面を捨象してしまうので、背景の質的情報の付加が肝要である。また、量的指標はある目標を共有するコミュニティないにおいて見えてくるものである。1人で求める量的指標はゲームや遊びにはなっても、学びにはならない

PISAでは、日本の子どもたちは白紙回答が多いという話があった。でも、PISAというのは公式ルールによって高校1年の7月にやっていて、高校の期末テストが終わった後に一クラスだけ残されてやっている。白紙回答が多いのは当然と思うことができる。こうした質的な指標を考えることが大事

・もちろん量的指標も大事。その数値がどこから出てきているのか?を共有できるコミュニティにおいてはじめて有効になる。洛南高校の桐生くんの出したタイムはコミュニティ内で価値があるのであって、だからあなたもそのタイムを出してくださいということに意味はない

◎学修成果をどう評価するか?

大学入試センター開発の総合型テストの目的は、「言語運用力」「数理分析力」試験は「大学での学習に必要な基本的能力の測定」としていて、到達度とイコールではない。試験の妥当性検証や安定性の確認のために、定点観測データとして収集・蓄積していくこと自体は非常に有意

・学修成果はそれぞれの専攻・文脈の下で領域固有の形で見ていくことが原則である。つまり、学習共同体で共有される目的・目標を評価基準とすることが大事である。アセスメントポリシーはコミュニケーションのツールであり、一方的に突き詰めるものではない(例:イギリスのPersonal Development Planning、ポートフォリオを利用した指導・学習機会)

・ルーブリックの活用は、教員同士、教員と学生同士、どう学習を進めていったらよいかの意見交換の素材としてむしろ機能させた方がよい。すなわち、学習共同体の形成と発展のためツールとして活用していくことが必要である

◎教学IRをどう組み込むか?

・多様な学生に関するある側面を切り取った指標の全体的平均などが何を意味するかは微妙である。ここの学生への対応には一般的処方箋があるわけではなく、それぞれに応じた個別の対応が望まれる

➢「学習成果をどのように身につけさせ、評価していくのか」濵名学長

◎学修成果の捉え方とその移送

・学習成果の測定同じことを言いながら別のことを想定している事例が多い。Institutional Level(大学として)、Department Level(学科として)、Program Level(科目として)

・量的な尺度を用いているかどうかは別として、エビデンスを活用し、学生自身や社会を納得させたうえで、教育改善に有効活用されるのが学修成果の可視化である

◎本プロジェクト開始後の気づき

・米国の大学がすべてうまくいっているわけではない。自分たちの学習ベンチマークを3段階評価にしていたが、日本人は3段階評価だとどうしても真ん中につけてくる。奇数ではうまくいかない。尺度設定を変えたいと思っていて、3段階評価の上を作り、レベル4を示した

・教育活動や返却型feedbackはしていても、reflectionが不十分である。Reflectionをするための手続きが必要で、アドバイザーの教員が1人ひとり対応することにした。アクティブラーニングの最大の効果はインタラクティブなreflectionによって生まれる

・1学期に学生が履修する科目が10科目なら1科目へのエフォート率は10%、12科目なら8%にすぎない。学生を学びに集中させ、効率的に学ばせるためには、学科(学位プログラム)単位での方略が必要。しかし、科目間「連携」には義務感が伴うことから限界があり、学年・学期のテーマを定めての統合(integration)が必要である

・プログラムの「場」から学べることも重要だが、「問題設定」から学べることの方がより大きい。つまり、プログラムの最中に何回リフレクションを行うことができるのか、が鍵になってくる

・アクティブラーニングはアクティブなファカルティでないとできない。また、形ではなく、ディープな学びが必要である。やはり振り返りが必要。さらに、難しい課題が効果的であり、「うちの学生にはできない」と言ってはだめ

・学生の個人データを共有することは小規模だからできる。うまくいっている学生や科目を見て、なぜうまくいっているのかを見るような謎解きをしたい

・学生に企画してもらうFDはやらない。でも、学生を入れたFDはやる。学生の声を聞くことが重要だ

・精緻なデータを探すよりも、何かを変えてみることが重要だ

・どれか一つではなく、評価の方法の多元化とその組み合わせが重要だ。目標にあった評価方法の組み合わせ(Assessment Plan)から我々が何を生み出すのかを考えなければならない

◎直面する課題

・大学の成績の社会的通用性の低さ。就活で出遅れ、立ち止まる学生の存在、Reflectionや学生のファシリテーションの方法改善など

◎教学マネジメントをなぜしたいのか?

・学位プログラムの目標の共有と、自分の担当科目の目標の確認、科目目標に応じた内容、方法、評価の実践が必要

・学生は学習の専門家である。自分が受けた大学教育をベースに想像してはいけない。学生の成長にとってハイインパクトであることが重要なのであれば、ディープラーニングを行った上で振り返ることが大事

 

《ディスカッション》

◎質問

インターンシップやグローバルスタディーなどに馴染まない学生は、無理を強いて不適応を起こさないか?(宮城大学木村先生)

・非常勤比率が高い中でHIPを進める方法は?(室蘭工大安井先生)

・学生同士のピア評価はルーブリックで行うことか?(記名なし)

・教育改善や自己点検・評価が一元化していることが必要だと思うが、現状ではズレているのでは?(不明)

・教育環境はよくなっているのに、効果があがっていない原因は?また、理系教育の文系教育への水平展開はどのようにすれば可能か?(大阪工大長谷川先生)

・全学レベルでのPDCAの工夫づけはどのようにすれば可能か(記名なし)

◎回答

ディシプリンによって色々違う。日本におけるディシプリンは何か?という問題が大きいが深入りはできないので、評価の可視化についてつけたしのコメントをしたい。アクティブラーニングの問題は突き詰めると評価の問題であり、さらに突き詰めるとそれは教員の課題設定であると考える。教員の課題設定能力の問題もあるが、ネットと戦わなければならないという問題もある。評価というのは教育の場における教員と学生のコミュニケーションであるということには賛成だが、なんといっても人出と時間がかかる。これを解決しないと、やれやれと言ってもできない。理系ややりやすくて文系は難しいと思っていたが、欧米ではむしろ文系の方が面白いアクティブラーニングをやっている。大きな講義があったらディスカッショングループを設定するのはむしろ当然になっている。難しいからできないのではない。やらなかったからできなかった。欧米でできなくて日本でできないわけはない(小笠原先生)

・自己点検評価・認証評価と教学マネジメントの連携について、たしかに十分ではないと考えている。負担の問題と、つながっていない部分の解消が必要である。一つは、今の仕掛けは手間がかかる。それはそれで大事であり、ダイアログとしてやった方がいいが、データをもってエビデンスをもって何かを語るということには、データ整備やIRの整備に伴って、簡素化した方がいい。量的な目標と定性的な目標は一緒に考える。目標を設定するときには何をベンチマークにするのかというKPIが必要ではないか。以上のことを行うにはインフラの整備は必要である。学内のデータすらとれないという国立大学もある。それから、IRを担当するような専門家の養成が必要。これらについても設置基準を改正しようと思っている。ファカルティと事務職員の間の専門家、教学マネジメントの専門家の育成を支援していくようなことを、設置基準等の整備で行いたい。税金を多く投入している国立大学については、IRは全ての大学でやる、専門家も置いてもらう(義本審議官)

・評価の制度の中で感じていること。大学それぞれの持っている目標がどう達成できているのか、順調に進んでいるかどうかを見るというのが評価だが、目標そのものは大学によって違うし、高低は見ないということで始まったものだ。しかし、こうした評価は非常に手間がかかる。例えば定員問題。±30%を超えると改善のところに書かなければならない。事情に応じてやっていかなければならないところを、数値的な基準を設けることによって機械的に行われていることが怖い。ルーチン化している。当初は一つひとつの大学について手づくりの評価をしようというのがスタートだった。今のやり方だと評価のための活動が推奨されてきてしまう。IRを進める時には、全学でどうかということには意味があるかどうか、慎重に見なければならない。特徴ある下位集団をうまく絞り込んで、その中の統計量でうまく評価していくことが大事なのであって、全体の平均値をターゲットに施策を打っても、効果がないということになるだろう(大塚教授)

インターンシップ、グローバルスタディーについていけない学生。これはいる。一番多いのはフィジカル。障がいを持っているとか。これはなんとかなる。メンタルのところであるが、今のところグローバルスタディーでついていけない学生は今のところいない。関西国際大学は全ての人にとって良い大学ではない。自らの特徴をAPで打ち出していくことでこれは解決する。それから、非常勤が多い中でのHIPは一定程度可能である。関西国際では非常勤対象のワークショップをやっている。また、全ての基準が共有されるのが大学の評価ではない。活性化するためには、認識と方法の共有しかない。例えば、グローバルスタディーの報告会を学生にさせているが、これはダメだと思った。教員の力量によって差が生まれているので、教員同士の交流が必要だ。評価に自らも参画するという意識をもってもらうことだ(濵名学長)

→やらない理由を考えるのが天才的な人がいる。ある程度国が悪者になってもやらなくちゃいけないことがある。一方学内のことを考えても同じ話だ。ある学部をやってもある学部はやらない、こういったことは情報公開がベースだ。暴論かもしれないが(義本審議官)

大学の教員の負担はすごく増えている。これが、改革が進まない一つの要因になっていることも忘れてはならない。あれもこれもと付け加えるだけでは苦しい。何かを付け加えるならここは柔らかくしよう、といったバランスが欲しい(大塚教授)

→設置基準の解釈は変更した。機械的に15回の授業を示すことはおかしいと思っている。負担の問題はおっしゃる通りだ。色んなリソースをどううまく使うのか。なぜ先生が全てやらなくてはならないのか?外部の力や専門的なスタッフの力が必要。事務スタッフや運営スタッフとどう協働するかということが必要になる(義本審議官)

→今の学生には夏休みがない。日本の学期制の矛盾である。4学期制がいいとは言わないが、何らかの形で夏休みを作ってやらないと、高等教育も就活も成り立たない(小笠原先生)

インターンシップの議論は今後中教審でも議論になる。数日しかやらないなんちゃってインターンシップではなく、場合によっては有償のインターンシップを行うこと、そういったことを来年中教審で議論する(義本審議官)

・社会に対する学修成果の可視化の示唆、期待を教えて欲しい(芹澤先生)

→究極的には卒業生が活躍してくれていること。学んだことを生かしてくれていること。それを考えていかなければならない。その際、色んなものを組み合わせていき、じょじょに組み立てていくしかない。また、色んな形で発信をよくしていくことが必要。そのときには、エピソードとストーリー。学生が変容していく姿を上手に伝えるということがポイントだろう。こういうことが可能になる「AP+(プラス)」という事業を予算申請している(義本審議官)